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一般列車の団体利用における問題点
輸送力を考えない利用を容認するのはなぜか


押し寄せる団体客(餘部)


近年人気のツアー形式の団体旅行。
コスト面から貸切バスでの移動が専らで、列車での移動は新幹線など遠くへ行くときくらいです。
しかしこうした団体旅行において、ある形態での鉄道利用が増えてきているのですが、それに伴う弊害も目立っているのです。

※写真は2005年9月、2010年7月撮影


●団体旅行花盛り
個人旅行が増えてきたといっても根強い人気があるのが団体旅行です。
団体旅行といっても企業などの大人数の集団ではなく、旅行者が主催するツアーに個人やグループなどで参加する形態が主流で、お手頃な価格設定も手伝って、新聞に連日広告が掲載され、人気のコースはすぐに埋まるような盛況です。

こうしたツアーは価格設定の要請もあり、貸切バスでの移動が大半で、移動手段として列車が起用されるのは、遠くへ行くようなときに新幹線を使うくらいです。
それも「新幹線グリーン車利用」と銘打って、実は乗車区間はわずかであとの大半がバス(関西発だと新大阪−岐阜羽島間利用は定番です)というケースも目に付きます。

●ツアーが鉄道を使うとき
ところがこうしたツアーが鉄道を利用するケースが増えています。
しかしそれは定時性や快適性で移動手段としての鉄道が再認識されてきたということではなく、鉄道に乗ることが観光になる、という場面での利用なのです。

ちょうど観光地で観光スポットに立ち寄るような感覚での利用。もちろん乗ること自体を目的とするような観光鉄道は黒部峡谷鉄道をはじめとして存在するわけで、そうした利用も不思議ではないですが、最近目立つのはそうした「観光専用」の鉄道ではなく、一般路線の利用なのです。

そうした鉄道が観光利用に対応して専用編成、専用車両を用意しているケースもあります。津軽鉄道のストーブ列車などはその最たる例でしょう。木次線の「奥出雲おろち号」もこうした団体利用が多いようですが、こうしたケースでも団体が指定券を押さえてしまい一般客が利用しづらい、という問題はあります。

団体客が乗り込む「奥出雲おろち号」(備後落合)

20年以上前、今は無きのと鉄道能登線に試乗したとき、時刻表に掲載されている臨時列車の「のと恋路号」に乗車しようとしたところ、駅員に、確認もせずにけんもほろろに「団体で満席」と断られたことがありましたが、旅行社に枠を押さえ切られてしまい滅多に乗れないというケースは数限りなくあるようです。

●ツアーによる利用の変質
そうしたケースの変形として、基本的にツアー用に運行される列車の一般枠の問題がありますが、これは運転区間、運転日ともに突発的、一時的な見るからに「特殊」な臨時列車であり、一般枠が少ない前提もある意味お約束ですから、いかにも一般旅行者でも乗れそうな感じで宣伝しているというものでも無い限り、問題視すべきとは思いません。

ところが昨今目立つのは、一般列車の一般列車に乗ってくるケースです。
バスを仕立てるような団体利用であれば一般列車の1両分、座席定員なら1両以上の輸送量となるのですが、特に増結、増発も無く、乗ってくるのです。

まあ普段から乗客もいないようなローカル線なら文句もないですが、ツアーが目をつけるくらいですから、当然一般の旅行者にとっても魅力な訳です。一般の旅行者が公共交通で延々とお目当ての列車、線区目指してやってきたら、貸切バスで運ばれてきたツアー客でぎっしり、という目も当てられない状態に遭遇すると、せっかくの旅行が台無しです。

●最悪の余部狂騒曲
最近経験した最悪の例といえるのが余部鉄橋の架け替え前の「混乱」です。
優美な鉄橋が98年間の活躍に幕を下ろすとあって、全国から観光客が詰め掛けましたが、その多くはツアー客でした。

この区間、日中は2両編成のローカル列車が城崎温泉もしくは香住と浜坂の間を往復しているのですが、そこに複数のツアー客が押し寄せたのです。
浜坂−香住間を乗り通すツアー、餘部で降りるので浜坂−餘部、餘部−香住と利用するツアーが入り乱れ、車内は大混雑となりました。

通路にもぎっしりの団体客

乗降に時間をとられ、列車はベタ遅れで、単線で交換待ちの多い山陰線のダイヤ全体が乱れるなど悪影響が甚だしかったです。
思わぬ影響としてはツアー客が浜坂や香住でトイレに殺到し、長蛇の列でなかなか利用できないというものもあり、普通に鉄道利用でやってきた当方としては、時間をかけて前菜を平らげてさあメインディッシュというときに、皿をひっくり返された心境です。

●受け入れる側の無神経
このような混乱を「演出」したツアーは別に零細旅行社によるゲリラ的ツアーではなく、現地で目にした限りでも、朝日旅行、読売旅行、クラブツーリズム、阪急トラピックス、JTBと名だたる大手が一斉に押しかけています。

餘部の仮設ホームを埋め尽くしたのも大半が団体客

1個列車のキャパが決まっており、かつ餘部駅のホームやアプローチを考えると、各社が目いっぱい送り込むことがどれだけ無謀かつ危険、そして迷惑かを自覚すべきです。
しかしそれにも増して問題なのは受け入れる鉄道会社です。

要はJR西日本ですが、団体乗車券を受ける段階で、どの列車にどれだけに乗客があるかは分かるはずです。鉄橋を車内から見るどころか、乗るに乗れないような状態になるほどの団体客の受け入れをなぜしたのか。

2両編成の普通列車に殺到する団体客(浜坂)

ツアー客は確かに大量ですが、乗車区間はそれこそ190円区間(餘部−香住)であり、しかも団体料金ですから、バス2台分、約80人としてJRの収入は15000円を割り込むレベル。1人当たり170円弱です。
京阪神から鉄道で来たような一般旅行者がJRに落とした金と比べればどうでしょうか。大阪から特急で往復すれば12000円弱。普通列車で往復しても青春18きっぷが使えないこの時期は8000円弱です。それこそ下手をしたら1人の収入が1団体分に迫るわけです。いや、青春18きっぷだって1枚でこの手の団体の10数人分の収入をJRにもたらしているといえば、アンバランスぶりが分かるかと思います。

にもかかわらず、そうした長距離客を混乱に巻き込み、満足な観光も出来ない状態に追いやり、小銭拾いのようなツアー客を受け入れるというのは、顧客満足度としては論外の低さといえます。

●メインディッシュへの闖入者
待ちに待ったメインディッシュの皿をひっくり返されるような落胆を味合わされるわけですが、こうしたケースは余部鉄橋のような期間限定品だけではありません。

私の体験では、小海線もそうしたツアー客の襲来を受けているわけで、「さあこれから最高地点」と盛り上がった野辺山で車内を埋め尽くすツアー客に乗られ、人いきれとおしゃべりに辟易して清里までの「メイン区間」を過ごしたことがあります。

ツアーを仕切る旅行社の立場からすると、団体扱いで200円程度の追加料金で、10分程度の「アトラクション」に乗る感覚でしょう。「人気の高原列車にもご乗車」とキャッチコピーをつければ集客時の注目も高まりますし。

しかしこうした利用は邪道でしょう。イイトコドリの極致です。
まさにメインディッシュの場に乱入してくるわけで、せめてこうしたツアー客を増結車に分離するとか、専用の臨時列車を仕立てれば問題は発生しないのに、現状は極めて厳しいです。

●一般列車への混乗はどこまでOKか
かといって専用列車、専用車両を必ず用意することは不可能です。
しかし、だからといって混乗は全面的に容認すべきでは無いでしょう。

もちろんこの問題の変形として、青春18きっぷシーズンの幹線筋のように一般旅行者が通勤通学列車など地域の一般列車に集中するという問題がありますが、個人利用を利用目的や使用きっぷにより区別、差別することは出来ませんから、一般旅行者に乗るなとまではいえません。
またそうした線区は日常利用の他、通過流動の舞台になるがための混雑であり、それもまた需要の一形態として、需要に応じきれていないという受け入れ側の問題もあります。

しかし、団体、ツアーの場合は、明らかにまとまった数を突発的に集中させるという積極的なバランス崩しの効果があるわけで、利用する対象の状況によっては受け入れる事業者側が断るといった対応が必要です。

私が日頃利用している総武快速線の場合、課外活動などで鎌倉方面に向かう学生・生徒団体が春秋のシーズンにはよく利用していますが、首都圏有数の重通勤路線で、ラッシュ時のピークに利用するというのはいかがなものでしょうか。
特に学校によっては配慮して小人数ごとに号車を分けて乗車させているのに、中には1両に30〜40人を押し込むという暴挙に出る学校もありますし。

一方で修学旅行シーズンになると、集合地である東京駅に向かう「個人客」の集合体としての学生・生徒の集団が目立ちますが、こちらは特に夏休みや年末近くの平日など、長距離利用が増える季節における通過流動の日常的な増減の範囲内として対応すべき存在ともいえるわけで、同じような現象にも見えますが、JRの対応としては団体の受け入れ可否と、長距離流動への対応とでは分けて考える必要があります。

●いまだ見られる首を傾げる対応
よしんば受け入れるにしても、あらかじめ当日その列車の乗客が半端でなく増えるとわかっているのですから、増結くらいは考えるべきでしょうし、そうした対応が無いままに無定見にツアー客を受け入れることはすべきではありませんが、現実にはまだ首を傾げるケースが見て取れます。

これは大昔、かつ特異なケースで、さすがに最近はこのようなケースに当たったことはありませんし、また、無いと信じたいのですが、もっともひどい例として挙げますと、JR発足直後、JR東日本管内の新幹線、特急列車自由席に2日間乗り放題の「E・Eきっぷ」が10000円で発売され、週末の大混乱、特に始発最終近くの新幹線の大混雑は、払暁の上野駅新幹線改札口の行列とともに社会問題化しました。

まあ私もその混雑の中にいたのですが、土曜始発の上越新幹線から、接続する秋田経由青森行き「いなほ」という大混雑必至の列車に乗り継いだところ、秋田まで4両の自由席を2両に減車して団体客を受けていたため、自由席はおろか、あまりの混雑に開放された指定席の通路まで筆舌に尽くしがたい混雑でした。

私も向かい合わせにしたシートの背中同士が作る空間にようやく居場所を見つけたという悲惨な体験をしましたが、毎週末に繰り返される大混乱を分かっていながら、増結するどころか半減という信じられない対応をしたのです。

またこれは鉄道ではないですが、定員制で詰め込みが効かない高速バスの場合、自由席制だと積み残しリスクがあるのですが、5人以上とか10人以上とかまとまった利用の場合は事前に連絡を求めるケースがあります。

これは続行便を仕立てるといった判断材料にするわけで、それにより詰め込みが利かない代わりに乗れないというリスクを回避しています。
ただし中にはそうした対応をとらない事業者もあるわけで、早朝の西宮北口・甲子園→伊丹のリムジンバスで、グループか団体客でも受け入れたのか、普段は大半の乗客が乗る甲子園でほとんどの乗客を断ったことがあったという話を同僚から聞いており、予約制で無いため乗り場に行かなければ分からず、代替手段も無い状況でのこの事態は大惨事です。(同僚は航空券を変更しましたが、変更が効かない割引運賃だと払い戻し→正規運賃購入となって目も当てられないので、大枚叩いてタクシーに流れた人が多かったそうです)

●公共性と利用促進の狭間で
「公共交通機関」ですから利用目的や形態によって利用を拒むことはあるべきではないですし、よしんばそれが可能だとしても線引きは非常に難しいです。

ですからこれまで縷々述べてきてはいますが、実際にはなかなか解決策への到達は難しい、つまり、ルール化して割り切ることは不可能でしょう。

しかしだからといって何をしてもいいというわけではなく、常識的な範囲での自主規制は必要です。
特に業者が集客するツアーにおいては、業者が主体的にこうした「問題ある乗車」を志向するのですから、そこは事業者による規制を積極的に導入することもありえます。

少なくとも現状は、そうした配慮が見えないばかりか、現場の状況が容易に推測できるはずの事業者が全く配慮をしていないようにも見えることが問題と言えます。
そうした状況で旅行に誘うような宣伝をこれでもかとされても、食指が動きませんし、旅行に出るにしても安いツアーに参加したほうが楽、となれば一種の逸走であり、事業者にとっても不幸な話なのです。

ただ、公共交通離れが厳しい昨今、安定収入が望めるツアー客重視というのも分からないではありません。
また先の餘部にしても、クルマでの訪問客に少しでも使ってもらおうと、餘部から隣の鎧までの往復というショートトリップを宣伝していますし、このようなクルマ利用者のチョイ乗りを狙う作戦は全国で散見されますし、その変形として、沿線人気スポットへのパークアンドライドと称しての利用促進もあります。特に和歌山電鉄における伊太祁曽−貴志の利用はその典型でしょう。

「チョイ乗り」を誘う看板(出雲坂根)

しかし日常利用が少ないローカル線であれば公共交通での旅行者とWin-winの関係になるでしょうが、それが昂じて輸送力と輸送量のバランスを歪めてしまったり、そうした利用がメインになるようであれば、特に地域交通機関として有形無形の支援を受けている場合、公共交通としての存在意義もまた問われるのであり、難しいバランス感覚が求めるのです。







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