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神戸空港開港1周年
まずまずの結果と今後の展望


朝靄を突いて滑走路へ向かう



神戸空港はこの2月16日に開港1周年を迎えました。
空港や航空会社では、1周年記念イベントや記念商品の発売などで盛り上げていますが、一方で開港前に神戸市が予測した年間搭乗者数に達しなかった、という批判もでており、必ずしも祝賀一色というわけでは無いようです。

その神戸空港の開港1年間を振り返り、将来を展望してみましょう。


※写真は2006年2月、3月、5月、12月撮影



●開港から
2006年2月16日、JAL1342便羽田行きのボーイング777を一番機として神戸空港は華々しく開港しましたが、伊丹、関空と既存の第一種の国際空港がある中に割って入った第三種の「市営」空港として、開港前からその存在意義や利用、建設費の回収問題、果ては空域輻輳による安全面まで疑義を唱える声が大きかったのも事実です。

しかし、開港とともに、これらの懸念の声が小さくなっていったこともまた事実です。
開港1週間の全路線の平均搭乗率が81%を数え、ターミナルビルは見学客で搭乗客以外の入場制限をしたり、搭乗客以外の駐車場利用を制限するなど、開港景気とはいえ想像をはるかに上回る人気となり、最高のスタートダッシュを切ったといえます。

所詮はご祝儀相場、という冷ややかな目も少なからずありましたが、少なくともターミナルビルの利用という意味では、観光スポットとしての利用も定着したようで、ターミナル会社の初年度決算が黒字になる見通しを発表するなど、まずまずの状況です。

そして肝心な航空利用ですが、こちらは路線ごとの明暗がかなりはっきり出ており、搭乗率の平均では開港からの約1年間で61%、直近の1月1ヶ月で52%と陰りが見えますが、27往復中11往復を占めるメインの羽田線は1月単月で60%弱、主力のスカイマーク(SKY)に限定すれば68%となっており、まず堅調といえます。
実際、堅調な利用により機材の大型化が予想以上に進んだこともあり、着陸料の伸びに支えられて空港本体の収支も最終的に2億円の黒字を予想するまでになっています。

見物客の規制もありました...


●気になる搭乗率と航路の再編
路線別の明暗が出た格好です。
開港1週間、開港景気最高潮の時期ですら、熊本線が46%とどうしようもない状態で、新潟線も苦戦が続き、早々に減便しています。

一方で羽田線、そして沖縄線、札幌線の人気は高く、特に羽田線は3月にSKYの平均搭乗率が91%を記録するなど、便によっては連日満席状態が続いており、ANAやSKYでは機材の大型化で対応しているため、搭乗率が減少傾向といいながら、キャパシティが開港当初に比べて増加していることから、実数としての搭乗者数はGWあたりまでの開港景気が一段楽した後は、全体ではほぼ安定していることに注意すべきです。

また、開港前の年間予想搭乗者数である319万人の達成が絶望的となったことで、「失敗」と位置づける論調が目立ちますが、確かに未達ではありますが、270万人程度の数字は残せそうであり、計画比85%という進捗率と、270万人という実数をどう捉えるかによって、評価は変わってきます。

そして昨今の航空業界は、採算性にこだわるあまり、極めて短いタイミングで路線の改廃を行う傾向が強いです。さらにJALの再建問題が加わり、神戸空港では開港1年あまりで大幅な路線の再編が発表されています。

以下、開港から再編までの各社の便数を振り返って見ましょう。

羽田
JAL:2往復
ANA:2往復(2007/4から3往復)
SKY:7往復(2006/9〜2007/1は8往復)

札幌
JAL:2往復(2007/6から3往復)
ANA:1往復(2006/4〜2007/3は2往復、2007/4〜6は2往復+週6便、2007/6から3往復)

沖縄
JAL:2往復
ANA:2往復(2006/4〜2006/5は1往復、2007/4から3往復)

仙台
JAL:1往復(2007/5で廃止)
ANA:1往復

新潟
ANA2往復(2006/6〜2007/3は1往復、2007/4〜2007/6は週1便、2007/6で廃止)

熊本
JAL:1往復(2007/6で廃止)

鹿児島
JAL:2往復
ANA:2往復(2007/3で廃止)

石垣
JAL(2007/7から1往復)

全体の便数は変わらず、7月の再編完了の段階で、羽田12往復、札幌6往復、沖縄5往復、その他4往復という内容となり、幹線中心の陣容という色彩が強くなります。

廃止という面だけ取り上げて、1年程度で撤退路線が続々というネガティブイメージを演出する報道が多いですが、トータルの便数が変わらないばかりか、搭乗率が低い路線を廃止して、高い路線へのシフトであり、神戸空港全体で見た場合、プラスに働くことが予想されます。

春休み、混み合う出発ロビー


●アクセスの明暗
ポートライナーにリムジンバス、そしてクルマという体制ですが、ポートライナー一人勝ちという状態です。

2006年5月限りで、はくろタクシーのなんば−神戸空港−姫路線が早々に撤退しましたが、2007年に入り、2月にはJR、本四海峡バスの淡路島関連の全路線、神姫バスの姫路線の廃止が発表されており、リムジンは総崩れの状態です。

何とか踏ん張る山陽バスの垂水高速

これは、三宮までのアクセスはJRなど鉄道がそのスピードで圧倒し、また、三宮からはフリークェンシーで勝るポートライナーへの支持が高く、定時性に難がある姫路方面や、人気が高い既存路線を少しばかり延長したようなリムジンでは太刀打ちできないという感じです。
それどころかタクシーやレンタカーの利用も低調で、中長距離にくわえ、中心街に軌道系で乗り付ける利便性が一人勝ちの状態を生んでいます。

また、「本土」からポートアイランドを経て空港島まで通行料金が特にかからないことや、駐車料金1日無料サービスとなることにより、クルマの利用も堅調で、非舗装の第二駐車場ですらかなり埋まっている状態です。

一方で関空との連携を目論んだ海上アクセスの高速艇ベイシャトルは苦戦が続き、かつてのK−JET時代の累積赤字を解消するどころか上積みしている状態です。

ただ、4月以降はポートアイランドに大学が開港するなど、ポートライナーの利用がさらに増加することが予想されるため、現在でもピーク時の輸送力に心配があるだけに、懸念材料です。

開港に先立って開業したポートライナー神戸空港駅


●使ってみて分かる「不備」
これ以上は無いともいえるスタートダッシュを切った神戸空港ですが、最近は確かに伸び悩んでいます。
開港前の「誰が使うんだろう」とか、「使い物にならない」といった批判はさすがに姿を消しましたが、別の意味での「使い勝手が悪い」という批判がでています。

羽田空港の離発着枠の関係で便利な時間帯の設定が出来ないことから、羽田線の時間が早朝や日中に偏っており、かつ神戸空港の運用時間帯を22時までと規制していることから、羽田発の最終便も伊丹最終便に比べてさほど遅くないということへの不満は大きいです。
また、地方路線も日中の間合い運用然とした設定が目立ち、ビジネス、観光ともども使いづらいダイヤというのも地方路線の不振の一因です。

特に夜間の運用については、神戸市側も折に触れて延長を訴えていますが、国が頑なに首を縦に振らないため、現在最終便の受け皿になっている関空保護のため延長を拒んでいるという見方が利用者や地元では支配的です。

また、スタートダッシュが目覚しかった副作用として、開港までは地元財界や観光関係者が神戸空港の売り込みに懸命でしたが、予想を上回る好調ぶりに安心したのか、手なりで進むようになったことは否めませんし、時間帯が良い便が連日満席ということで、「席がとりづらい」というマイナスイメージすら発生したのかもしれません。

今後は利用率の高い路線への傾注もあり、改善されるでしょうが、肝心な羽田線が枠が取れないのか、4月から増発されるANAも日中に1往復と、ビジネスにも観光にも中途半端な時間帯であり、羽田再拡張後の増枠まで我慢というところでしょうか。
運用時間の延長については、国は利用者の声を真摯に受け止めてもらいたいものです。

観光スポットとしての神戸空港という意味では、採算性について、訴訟沙汰になるなどこれでもかというほど指摘されてきた経緯があるだけに、施設自体は他の幹線筋の空港に比べると貧弱であることは否めません。
そうしたハンデの中で、ロビーでのジャズコンサートなど「神戸らしさ」も交えた企画でカバーすることで好評を維持していますが、将来的にはターミナルの増築などを考えてもいいかもしれません。
事実、観光団体、特に修学旅行団体を受け入れても、団体待合室がないなど、ちょっとお粗末とも言える粗が目立ってきました。

クリスマスバージョンの出発ロビー


●市の「誤算」
開港から時が経つにつれ、神戸空港の存在も徐々に知られるようになりましたが、まだ知名度は神戸市内のかなり狭いエリアに限られている感じです。
このあたり、足元の知名度を固める必要があるのですが、どうも市当局にその考えが薄いように見受けられます。

一方で熱心だったのは就航各都市への売り込みです。
もちろん空路神戸に来てくれることは大切ですが、現在の神戸市の状況から考えると、全国各地と神戸を結ぶという発想に難があったことは否めません。

関西圏は首都圏と同列の「二大都市圏」であり、「京阪神」の通りその主要都市のひとつという立場に立てば、全国と神戸を結ぶという発想もありですが、昨今の状況はまさに「一極集中」であり、関西圏ですら「最大の支店経済圏」なのです。
ですから東京とを結ぶ羽田線が好調なのは当然の帰結であり、一方で地方路線は「地方同士」の路線ですから、それを伊丹や関空と分け合うほどの需要がある由もありません。

全国区の観光地という自負もありますが、「ミナト神戸」で黙っていても観光客が集まったのは昔の話です。だからこそ、これこそ全国区の観光地である札幌や沖縄線は、観光地への送り込みとして好調なのです。
実際、2007年2月15日付の神戸新聞に掲載された2月初旬のアンケート結果でも、就航先からの利用は56%がビジネスで観光は17%に過ぎなかった半面、神戸からの利用は観光が49%、ビジネスが29%となっていますし、紙面での記事には、神戸空港を利用しても神戸を観光しないケースが目立ち、神戸観光のパック商品は売れ行きがイマイチという事例も出ています。

開港前、就航路線が確定するまでは、但馬空港への路線を限られた30往復の中に入れようとしていたように、神戸を中心とした県内外のネットワークという夢を追った市当局と、利用者の間には相当な意識のずれがあったといわざるを得ません。
今回の路線再編にしても、市側からは「各地との交流を増やす」という目論見が崩れることを懸念する声が上がっていますが、利用者からは、便利な路線の増強であり、歓迎ムードすら感じられます。

開港から1年、こうした微妙な意識のズレも気にならないほどの成績でしたが、今後は利用者の意識とのズレが致命傷になりかねないわけで、「誤算」を受け入れることが必要です。

ただ、唯一明るい「誤算」は、長年未利用地が多かったポートアイランド二期の企業進出に弾みがついたことで、現地に行くと少し前までの一面の荒地がかなり変わってきていることに気がつきます。

残るは空港島の分譲ですが、そろそろ逼迫感すら出てきたポーアイ二期の受け皿として最適と思いきや、埋め立て許可を航空関連に限定して受けていることが足かせになっており、航空関連の立地が進まないことから、「売れない土地」として空港事業の「失敗」を印象付けています。
これもポーアイ二期の「滞貨一掃」を勘案すればそこまで酷い話ではないはずですし、用途の変更も含めた対応を考えていくべきです。

スカイマークと全日空機


●次の一年を展望する
神戸空港の開港は、良くも悪くも「競争」を激化させました。
殿様商売という批判が高かった新幹線が、エクスプレス予約の拡大や割引の導入などのサービス改善を打ち出し、航空の独壇場だったホテルやテーマパークとのパック商品でも安値攻勢をかけていますし、法人への営業攻勢も強力に推進しているようです。

SKYが7月に普通運賃を10000円から12000円に上げたとたん(割引運賃は10000円を維持)、搭乗率が目だって減少したため、再度10000円に戻して搭乗率を戻すなど、微妙な価格帯での競争になっていますが、実際には羽田線に関してみれば、大手の数字は関西三空港全体では開港前とほぼ拮抗しており、10000円という格安運賃で参入したSKYの分が純増というイメージですから、シェアの移動というよりも需要の掘り起こしという面が強いのかもしれません。
実際、大手2社の羽田便は朝夕のビジネスタイムに運行している割に、搭乗率ではSKYの後塵を拝する格好となっており、利用者が価格に敏感と言うことがうかがえます。

もっとも航空側の不協和音も相当なもので、神戸空港の「好調」には需要の掘り起こしという面も少なく無いのに、自分のところが享受するはずの利用者を神戸が獲ったと関空が不快感を表明するなど、本来は神戸空港ブームを関西の航空ブームにつなげていく努力をすべきタイミングで足を引っ張るようでは、プライドをかなぐり捨てて攻勢をかけるJRなどとの競争すら覚束ないでしょう。
特に燃料油の高騰を理由にした値上げが続いたこともあり、これまで右肩上がりだったドル箱路線の関西三空港と羽田の間の利用者にも陰りが見え始めており、ANAがせっかく772まで大型化した羽田線の1往復を4月から763に戻すなど、予断を許さない状況です。

東海、西日本のエクスプレス予約受け取り機が並ぶ
(新神戸)

さて、神戸空港からの路線が幹線に集約される2007年度は、JRだけでなく伊丹、関空との競合の年にもなります。
しかし、航空同士の競合を、協調に昇華して行くことで利用総数を伸ばすというような大局観を持った対応もまた求められます。
神戸空港は関西三空港の一員として、良い意味で伊丹や関空を補完する、いや、補い合う関係で、全体の利便性を高めることが必要です。
同時に、初心に帰って需要の確実な取り込みと掘り起こしも必要でしょう。現在の取り組みは、開港景気に「慢心」の気もあるからです。

一方で大手とは一線を画したSKYの存在が「協調」をする上では「鬼っ子」となりますが、独立系の格安キャリアが成立するという「規制緩和の建前」を守るのであれば、羽田−神戸線というSKYがマジョリティを握っているスキームは崩すべきではなく、羽田線に関していえば、大手は伊丹、関空で、格安は神戸というような住み分けも視野に入れるべきかもしれません。

また、SKY自身もこの1年、機材トラブルで評判を下げたところに、行き当たりばったりのような運賃政策(特に事前割引)を筆頭に、サービスどころか経営に腰が据わって無い印象を利用者に与えたことは、価格競争以外の面を重視するビジネス需要が強い羽田線においては大減点といえます。
機材の大型化で、特定便の満席状態も緩和されるでしょうし、2月から自社都合での運休時の対応が手厚くなったこともあり、次の一年は「安定」を前面に打ち出した運営が望まれます。

なお上述の神戸新聞の記事では、神戸空港利用者の56%が「また利用したい」と評価しており、「利用しても良い」を含めると92%に上っており(神戸市内在住に限定すると「また」が70%、「しても良い」が27%とほぼ全員が評価している)、利用した人には非常に高い評価を得ていることが分かります。
一方で利用者の神戸側の発地を見ると、神戸市内がビジネスで61%、観光で31%となっており、まだまだ利用が狭いエリアに限定されていることもわかります。

こうしたことから、今後は神戸側の知名度を増すことが肝心です。幸い利用者の印象は非常に良いといえるわけで、まずは利用してもらうことも大切でしょう。
ただ、この「偏重」も、開港前のマスコミ各社の「ネガティブキャンペーン」ともいえる批判が一因と言える面は否めません。1周年を迎えたこの時期、特にテレビは相変わらず批判的な見出しで特集を組むケースが目立ちますが、新聞各紙は比較的冷静に「成果」を認めており、こうしたことからも徐々に浸透していくことが期待できます。

そうすることで、まずは利用の多い路線への集中を梃子にした利用者数の確保をまず達成すべきです。そのうえで、神戸の観光的魅力を高める努力をしたうえで、神戸観光を目的にした需要の伸張を図ると言うステップになってはじめて地方路線の「復活」を試みるべきでしょう。

早朝の神戸空港








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