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関空の危機
相次ぐ減便と他人任せのリーダー



スカイビューの夕暮れ


写真は2007年5月撮影


●関空路線再編の大嵐
JAL、ANA両社が原油価格高騰の影響で、燃油サーチャージを課しても採算が追いつかず、相次いで大規模な路線再編を打ち出しました。

整理対象となった路線の太宗が関空からの路線であり、またこの他エアカナダが関空−バンクーバー線の運休を決めたり、一時はスターフライヤーが関空−羽田線の運休を検討中と報じられるなど、ただでさえ苦しい状況下にある関空は開港以来の危機といっていい状況に陥ったかのようです。

実際にはタイ国際航空のバンコク−ロス線が関空寄港に変更されたり、アシアナ航空がサイパン線を新設し、ソウル線を増便するほか、JALも中国、韓国、ベトナム方面への増便及び新設を行うなど、国際線についてはどちらかと言えばスクラップアンドビルド的な内容ですが、JALのロンドン線の休止により日系キャリアの欧米線が「全滅」ということもあり、ネガティブなイメージが広がったことは確かです。

深刻なのは国内線で、「伊丹規制」でシフトしたはずの新千歳便、那覇便が両社とも減便する計画であり、特に経営再建が急務のJALはこれもシフトによる東北方面への便も軒並み運休となっています。
さらに内外ハブの主力でもある羽田線までも、ANAが2往復減便し、さらにスタフラが4往復全便の休止を検討したことから、国内線は総崩れとも言える状況です。

このうちスタフラは既に北九州線でコードシェアしているANAと関空線でもコードシェアをすることになり、急転直下残留しましたが、ANAの2往復減便があるため、全体では減便のままです。

●地元の危機感と温度差
こうした危機的状況に、地元の反発もさすがに強く、大阪府の橋下知事はJAL、ANA両社に対して減便計画の撤回を要請しましたが、ANAがスラフラとコードシェアすると言うのが唯一の成果という有様に終わっています。

この足元に火が付いた状況で飛び出したのが橋下知事による「伊丹の廃止も含めた検討を」の発言です。これまで数々の不協和音はありましたが、建前上は「伊丹、関空、神戸の三空港共存」だったわけで、行政のトップがこの鼎立体制を否定しかねない発言に踏み込んだことは大きな波紋を呼んでいます。

まず当事者でもある関空会社は当然ながらこの発言を諸手を上げて歓迎していますが、神戸空港をかかえ、伊丹も半分県内にある兵庫県の井戸知事は猛反発。さらには冬柴国土交通相(当時)も批判のコメントを発するなど、対立が表面化しています。

橋下知事はその後も府庁の南港移転とあわせ、府庁と伊丹の跡地開発で「関西を盛り上げる」とぶち上げていますが、「関西」といいながら大阪の事情、大阪の利益しか見ていない感じがします。

●背に腹は変えられない
ここに来て各社が関空線を削減の主たるターゲットにしてきたことが今回の混乱の原因です。
しかし、それはある意味当然の結末と言えます。

関空開港後の並存から、利用者の選択の結果としての伊丹シフトにより関空の経営に深刻な影響が出てきたわけです。「利用者の選択」である以上、利用者が伊丹と比較のうえ関空を選択し直すように仕向けるしかないのですが、関空と国が取った手段は伊丹からの事実上の強制シフトでした。その手法には伊丹への3発、4発機の就航規制といった間接的な関空誘導もありましたが、とりあえず関空発の便を揃えたわけです。

関空二期工事予算化の条件である発着回数は確かにこれでクリアできましたが、就航する各社にとってはガラガラの便が飛んでも意味が無いわけです。
規制当初から、便だけ移っても人が伴わない、残る伊丹便に集中し、関空便は伸び悩むという声がありましたし、路線によっては伊丹と関空の総量が規制前より減少すると言う最悪の結果も見られるようになってしまったわけです。

こうした悪循環でも各社の体力があるうちは、金城湯池、いや、各社の生命線である羽田の発着枠を差配する国の意向に従っていましたが、燃料費高騰により各社の経営が危殆に瀕しかねない状況になると、羽田再拡大によるビジネスチャンスを云々する以前に、明日の糧を確保しないといけないわけで、まさに背に腹は変えられない状況になったわけです。

人間生きるか死ぬかの状態になると本音、本能が出るといいますが、企業もそうでしょう。
この状態で関空便が集中して選択されたことが何を意味するのか、非常に意味深です。

空港連絡橋


●伊丹が原因という幻影
関空不振の原因を伊丹の存続に求める声は根強くあります。
しかし、「伊丹が足を引っ張っている」論は本当に正しいのか。

もし伊丹(および神戸)を廃港し、関空に集約したとして、関空や大阪府が考えるような「関空の回復」はあり得るのか。
もしそれが正しければ、各社は「伊丹規制」などしなくても「関空シフト」を進めているはずであり、そうなっていないということは、「関空シフト」は全体で経営を悪化させる方向に動く結果になると言う認識だと言うことです。

新幹線などライバル交通機関がある路線はもとより、ライバルが無い北海道や沖縄路線ですら関空シフト→減便の流れが確立しているわけです。
北海道にいたっては、ツアー利用でも最近目立つようになりましたが、伊丹から羽田乗り換えへのシフトがあるわけです。

だから伊丹がなかりせば、と考えるのでしょうが、逆に乗り継いでまで伊丹にこだわるところにまで至ると言うことは、関西の「国内線」航空需要そのものは伊丹あってこその部分が大きい、言い換えれば関空はライバルですらないかもしれないという推測が成り立ちます。

もちろん関空アクセスがはらむ諸問題が伊丹へのこだわりを招いていることは事実でしょうし、これだけ言われても一向に改善が見られないというのは最早なにをかいわんやの世界ですが、とはいえ大阪市内や神戸市内(阪神間)など関西圏の航空需要のメインエリアにおいて、関空への時間距離において言うほどの大差があるわけでも無いという現実もまたあるわけです。

そうした状況でも根強い伊丹志向があるのはなぜか。
乗れば速いがフリークェンシーで劣る。そこに来て早朝深夜便対応という意味では羽田に比べて格段に見劣りがするアクセスの改善が一向に進まない。
これだけならアクセス改善による地位向上も狙えますが、そもそも何かあった時に代替交通機関を選択する際に、絶対的な距離を痛感する現実があるわけで、その「不安感」「リスク」こそが関空忌避の原因ともいえます。

結局「国内線」航空需要は、伊丹があるから使うという一定の基礎票が存在するという推測が可能です。
もしそうであれば伊丹なかりせば関空が復活する、ではなく、関西の国内線航空需要自体が縮小する可能性があります。

いわんや伊丹が無くなれば関西(大阪)が発展するというのは幻影どころか妄想に過ぎません。
伊丹便の高度規制のため梅田に東京のような超高層ビル街が立たない、というような、「となりのなんとかチャンが持ってるのに...」と駄々をこねる幼児のような議論を真顔でする人も少なくないです。

確かに大阪ビジネスパーク(OBP)は伊丹便の高さ規制を受けて超高層化が出来ませんでしたが、高い稼働率を誇ります。しかし超高層ビルだったとしたらその増えた延べ床が埋まったのか。超高層ビルといえば南港のWTCがありますが、二度目の破綻が現実味を帯びているわけで、大阪市内のビル需要はピンポイント的で、伊丹廃港でバラ色の未来になるようなものではありません。

●内外ハブという「幻影」
こちらは敢えてカッコを付けましたが、関空集約によって内外ハブ需要が国内線、国際線ともに下支えするという声への疑問です。

少なくとも国内線において関西エリアを最終目的地(当初出発地)とする需要よりハブ需要が大きい、ということはありません。
ハブ機能を持つ中部空港の伸び悩みが示すように、空港所在地そのものが有する航空需要がまずある話です。

そうなるとまず関西そのものが有する航空需要に応えるため、そしてそれを極大化するには伊丹の活用が必須であり、関空シフトがそれに逆行することは論じたとおりです。

それでも内外乗り継ぎ客を集めれば、というところですが、今回の再編では国際線の撤退も相次いだわけです。これまで撤退したキャリアも含めて航空各社は、その理由として、搭乗率は良いがビジネスクラスなどの採算の高い客が少ないことを理由に挙げており、数を集めても解決にはならないのです。

こうなると、国内線を関空シフトして内外ハブとして機能させたとしても、航空会社が満足する結果になるかは疑問です。関西そのものが有する航空需要ですら「採算が高い客が少ない」のです。それが地方路線からの乗り継ぎ客を集めたら増えるかどうか。
そうなると、内外乗り継ぎ客を集めても路線維持には結びつかない、国内線需要は縮小する。国内線の関空シフトが意味するものはなんでしょうか。

滑走路の夜景


●2人のトップの資質
ここまで危機的状況に追い込まれての関空会社社長と橋下知事の言動を見てみましょう。
通常のトップであれば、事態の打開に向け、身を粉にして働き、事態の打開に向けてあらゆる手段を講じるでしょう。そしてその「手段」とは、自らが率いる組織の改善であるはずです。

しかし、この両者はどうか。
揃いも揃って「伊丹が悪い」です。関空をどうするというでもなく、「ライバル」を蹴落とせば自分たちに春が来る、という他人任せの態度です。
今回の再編についても、関空会社社長は「伊丹から削るのが筋だ」と、民間会社出身でありながら採算が取れないスジから削るというビジネスの常識も弁えないような意見を公言しています。
しかも「関西のため」と言いながら、大阪さえよければという本音がありありと窺える訳で、この期に及んで「自分さえ良ければ」というのはいかがなものか。

関空がなぜ利用者から嫌われているのか。その原因を究明し、改善出来る部分は改善することが先決なのに、伊丹規制に活路を見出すしかないトップの態度。これではよしんば伊丹や神戸を「廃港」したとしても、その需要は砂漠に水を撒くように消失しかねません。
特に行政のトップとしてサポートできるメニューを豊富に持つはずの府知事がこの発言というのは話になりません。

自らの改善を謳わないままに相手の規制を望むだけというのは、イケメンがいなくなれば自分がモテると勘違いしているブサイクな男といったところでしょうか。いや、容姿は変えようが無いですから、味の研鑽をしないで、ただライバル店を貶めることしか考えてない不味いラーメン屋が、ライバル店がいなくなれば自分の店が繁盛すると考えるようなものでしょう。
そこにはライバル店がいなくなったら、不味い店に行くくらいなら牛丼屋に行くとか、弁当を買うという回避行動を取ると言うことに思いが及んでいないのですが、2人のトップの言動はまさにそれに等しいものです。

減便の申し入れに橋下知事を訪ねたJALの社長は、伊丹廃港にまで言及しことに対し、「お客様のニーズがどこにあるかということを踏まえて議論していただきたい」と語っています。
足元の議論は大阪のため、関空のためという議論であり、そこには「今回も」利用者の視点や立場は全く考慮されていません。いかに「あるべき論」であっても、利用者にそれに従う義務はなく、別の交通機関や目的地を選んだり、旅行の中止も含めて、その選択は利用者の専権事項なのです。

そう、そもそもの原因は利用者が伊丹を選んだことにあるのです。そしてそれは個々の利用者の専権事項である以上、「誤った選択」というような批評は出来ません。
甚だしきは関空からなら本数も遜色なく直通便があるのに、乗り継いででも伊丹を選択するというニーズがどうして生まれたのか。そしてそのニーズを関空にシフトさせることは本当に可能なのか。

よしんば強権的な結果を見たとしても、航空会社も利用者も従うのか。よく考えたいものです。

●打開策はあるのか
国内線はおろか、国際線ですら搭乗率ではなく採算を理由に撤退が続く関空に打開策はあるのか。

一つの回答が、再編のなかでアジア方面の路線は増強といえることです。
確かに欧米に憧れてきた我が国において、欧米線は花形であり、それが壊滅状態になることは「国際空港」としての体面に関わると考える人も多いでしょう。

しかし、アジア、特に中国や韓国との関係が深い関西圏がその地の利や需要を踏まえることで、成田では成立しないような路線を成立させ得る可能性があります。
こうした地域特性に根ざした路線は観光需要やツアーではなく、ビジネス需要が前提になりますから、航空各社が言う「採算性」も期待できるわけです。

そうした「機能特化」を前提に、羽田線を使って首都圏からのハブとして、さらにビジネスなど高採算需要を取り込むというスパイラルアップを図るしか関空の活路は無いでしょう。
総花的なハブを狙って国内線を無理に関空にシフトして、結局関西そのものの国内線需要を消失させる愚は犯さず、「関空らしさ」に特化した国際線を充実させ、その需要を充たす国内線とのハブ機能に特化することが、関空のラストチャンスと言えます。

それをサポートするのが、各国航空会社へ就航をアピールする関空会社であり、府知事なのです。








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