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神戸空港、突然の逆境
前代未聞の運休騒動が招く懸念


華やかに2周年を祝ったばかりだが(2008年2月16日撮影)






※特記なき写真は2008年6月撮影



●順調に開港2周年
2006年2月16日に開港した神戸空港。伊丹、関空とすでに飽和状態と目される中での開港には苦戦を予想する向きが多かったですが、開港から1年の利用者数が約270万人、2年目が約297万人と、神戸市の予測319万人にこそ未達とはいえ、実数としては少なくなく、まずまず順調に推移しているといえます。

事実、開港前にはあれほどメディアなどで語られてきた空港への懸念も沙汰止みになった感じで、神戸空港の存在が自然に受け入れられ、利用されているという感じです。

●突然の衝撃
そうした「当たり前の日常」に突如衝撃が走りました。

スカイマーク神戸−羽田、54便運休 機長が不足

スカイマークは2日、機長2人の退職でパイロットの人繰りがつかなくなったとして、同日運航予定だった神戸−羽田便など4便を欠航するとともに、6月に運航を予定していた計約1700便の約1割に当たる164便を運休させる、と国土交通省に届けた。背景には国内外のパイロット不足があるが、パイロットの人員が足りず大幅な運休に追い込まれるのは極めて異例だ。

同社は「30日以降も再開できるかどうか未定」としている。

2日の欠航では、予約客約200人に影響が出た。

3日以降、運休するのは、いずれも羽田と結ぶ神戸、旭川、札幌(新千歳)、福岡の4路線。

一日5往復している神戸−羽田便は3〜29日の間、13時25分神戸発と20時15分羽田発の1日2便、計54便が運休する。

国交省は同社に、早急に予約客に連絡して便の振り替えや料金払い戻しなどの対応を取るよう求めた。

国交省への届けによると、同社の主力機ボーイング737型機は機長25人で運航しているが、うち2人が病気や労働条件を理由に5月末に退職したという。

同社は「ぎりぎりまで契約を更新するよう調整したがかなわなかった。ご迷惑をおかけし、本当に申し訳ない」と陳謝し「パイロットの確保に全力を挙げたい」としている。

航空路線の拡大で世界的にパイロットの獲得合戦が激しくなっている。新規航空会社は大手に比べて待遇面に差があることから、慰留が難しかったとみられる。

(2008年6月3日付神戸新聞。数字や時制表記など一部改編)


開いた口がふさがらないというか、話にならない事態です。
機長が足りなくなったので突然運休します、という話など聞いたことがありません。医療現場で医師が退職して診察ができなくなるという話は最近よく聞きますが、それでも当日いきなりなんてことはありません。

こんな理由で1日1往復、羽田への同社便で20%もの便が減るのです。
神戸空港へのメインアクセス、ポートライナー三宮駅に掲示された運休情報の摘要欄に書かれた「乗員繰り」の文字。まさに前代未聞の話です。

ポートライナー三宮駅の掲示


●大きな影響
神戸空港利用者にとって今回の問題は非常に大きいです。
運休対象となる便のうち、羽田発20時15分は羽田発の最終便です。JAL、ANAとほぼ同時の運行ですが、コスト競争力に優れた同社便が一番人気であることは言うまでもないのですが、その便が消えるのです。
後述の通り、4月下旬までは20時ちょうどにも1便あり、2便とも連日ほぼ満席に近い状態だったのに、なくなってしまうのです。

上記の神戸新聞の記事では、「(神戸)同市の観光振興に取り組む神戸国際観光コンベンション協会は「運休する神戸に夜着く便はビジネスマンが多く、観光への影響は少ない」と分析。」というコメントを紹介していますが、神戸空港利用の主力は羽田線であり、その太宗はビジネス客です。
そのビジネス需要にとって肝心要ともいえる最終便が、4月の改正で半減、そして今回の「不祥事」(と言い切っていいでしょう)で全滅です。JAL、ANAを入れても4月改正前の4便から今回で大手のみ2便となるわけですから、計り知れない影響を及ぼしているのです。

●予兆
スカイマークの羽田線は、普通運賃で10000円とか11000円といった低運賃で客をつかむ反面、薄利多売で利益を積み上げる構造のため、採算性が悪かったことも事実です。
とはいえ80%程度の搭乗率を叩き出している現状からすれば、これ以上何を求めるのか、という話でしょう。

そういう状況で、4月に羽田−旭川線に参入したあおりを受けて、同日から神戸−羽田線は7往復から5往復に減便されました。
この時上述の通り、最終前の神戸行きと、さらに開港以来人気No.1で予約がなかなかとれなかった午前の羽田行きが削減されました。

このよりにもよって、といえる便の削減には、神戸空港の利用者としては首をかしげる、というよりもその真意を疑う、いや、糺したくなる事態であり、神戸線減便の理由が旭川線というのですからいよいよ納得がいかないものです。
いかに神戸線の採算が悪いとはいえ、JAL、ADO(≒ANA)がすでに就航しているところへの新規参入です。旭川空港の利用が伸びているとはいえ、旭山動物園人気によるツアー利用が下支えしている状態で、神戸線から転用するに足るだけの収益が上げ得るのかどうか。非常に疑問です。

4月にこのような「改悪」をしたことで、スカイマークが神戸をどう見ているかという底が見えた感じですが、それすら今回の「不祥事」を思えば、予兆だったのかもしれません。

●動いて自滅
2005年10月に「第二の創業」と称してサービスの大転換を翌年2月から実施しましたが、このとき鹿児島、徳島及び関空線から撤退し、福岡、神戸に経営資源を集中させることになったのです。
その後季節運航の那覇線や、新千歳線の開業など展開はありましたが、基本的には幹線路線の大きなマーケットを狙う戦略だったはずです。

「第二の創業」で大幅に簡素化された機内サービスを引き合いに「安かろう悪かろう」といった批判が根強くあるものの、大手各社に比べて極端にレベルが落ちるということでもなく、その後機内販売の新設などサービス水準もやや前進しています。
幹線路線への集中は以前私も某所で批判しましたが、いささか美味しいとこ取り、ということは否めませんが、経営資源を集中する先として考えたら理にかなっているわけで、良きにつけ悪きにつけ体制が固まった、つまり、これまでころころ変わっていた制度や体制がようやくまとまったと考えていました。

ところが旭川線新設です。幹線でもなく、便数の絶対数が多いわけでもありません。利用数にしても全体数で新千歳の7%、函館の60%程度の数ですから、絶対数が少ないマーケットです。
さらに2人が退職して乗員繰りが回らなくなるような薄氷を踏むような態勢であることを知りながら、旭川線を新設したわけです。

地方路線に展開、拡大していたのを幹線に集約したことで黒字を計上することができたと言えるわけですが、旭川線の開業と、再び拡大傾向を見せてきた矢先のこの「不祥事」、動いてかえって失敗したというありがちなケースといえます。

●失われる信頼
神戸空港の利用形態を見ると、やはり羽田へのビジネス客が重きをなしているわけです。
その羽田線の主力といえるスカイマークが、4月改正でビジネス客にもっとも利用されていた便を削り、さらに今回の「不祥事」で追い打ちをかけるように羽田発最終の「消滅」となっては、ビジネス客からの信頼は地に落ちたといっても過言ではないでしょう。

しかも今回の運休は予約を取った後の突発です。今更他社や新幹線への変更を要請されても、という思いもあります。
とはいえ「使える便」が消滅し、さらにそれが長期化する可能性もあるなかで、このような前代未聞の事態を引き起こす航空会社を利用すること自体にリスクがあると認識する人が増えることは当然でしょう。

今年度からさすがに上げ過ぎたという反省からか若干の値下げをしましたが、JAL、ANAの運賃は燃料費高騰の影響もあり値上げや割引率の低下を繰り返したことで、新幹線に対する競争力を下げてきました。
航空側にとっては悪いことに、JRはN700系の投入による攻勢をかけてきており、ここ神戸でもポートライナー車内や沿線、伊丹へのリムジンが使う阪神高速沿道にJR西日本が広告を多く出しています。

こうした現状でのスカイマークの「不祥事」です。せっかく積み上げた信頼と利用者を一気に失うかもしれません。

●そして神戸空港の苦悩
神戸空港利用の根幹ともいえる羽田線。その主力のスカイマークが減便、そして今回の「不祥事」による運休と、空港利用者数を大いに減らす方向に働く事態により、これまでとりあえず順調だった神戸空港の将来にも暗い影を落とします。

スカイマークの運休は全路線にわたっており、全社的に信頼を失いかねない状況です。
そうした状況を考えると、神戸空港としては現在の体制が維持できるのかという根本を考える必要が出てきます。

「第二の創業」で地方路線を、路線によっては相当なしがらみもありながらいとも簡単に切った際には、こういう航空会社を基幹に据えることはリスキーではないか、という趣旨の指摘を某所でかつてしましたが、そうした航空自由化に伴う路線改廃はひどいとはいえある意味「想定内」でしょう。

しかしながら路線の持続継続がパイロットの確保により左右される。パイロットの不足が発生して運休、というのはさすがに想定外、予想外の話です。さすがにこうした「イロハのイ」ともいえる問題による事態まで想定した航空行政というのも非現実的でしょう。
しかし想定しようがしまいが、神戸空港は本来あるべき便数が無くなり、利用者数や着陸料収入にも影響が出ます。
その想定外の事象でそれまで順調だった神戸空港がいきなりリスク、不安を感じるというのはある意味気の毒ではありますし、それゆえスカイマークの今回の対応の罪深さは深刻なのです。

入口に運休告知が立つSKY神戸空港カウンター







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