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「無賃送還」を経験する
羽越線事故に伴う「旅行開始後の列車等の運行不能」



別途ご紹介することを予定している2005年暮れの北海道旅行ですが、旅立ちまで、というか旅立ちの際に思わぬアクシデントがありました。
12月25日に発生した羽越線の脱線転覆事故、5名の犠牲者を数える痛ましい事故になりましたが、神戸から鉄道で渡道となると羽越線はまさに経路でして、27日の夕方に大阪を出る寝台特急「日本海1号」の寝台券を確保していた私にも無縁の事故ではなくなったのです。

※2018年6月2日 他経路乗車についての記載修正


●寝耳に水の事故
白魔に祟られた上京を終え、普段ならのんびりと在来線で神戸に帰るのですが、さすがに疲れたため夕方の新幹線で帰りました。三連休の最終日というのにガラガラの「のぞみ」自由席で寛いで神戸の自宅に戻り、遅い夕食を摂りながら見たニュースが羽越線事故です。その時にはまだ悲惨な事故とは思いつつも2日後の「日本海」はどうだろうかと安易に考えていたのです。

さて翌朝、事態はかなり深刻であることが判明しました。これでは早期の復旧は難しそうです。
そうなると「日本海」の運行は難しく、選択肢としては東京経由で新幹線を乗り継ぐか、航空機を正規料金で利用するか、旅行そのものを中止するか、という三択です。
ここで問題なのは、単純に神戸発の往復できっぷを揃えていたのではないと言うこと。クルマで上京し、年始にクルマで神戸に帰ることを勘案して、東京を起点とした周遊きっぷを組んでいたのです。そう、25日に神戸へ帰る行程と、27日に「日本海」に乗車する行程を合わせて、「ゆき券」は新幹線、山科経由湖西、北陸、信越、羽越、奥羽、五能経由(五能線経由はまあお好みということです)で仕立てており、「日本海」が運休した場合の扱いが焦点になるのです。

「日本海1号」


●既に「旅行を開始」しているという前提
25日の夕刻に池袋駅の改札を通った時点で、実質的には2日後の出発のために神戸に帰るのですが、制度上は周遊きっぷでの旅行がスタートしています。
神戸に帰りついた時点で、「ゆき券」は山科まで進んだことになっており、新幹線の中で切ってもらった山科からの車補で飛び出した区間は乗車しています。
さすがにこんな経路で旅行するケースはまず無いのか、東京駅の新幹線連絡改札の改札機は、新大阪までの自由席特急券と2枚挿入したら「区間不一致」としてエラー扱いになるし、検札では車掌が絶句し、赤ペンで米原、山科の部分にアンダーラインを引いて確認してました。

その状態で羽越線が不通になったということは、「旅行開始後の列車等の運行不能」に該当したと言うことです。
これが旅行開始前であれば払い戻しを受けるしかないのですが、旅行開始後の場合はメニューが豊富で、
1)旅行中止+払い戻し、2)有効期間の延長、3)無賃送還+払い戻し、4)他経路乗車船+払い戻し、5)別途乗車+払い戻し
と、既に輸送契約が開始されているという重みを感じます。

今回のケースで言うと、
1)山科の時点で旅行を取り止めて、山科−中小国間の20%引き運賃とゾーン券、かえり券を払い戻し。2)開通後5日以内の旅行再開日までの期間を加算して延長。3)1のルールによる払い戻しと東京まで往路と同じ条件で無賃送還。4)最短経路での迂回乗車。この場合は東京経由で青森もしくは秋田まで。運賃料金は迂回区間同士で比較して過剰なら払い戻すが、この場合は不足になるので徴収されずにそのまま乗車出来る。5)不通区間を挟んで別の手段で移動する。当該区間(ex:鶴岡−酒田)に相当する運賃の払い戻しを受ける。
という選択肢がありました。

●無賃送還の選択
さて、取り敢えず北海道には行きたいのですが、東京経由で行くとなると、旅行中止か無賃送還か他経路乗車になります。旅行中止と無賃送還は払い戻しの金額が一緒ですが、前者は東京までの交通費がかかるわけで無賃送還に劣ります。他経路乗車の場合、特急券+B寝台券所持ですから新幹線及び在来線特急の指定席で移動が可能なんですが、東海道新幹線に関しては特急券を別途徴収するという、制度の趣旨を考えると甚だ遺憾な取扱いしかしないケースが多いです。

※2018年6月2日訂正
他経路乗車で同種同格の優等列車、優等車両で移動可能なのは乗車中の列車についての取り扱いであり(ゆえに無賃送還での同種の取り扱いが「させることがある」に対し、他経路乗車では「することができる」と一段強くなっている)、本件のケースでは、元の特急券の無手数料払い戻しと実乗車の特急(新幹線)の特急券購入になります。ただし後述の通り実務では東海道新幹線以外は原特急券でそのまま乗車させていました。

結局、無賃送還の扱いで東京に出て(戻り)、改めて都区内発の仙台経由の単純往復の周遊きっぷを購入することにしました。「日本海」の特急券と寝台券の払い戻しと「はやて」「スーパー白鳥」の指定席特急券の購入の方が、「日本海」の寝台券の払い戻しと、東海道新幹線の自由席特急券の購入よりもよさそうです。それと、乗車券部分も買い直したほうが良いようでした。

明けて26日、昼休みに最寄りの六甲道駅に行くと、「日本海」は運休確定という話でした。
無賃送還扱いで、別途仙台経由で買い直しという対応はすんなり確定したのですが、まだ昨日の今日の話で、さらに無賃送還の対象の舞台が東海道新幹線と言うことで、JR本州3社の調整マターということになったようです。
その場はいったんきっぷを預けて、夜になって結論が出たと言う連絡を受けて再度六甲道駅に出向くと、山科まで普通乗車券を購入すれば新大阪から新幹線の自由席に乗車可能、という扱いになっており、ほぼベストの形態です。

山科での途中下車扱いですから、山科までの区間に付いては払い戻しの対象にならないのですが、どうも聞いてると特急券があったら対応が違っていたような内規があるようですが、新大阪の改札機に吸い込まれているため、その区間の特急券は諦めることになりました。
特急券が無いのに新幹線で無賃送還できたのは、まあ特急券を回収する以上は申し出を信じるしかないし、自由席利用だから揉めない(グリーンで来たといえばグリーンで帰れる)という腹でしょうか。幸い、「ゆき券」には東京第一車掌区の検札印があり、新幹線経由というのは証明出来ますが。

長々とみどりの窓口を占領して申し訳無い感じですが、とにもかくにも「事故返」のスタンプが押された旅行中止となる周遊きっぷに買い直した周遊きっぷ、さらに東海道新幹線に乗せるための通牒に、東北新幹線関係の特急券と、似たようなきっぷを大量に受け取り、翌日の出発に備えたのです。

●無賃送還を受けてみて
さて27日、本来なら「日本海1号」に乗るはずでしたが、まずは東京に出て親戚の家に泊り、28日朝の「はやて」で北上することになりました。
山科までのきっぷを買いましたが、さすがにここで金券屋でお馴染みの「六甲道→大阪」「大阪→京都」「京都→山科」の3枚使いは気が引けて、正規運賃です。きっぷを買って六甲道駅の改札を通ると、「迂回乗車のお知らせ」とあり、「日本海」「トワイライトエクスプレス」の乗客に対し、東京経由の迂回乗車扱いが始まったことを告げていますが、案の定東海道新幹線は別払いです。JR東日本管内の特急も自由席に限るとありますが、制度上は指定席に乗れるはずです。実際、JR東日本管内ではこの他経路乗車船に関してはいわゆる「0円指定券」を発行していたと聞きます。

新大阪に出て新幹線の改札では有人改札に向かい、通牒を見せると、うまく伝わるかなと心配してたのに、一瞥した駅員はすんなり通してくれました。
ちょうど500系「のぞみ」の到着を告げており、夕食時ですが何も買わずに飛び乗ると自由席はガラガラ。検札の車掌に通牒を見せるとこれも驚くほどスムーズな対応です。
結局東京駅の連絡改札では通牒をしげしげと見たものの物腰低く通してくれましたから、ある意味拍子抜けでした。

500系「のぞみ」車内

問題はそこからでして、実はその周遊きっぷ、六甲道駅でクレカで購入していました。そのため払い戻しは六甲道駅などJR西日本管内に限定されると言うことで、東京に戻ったら無賃送還が完了した証明を「ゆき券」に受けてほしいと言われていたのです。
それで「当事者」のJR東日本ならば、と丸の内北口で尋ねると要領を得ず、下車印を押す始末。次いで八重洲北口に行くと縦長の印を押され、やっぱりなぁ、と思って後で良く見ると印面の文字は「再収受証明」、おいおい、それはきっぷの紛失だろ、と呆れましたが後の祭です。
翌朝に八重洲中央口で三度聞くと、「事故返」のスタンプがあるから不要、という解釈でしたが、真相はどうなんでしょうか。26日〜27日は冗談抜きで無賃送還の客が結構戻っているはずですが、てんでバラバラの扱いには困ります。

さて北海道旅行も無事終えて、神戸に帰った年明けにいよいよ払い戻しです。
六甲道駅に出向き、「事故返」に下車印、「再収受証明」と満艦飾の周遊きっぷを出すと、先日と違う若い駅員はそのままバックオフィスに引っ込みました。
どうも先輩に頼んだようですが、最初に相談した駅員の顔も見えており、その人を指名すれば良かったんですが...

さて、あれこれ参照していた駅員がやってきて、確認作業。最初、乗客都合の払い戻しと混同しており、東京−山科の運賃を控除して払い戻し、と言うので、事故等の場合は逆に不乗区間の全額が払い戻しになるはずと指摘すると、すぐ思い出したのは立派です。
その後はマイナス表示(入金)のカード伝票を切って終了しました。

●業務知識のある駅という幸運
あとで調べて見ると、結構この手の扱いに暗い駅は多いようです。確かに東京駅ですらあの体たらくでしたから。
それを考えると、26日に相談した時にはじまり、年明けの精算まで六甲道駅の対応は満足の行くものであり、事故による不通と言うアクシデントの影響を最小限に留めてくれた感じです。

実はそれに先立ち「はまなす」のカーペットカーをオーダーしたのですが、これがB寝台のキーで出すと言うことになかなか気づかず苦戦してましたが(結局満席だったが)、駅員はマニュアルを参照するのと同時に、備え付けの大学ノートをしきりに見ていました。
どうも過去の特殊な事例を記録している備忘録のようで、経験を共有すると言う体制は当たり前のことであるんですが、きちんと出来ているとなるとこれまた難しいものですから、それが徹底していることは良いことです。

発券も機械任せにするのではなく、発券されたきっぷの金額をきちんと見ていますね。以前、新潟県中越地震の影響でほくほく線を迂回した「能登91号」の急行指定席券をオーダーした際、ほくほく線の急行券(200円)と指定席券(100円)が加算されることでイレギュラーな金額になるのを見て、内訳を確認してましたし、こういう対応を見ると、長距離はこの駅で、という気になります。
もちろんプロとして当たり前の行動ではありますが、それを地道に完遂することで、CSの向上にもつながるのです。



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