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「スイスイ・シティ大作戦」への小さな疑問
開かずの踏切を巡る諸問題を考える



エル・アルコン  2005年12月4日


摂津本山・田辺村踏切(2003年10月撮影)


※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。

※2006年2月5日補筆


●「スイスイ・シティ大作戦」とは
「スイスイ・シティ大作戦」というキャンペーンをご存知でしょうか。
「スイスイ・シティ大作戦」のサイト によると、全国連続立体交差事業促進協議会や地方自治体、鉄道事業者が中心となって、鉄道の連続立体化を中心に、交通がスムーズで快適な街づくりを進める取り組みです。

市街地のいわゆる「開かずの踏切」問題は、これまでも社会問題ではありましたが、特に最近は、中央線の連立化切り替えでのトラブルや、東海道線での死傷事故など現実のトラブルの形で世間の目を惹くようになっており、対応が急務となっています。

連続立体化事業については、道路交通の円滑化、また、鉄道で分断された街区の再生という効果に鑑み、総工費の9割を国や地方自治体が負担し、鉄道会社の負担は1割程度となっているのが特徴です。鉄道側では往々にしてこれとあわせて複々線化などの輸送力増強などの改善工事を施工するため、事業全体での鉄道会社側の負担はもう少し増えますが、立体化することによる鉄道会社のメリットを考えると、ベースの部分での1割負担という数字が妥当なのかどうか、再考の余地はあります。

さて、上記のサイトを見ると、全国の「ボトルネック踏切」リストというものがあります。
これはピーク1時間あたりの遮断時間が40分以上の踏切、または、踏切交通遮断量(1日交通量×踏切遮断時間)が5万台時/日以上の踏切と定義され、全国に約1000箇所存在しており、このうち半分の約500箇所がピーク1時間あたりの遮断時間が40分を超えるいわゆる「開かずの踏切」となります。

この「ボトルネック踏切」という言葉が「スイスイ・シティ大作戦の意義」という項目に繰り返し出てくると言うことは、これの重症化した「開かずの踏切」の解消を筆頭に、最終的には「ボトルネック踏切」を消し去ることがこの運動の究極の目的と解します。
ちなみにこのサイト、最新事例が昨年の事例となっており、その他の更新も今春が最後になっており、フォローがないように見えるのは遺憾です。

●地元の「ボトルネック踏切」を見て
サイトには全国のリストがあるのですが、地元ご近所の踏切は、と見たところ、阪急と阪神からノミネートされ、JRからはノミネートされていません。
複々線化されており、日中でも毎時片道16本の新快速、快速、普通に、加えて特急と貨物が走るJR神戸線の踏切が出てこない(神戸市では須磨区と垂水区のみ。阪神間ではあとは尼崎市と西宮市内)というのも不思議です。少なくとも通過本数では一緒ですから、あとは交通量の多寡でしょうか。

一方で阪急はと見ると、あれっ、と思う踏切がぞろぞろ出てきます。
東灘区内では小路踏切に新梅林踏切とありますが、バス通りや甲南女子大方面へ向かう車道との交差は総て立体化されており、どこなんだろうと実際に行ってみるとこれは驚き。小路(しょうじ)踏切は一応クルマが通れるけど、南側の山手幹線には抜けられないまさに「小路」です。

小路踏切

もう一つの新梅林踏切は岡本駅のすぐ東側。こちらは人通りがやや多く、クルマも通りますが、岡本商店街と商店街内の一方通行を通る必要があるので、あまり通り抜けには用いられない道です。

新梅林踏切

交通量でノミネートされたとは到底思えないこの二つの踏切ですが、この両踏切の間にある岡本学校道踏切がノミネートされていないところを見ると、3つの踏切の電車の運行本数は変わりませんから、やはり通行量と言うことなんでしょうか。
ちなみに岡本学校道踏切は同じような細道の踏切ではありますが、山手幹線から真っ直ぐつながり、岡本や本山北町の山手の住宅に真っ直ぐアクセスできるため、両脇の踏切よりはクルマは通っていそうなんですが。

いずれにしろトップに掲載した摂津本山駅すぐ東の田辺村踏切と比べたら、電車の本数もクルマの台数も確実に少ないわけで、これがボトルネック?と怪訝に思ったことは確かです。

岡本学校道踏切

さて阪神のほうを見てみましょう。
東灘区は神戸側から魚崎横屋東踏切、大茶園踏切、深江薬王寺踏切とならんでいますが、どれも4車線道路(大茶園を除いて踏切内のみ2車線になるといういびつな構造)で、東西に広がる神戸市内では貴重な南北の幹線との踏切です。

魚崎横屋東踏切

写真の魚崎横屋東踏切は魚崎幹線、通称十二間道路との交差であり、岡本の山手と魚崎浜を結ぶ幹線でバス通りでもある十二間道路のこの踏切は、踏切内だけ車線が減ることもあってさすがに渋滞が多く、ここを先頭とする渋滞が写真後方すぐに見える阪神高速の下を走るR43にも影響する時もあります。

とはいえ、この3箇所のほかにも同じくバス路線があり、東部市場がある深江浜への通りでもある深江駅前の踏切なんかもボトルネックに指定されておかしくないのですが、こちらは選に漏れています。
(余談ですが、写真の踏切を左手に入ったところで「鉄腕DASH」でTOKIOの面々と阪神ジェットカーが「競争」しています)

深江駅前

もっとも、阪神は芦屋−魚崎の連続立体化に既に取り掛かっており、完成の暁にはノミネートされた3踏切も深江駅前の踏切もまとめて解消されることが決まっています。

●小さな疑問が招く大きな疑問
地元の非常にミクロな話ではありますが、たまたま地元ゆえ気が付いたわけです。
どうしてこれがボトルネック?という疑念が払拭できないようなケースが地元だけで2つも出てきた。その一方でこれがノミネートされるのならこちらが入っていないのはおかしい、という事例もあるわけです。

そうなると、せっかく高邁な理想を掲げていても、中身が伴っているのか、という疑念を呼びかねません。
特に、建設費用の9割を国や自治体が支出すると謳うからには、税金の使途としてその必要性、妥当性は厳しく問われるべきですが、そうしたプロジェクトの中にどう見てもボトルネックではないものが入ってくる可能性を残しているのはいかがなものか。
幸い?計画すらない段階ですが、もし阪急神戸線の連立化が計画された時、この事業で解消するボトルネック踏み切りはⅩヶ所、ということで、効果が過大評価されかねない危険性があるわけです。

おりしも道路特定財源の余剰や一般財源化が問題になっていますが、本当に必要な箇所、案件に適切に配分されていると言う建前で自動車ユーザーが受忍している各種の高い目的税の使途に直結するプロジェクトの中身に疑問を呈する余地があるのでは、一般財源化への反対はもちろん、道路関連の支出とされる項目それ自体の妥当性を問い質さざるを得なくなるのです。

そういう批判に耐え得る内容であることが、今問われています。

【以下追補】
●不思議な改組
さて、上記で「スイスイ・シティ大作戦」のサイト更新をはじめとする活動が2004年を最後に途絶えていることを指摘しました。
ところが2006年1月になって、最寄の私鉄駅に「踏切すいすい大作戦」という内容のポスターが貼りだされました。
「『スイスイ・シティ』はどうなったんだ?」と家に帰ってウェブで確認すると驚きました。 「踏切すいすい大作戦」 と言う立派なサイトが出来ていますが、「スイスイ・シティ」についての言及がありません。構成員はほぼ一緒で、看板を掛け替えたような改組なのに、過去への言及がありません。2005年10月に事実上発足したようですが、どうしてでしょう。

もちろん、「踏切すいすい」のほうは、連続立体化にこだわらず、踏切内の歩道拡幅や歩道橋の設置など、踏切の存在を前提にした「速効対策」をメニューに挙げているように、連続立体化だけに特化した「スイスイ・シティ」とは一線を画しているといえますが、それにしても相互に無関係のように改組してしまうのは不思議です。

ちなみに、ここでもボトルネック踏切が定義を遮断時間だけに限定して「開かずの踏切」として登場していますが、上記の各踏切のうち、連立化に着手済みの阪神電車はリストから消え、JRの田辺村踏切は新規登場したんですが、阪急はそのままどころか小路踏切の東にあるこれも細道の小路東踏切が新登場と、いまひとつ基準が見えません。歩行者との分離の問題を出してきたのが新味なので、その意味でノミネートしているのかもしれませんが。




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