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「ホームドア」設置をどう考えるか
「安全」と「改善」の両立は不可能なのか
※特記なき写真は2011年1月撮影
新大久保駅での乗客転落事故から10年目を迎え、改めて救助しようとして命を落とした2人の追悼行事が話題になっています。
そうした中、2011年1月25日に国交省がホームドア設置について、いつまでにどの程度設置するのか鉄道各社から計画を報告させることを決めました。国交相も「目標値を提出させ、国として設置を促進したい」と述べており、これにより整備が急速に進むものと思われます。
国交省ではホームドアだけでなく転落防止柵のような対策も含むとしていますが、現時点では「ホームドア」が一人歩きしており、実際に転落防止柵で対応するようなケースがでていないだけに、事実上ホームドアの義務付けをしていると見ていいでしょう。
確かにホームドアは線路転落には非常に有効であり、視覚障害者の団体がその設置を切望しているのも理解できます。しかし、バリアフリー対策と比較して整備が著しく遅れているのには、コスト問題だけでない問題があることも事実なのです。
そもそもホームドアが最初に設置されたのは無人運転を前提とした新交通システムでした。その後都市型ワンマン運転(長編成の電車をワンマン運転)を導入した線区で設置されるなど、安全確保、確認の目が届きにくいケースから始まっています。
1981年の開業から採用しているポートライナー (市民広場・2008年12月撮影) |
このことはホームドアが安全対策を目的とすることを強く示しているわけですが、一方でその導入は新交通システムという新しい交通装置であったり、地下鉄の新線といった、その線区でシステムと仕様が完結できる区間だけだったのです。
都市型ワンマン路線での採用例 (大阪市交今里筋線井高野・2007年1月撮影) |
一方で既存区間への導入となると、その大前提となる車両の規格統一という問題が出てきます。
これで混乱したのが東京メトロ副都心線で、ここにホームドアを導入することを決めたため、有楽町線系統の新車として導入されていた、他の車両とドアの位置を若干変えた07系が転出し、車齢の高い7000系が残ったのです。
また、山手線でのホームドア導入に際しては、同一ホームに京浜東北線が走行することもあることを考慮し、6扉車の連結が中止になり、かつ10号車は京浜東北線の先頭車と位置が揃うため、運転台の存在を考慮してドア位置を偏倚させた車両を新造しています。
連結が中止される6扉車 (東京・2010年2月撮影) | ドア位置がE233系先頭車と揃えられた置き換え車 (日暮里・2010年6月撮影) |
関西地区ではさらに深刻な問題として、同一ホームに扉数の異なる車両が発着することが多いと言う問題があります。首都圏でもかつては通勤電車と近郊電車で扉数が違いましたが、通勤電車と近郊電車では走る線路、発着ホームが分かれていることが多いところに、近郊型と通勤型のボーダレス化が進み、図らずも規格が統一されてきています。
一方の関西地区では近郊型は3扉、通勤型は4扉の原則が維持されているところに、快速は近郊型、普通は通勤型といった使用法が多く、同一ホームに扉数の異なる車両がそれこそ1本ごとに入ってくる状態ですから、ホームドアにより開口部を固定すると言うことが極めて難しいです。
さらに阪神なんば線を介して直通運転を行っている阪神、近鉄の両社のように、扉数どころか1両あたりの長さ自体が異なるケースでは(阪神=19m3扉、近鉄=21m4扉)、ホームドアはもちろん、連結部分のみの転落防止柵の設置も難しいです。同様に南海高野線のように橋本以遠からの17m車の直通や、東急東横線、東武伊勢崎線における日比谷線直通電車の扱いも同様です。
長さも扉数も異なる会社同士の直通 (阪神なんば線西九条・2009年6月撮影) |
扉数が異なる状態での運用と言うと、京急の羽田空港国際線ターミナル駅があり、ここでは2扉の2100系とそれ以外の3扉車が発着しますが、2扉車は3扉車の真ん中のドアが無い位置関係になるため、3扉と4扉と言うような位置関係にはありません。(ただし早朝の1往復と言うこともあり、駅側に特段の表示は無い)
さすがに4扉車は完全にずれるため、800系の乗り入れは中止されましたが。
2扉車が来ると真ん中は開かない (羽田空港国際線ターミナル) |
なお新幹線のホームドアは若干のズレを織り込んでいますが、これはもともとホーム側を高速通過するケースへの対応として設置されたため、ホーム端部側に十分なスペースを確保しており、到着時にそこを歩く前提で設計されており、車側のドアと必ずしも連動していないと言う面があります。(後に設置された転落防止柵は転落防止の目的のためホーム端部に設置されている)
端部に余裕がある昔からのホームドア (新神戸・2006年6月撮影) | 通過側のホームドアも停車側の転落防止柵も端部に (品川) |
さて、こうしてみるとホームドアの設置とはイコール20mなら4扉車の導入、統一と言う方向性にならざるを得ない感があります。これは設置が事実上義務付けられる駅の条件が乗降が多いと言うことから、いきおい通勤型が主体の線区となるからです。
しかも4扉車でも特定の規格になるわけで、それが概ね国鉄時代からのドア位置を踏襲したものになりますが、これは既存車両の最大勢力に合わせることから来る条件です。
これは安全対策上止むを得ないと言うことなんでしょうが、果たして本当にいいのでしょうか。
上記の有楽町線系統から転出を余儀なくされた07系は、従来からの4扉車のドア位置を大胆に変えることで接客面での改良を目指した意欲作でしたが、10000系からは再び元のドア位置に戻ったのです。
この間の方針変更がはっきり出たのが東西線用の05系で、途中07系と同じドア位置(というか05系がその嚆矢だった)になり、さらに直近では元のドア位置になって増備が終了しました。
ドア位置を変えていた一時期の05系(西船橋) |
座席幅の拡大を無理なく吸収し、かつ座席定員を極力減らさないという条件への回答がドア位置の変更でしたが、ドア位置の変更が封印された結果、今後は座席幅の拡大というような改善は、座席定員の大幅な減少というデメリットとトレードオフになることを意味します。
ドア位置を変えることでの対応を止めた東西線ではワイドドアの増備が続いていますが、これはドア位置は揃っていて幅が広いということでしょうから、今後はこうした形での改善に限定されることを示唆しています。
ワイドドア車の新系列(15000系、西船橋) |
また近郊型は3扉とか、グリーン車連結列車を設定するといったサービスの多様化を図る施策も難しくなりますし、阪神なんば線のような規格が異なる路線の相互直通運転も事実上不可能になります。JR東日本では次世代の通勤電車のテストケースとして連接車のE331系を試作しましたが、先頭車など一部が16m、中間車が13mで3扉14連と言う既存のスタイルにとらわれない構造とすることで白紙の状態からテストを行っていますが、これも20m4扉でないためこういう構造の採用自体が困難になります。
そういう意味では鉄道車両の進歩、改善と言う意味ではホームドアの採用は決定的に相性が悪いと言えます。
連接構造のE331系(新浦安・2010年4月撮影) |
実際、サービスの多様性と言う意味ではJR西日本ではJR東西線北新地駅へのホームドア設置を決めましたが、これに伴い現在3扉の223系で運転されている、おおさか東線への直通快速を他のJR東西線経由の電車と同じく4扉の207系、321系に置き換えることが決まっており、ホームドアがきっかけでサービスダウンになった初の例といえます。
おおさか東線直通の直通快速 (北新地・2008年3月撮影) |
そして車側のドア扱いにホームドアのドア扱いが加わることによる停車時間の増大も見逃せません。
さらには副都心線開業直後の混乱には、列車が停止位置を滑ってしまいホームドアとずれたと言うケースもあるわけで、ATOなど自動運転系のバックアップがある新交通システムや最近の地下鉄新線で無い線区での導入の場合、こうしたトラブルによる停車時間の増大もまた懸念されるところです。
かなり滑った例(小竹向原・2008年6月撮影) |
駅側の問題としては、あとはホーム面数が取れないなどの構造上の問題から、停車位置を敢えてずらすことでホーム上の行列を分散させているケースがあるわけです。(京急線品川、名鉄線名鉄名古屋など)
始発列車狙いの整列乗車を目的とするものも多いわけで、こうした対応も難しくなるのをどう対応するのでしょうか。
方面別・種別ごとに乗車位置をずらしている (名鉄名古屋・2010年2月撮影) |
安全は総てに優先すると言うのは重々承知していますが、それに伴う「変化」「変更」があまりにも大きいのです。さらに非難を恐れずに言いますと、高齢者や乳幼児連れといった一般的な世代間の問題でもあるバリアフリー対応と違い、本件はそれによる受益者の数が、変化や変更によってマイナス影響を被る人と比べて相当低いことも問題と言えます。
ただし本件が難しいのは、事故発生時は即重大災害になる確率が高く、単純に受益者の数や事故発生件数で図れないことがあります。また社会としてハンディキャップを持つ人への対応は、経済合理性や多い少ないで論じるものではないという大原則ともいえる部分もあります。
そして最近ではホーム端部からの突き落としといった犯罪や不慮の事故も増えてきており、健常者であってもこの対策の恩恵を受ける可能性が低くなくなっています。
先行導入された目黒駅 |
もちろん技術面での解決も不可能ではないですし、安全とサービスの両立は可能です。
しかし現在の流れはあまりにも現実を見ていませんし、性急です。そして社会のインフラとしての鉄道の進歩に大きな影響を与える危険性すらあります。
そう考えたとき、もっと現実と妥協した対応はとれないのか。
偶発的な事故や犯罪への対応は難しいですが、視覚障害者への対応と言う意味では、人的サポートと言う手があるわけです。
現在車椅子での利用については駅員が複数名ついて、誘導やホームと電車の隙間への渡り板の設置などを行い、さらには申し送りまでしており、「業務放送、●号車お客様ご案内です。△△まで」と言う放送をよく耳にしますが、視覚障害者の方は一人で白い杖をついて移動しているのです。
こうしてみると視覚障害者の方への対応は「一段落ちる」わけで、これを車椅子並みの対応にするだけで事故発生率も激減すると予想できます。
ちなみに山手線ではホームドアを先行設置した駅(恵比寿、目黒)では6扉車連結位置につき置き換え完了までホームドアが設置できないため、ここに警備員を配置していますが、こうした人的対応を主にすればいいとも言えます。
6扉車のところにはドアが無く警備員が監視(目黒) |
あまり銭金の問題にするのも申し訳ないですが、人的対応と言うのはコスト高に見えますが、設備投資やメンテナンスコストを考えるとそうもいえないわけで、これは安全対策ではないですが、機械による省力化を考えたが、初期投資の資金負担に耐えられないと判断して、あえて人的サービスで対応する鉄道会社もあるくらいですから、木目細かいサービスと言う意味でも十分検討の俎上に載っていいはずです。
また、この問題で常に指摘されるのがホーム要員が削減されて危険度が増したということであり、事業者が省人化のメリットを保持したまま、利用者のサービスレベルを下げることで「安全対策」を達成するというのも、ある意味一方的な負担の押し付けでもあり、まずホーム要員の復活とそれによる人的サポートの制度化というのが筋ともいえます。
そうやりながら技術開発や車両などの設備更新を待ち、安全とサービスを両立させた対応へと言う、かなり気が遠くなるような対応ですが、実効性はある程度担保できる対応が、妥協点ではないでしょうか。
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