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松江の街歩きにおける交通


松江城のお堀を行く遊覧船


※写真は2006年11月撮影


島根県の県都、松江市。宍道湖に面するこの街は、松平氏18万石の城下町としての歴史をもち、千鳥城の異名を持つ松江城を要に、小泉八雲旧宅など観光スポットを擁する山陰有数の観光地でもあります。特に文豪小泉八雲に、茶人でも名高い7代藩主、松平不昧公治郷に由来する茶事の和菓子など、文化的な観光資源に事欠かない、地方都市としては異色の観光資源を持っています。

松江城天守閣

その松江市、鉄道が街の南側に松江駅を構え、宍道湖から中海を経て日本海に通じる水路を形成する大橋川の北側にお城があり、出雲方面を結ぶ一畑電鉄も大橋川の北側、松江しんじ湖温泉駅を拠点としています。

市内の交通は松江市交通局と一畑バスが担っていますが、 2006年11月に一畑バスは、2007年3月限りで市内路線のほとんどを廃止する旨届け出ました。

平成の大合併による合併で20万人弱という都市規模で、市内交通において2事業者が担うだけの需要があるかは疑問であり、 結局松江市交通局が廃止対象7路線のうち5路線を引き継ぎ、残りは引き続き一畑バスが運行しますが、 市内は市営、近郊路線は一畑という住み分けになるようです。

さて、その松江を先日観光したのですが、観光スポットが点在する市内をトラム風のバスが回っています。また、松江城のお堀には堀川観光船という観光船が回っています。
お城から小泉八雲旧宅などは充分徒歩圏ですが、松江駅や駐車場との行き来を考えると全部徒歩というわけにもいかず、こうした観光対応の循環バスの設定は助かります。

小泉八雲旧宅前を行くレイクライン

ところが上に記した一畑のバス路線廃止問題、対象となった路線には「市内循環線」の文字が見えます。となるとせっかくの循環バスも火の車だったのでしょうか。

実は松江には市営と一畑が別々に循環バスを走らせているのです。
市営が「ぐるっと松江レイクライン」、一畑が「まつえウォーカー」。エリアが分かれてるのならともかく、お城に小泉八雲と、基本的な部分は同じなのです。

中心街。お堀から見たレイクライン

この両者、比べてみると「帯に短し、襷に長し」を地で行く関係で、主要な観光地を網羅し、P&R対応駐車場も通る市営に対し、一畑はお城周辺の基本的な観光地だけで、駐車場も通らない箇所があります。
基本データは、市営は一方通行の回り順で30分ヘッド、1周1時間20分です。料金は1乗車200円、1日乗車券が500円です。
対する一畑は両方向の設定があり、各30分ヘッド、1周40分です。料金は1乗車150円、1日乗車券が400円です。

つまり、一畑は場所によっては逆周りを活用して移動が簡単な反面、市営は最終的には1時間20分バスに乗らないと戻れないわけで、一畑の市内循環線は市営が引き取るようですが、単純にレイクラインへの統合、となると早回りを志す観光客にとっては改悪になります。
市営の所要時間が長いのは、駐車場のほか、宍道湖北岸にある湖北芸術文化村と松江フォーゲルパークをカバーするためですが(閉園時間帯は宍道湖南岸の夕日スポットを経由)、肝心な湖北芸術文化村の中核であるルイス・C・ティファニー庭園美術館が2007年3月限りで閉園となるため、路線の再編は避けられませんが、松江市交通局のサイトではまつえウォーカーやルイス・C・ティファニー庭園美術館絡みの情報が未だ出ていません。他の一畑移管路線の改正情報が出ているだけに、単純にまつえウォーカーの廃止だけということでしょうか。

堀川遊覧船(こたつ舟バージョン)

さらに堀川遊覧船もなかなか侮りがたく、お堀から見る水都松江の風情や、冬場のユニークなこたつ舟もさることながら、P&R拠点(堀川)とお城、さらに中心街のカラコロ広場を結んで周回しており、意外な使い勝手です。1周50分で乗船券は1200円と値段が張りますが、実はこれは1日乗船券となっており、再乗船や乗り継ぎも自由であり、こうして見るとバス2種、観光船1種の循環路線があるともいえます。
※「カラコロ」=木橋だった松江大橋を渡る人々の下駄の音に由来。小泉八雲が親しんだ光景

ただ、これも不満、不備な点があるわけで、遊覧船は2系統に分かれており、堀川からの便はお城に寄らず、カラコロでお城に寄る便と乗り換えになります。P&Rで堀川から来ると、カラコロでお城行きに乗り換え、帰りはお城からカラコロに戻って堀川行きに乗り換えになるため、お堀を2周、都合1時間40分も乗船するのです。

堀川のP&R拠点の乗り場松江城の乗り場

さらに遊覧船にはバス2社にある松江城登城の割引が無いが、駐車場の割引がある、というように、バスを含めて特典がまちまちというのもいただけません。

一方で団体の受け入れには意を注いでいるようで、堀川には観光バス駐車場のほか、観光バスが何台も乗降できる屋根付きのバスベイが用意されており、遊覧船も定期便とは別仕立てで運航されており、おそらくお城から堀川へ直で戻れるでしょう。
そうして見ると、公共交通利用のみならず、クルマを含めた個人客への対応については、循環バス、遊覧船ともどもどこかしらの使い勝手が悪いというわけで、個人や家族、小グループでの旅行にシフトしている昨今の流れに乗っているとは言いがたいです。

遊覧船出札。中央は団体用。個人受付は右の小さな方観光バス降車場。バスはまつえウォーカー

駐車場の対応も、お城を絡めるとお堀を2周するか、歩かざるを得ない堀川の駐車場か、駅の東側にあり、一畑が来ないくにびき駐車場、そして中心部の大手門の駐車場になりますが、どれも一長一短ですし、大手門は本来駐車場を置くべきでないエリアです。

こうして見ると、一級品の観光資源を持ち、かつ徒歩と市内交通でまかなえるコンパクトな都市でありながら、入り込みの交通機関、交通手段と市内移動手段の連携、さらには徒歩をサポートする市内移動手段の体制に些か難があると言わざるを得ません。
観光地の整備に関しても、前述のティファニー美術館の閉園に関しては、美術館経営側と松江市の間で2001年のオープン前から「対立」が表面化しており、今回の閉園も経営不振というよりも、対立の末の撤退と言う色彩が強かったことや、庭園と美術館と言うティファニー美術館に対し、植物と鳥類と言う、コンセプトが似ている松江フォーゲルパークを隣接地に開設させるというように、観光施設の配置に難があるなど(お互い入場料が安くないため、相乗効果よりも取り合いの色彩が濃い)、国際文化観光都市を標榜する割に、全体の展望がいまひとつです。

次々と橋を潜る遊覧船の列

交通のサポートが良くて、観光地としても磨かれているケースを考えると、松江の場合は、観光資源の維持や開発に意を注ぐだけでなく、交通がこれらの足を引っ張らないような体制作りが必要です。
2007年4月のまつえウォーカーの廃止という観光対策の転機に、一長一短ではない使い勝手の良い市内交通への再生を望みたいです。







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