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「お客様混雑」の実態
花火見物の夜の体験から




※特記なき写真は2007年8月撮影


「お客様混雑」
最近鉄道会社が電車の遅延時に理由にする原因ですが、よくよく考えてみれば不思議な表現です。確かに定員をはるかにオーバーする乗客が集中しているからこその遅延ですが、こういう表現をされると、「お客様」とは言ってますが乗客に非があると言われている慇懃無礼な表現であり、どちらかというと輸送力不足を棚に上げて何を言うか、という反感を禁じえません。

この「お客様混雑」ですが、埼京線がりんかい線と直通するようになった2002年12月の改正後、湘南新宿ラインとの輻輳により遅延が目立つようになった頃に使われだしたように記憶しています。
別段事故やトラブルでもないが電車に慢性的な遅延が発生していた理由は乗客の集中に他ならないわけで、その意味では「正しい」のですがそれは皮相的な話に過ぎません。本来は乗客の集中を織り込んだダイヤを組むべき話であり、ダイヤの設定に問題があったと言うのが本当の理由でしょう。

それでもイベント等で本当に一時に乗客が集中するのであれば、それは仕方がない面もあるのですが、どうもこのところこの「お客様混雑」による遅延の頻度が多い気がします。

今年も夏休みに入り、通学客が減ることでラッシュ時の混雑は落ち着いていますが、一方でイベントの開催が多くなることから、週末を中心に混雑が目立つケースが多く、この時期の「お客様混雑」はそうした時間帯に多発しているようです。
そうした夏の週末、あるイベントに出かけたところ、その「お客様混雑」による遅延にあたりましたが、実際にその渦中で体験してみると、どうも原因は別のところにあるようにも思えてきました。



●夏のイベントの特異日
夏と言うと何をおいても花火大会です。大輪の花が夜空を彩り、次々と打ち上げられるスターマインの輝きが辺りを真昼のように染めます。

東京においては、7月の最終土曜日の隅田川花火大会や、8月の第2土曜日の東京湾大華火祭などが名高いですが、首都圏においては8月の第1土曜日が特異日とも言える状況となっており、特に千葉方面は江戸川・市川、松戸、千葉と勢揃いの格好です。

この中でも江戸川の河川敷で開催される江戸川区花火大会・市川市民納涼花火大会は14000発の規模を誇る首都圏有数の花火大会となっており、例年観覧しています。

この日は阿佐ヶ谷七夕まつり、神宮球場の野球もあるなど、中央総武緩行線にとっては沿線でイベントが集中するまさに特異日になっています。

●電車の「混雑」
当日、西船橋駅で東葉高速から乗り換えて例の中間改札を通り緩行線ホームに向かいました。
19時15分の打ち上げ開始をにらみ、18時半前には到着するように例年乗っており、18時10分過ぎというところでしょうか。
ちょうど電車が出たようとするところでしたが、無理せずに見送ったのですが、隣の下りホームから「今度の電車はお客様混雑のため、5分ほど遅れております」と言うアナウンスが聞こえてきました。

おやおや、と思う間もなく、こちらのホームからは「今度の電車は、下り電車での混雑のため、まだ津田沼駅に停車中です」とアナウンス。まだ津田沼だと10分はかかりそうで、それが津田沼、船橋と詰め込んでくることを考えるとこれは参りました。

ホームの人はどんどん膨れ上がり、「今お隣の船橋に停車中です」といったリアルタイムの案内はいいんですが、乗れるんでしょうか。
しかし10分遅れでやってきた電車は思ったよりも混んでなく、いつものように東西線などへの乗換客の降車も多く、すんなり中に入れました。ホームの乗客を詰め込むのですが、後続の接近表示も出ている中、自主的に見送る人もそれなりにいたせいもあってか、朝ラッシュ時を思えばまだまだ、と言った水準で発車したのです。

江戸川の土手へのアプローチは本八幡、市川、小岩の3駅。本八幡でそこそこ降りましたがメインは市川です。間もなく市川、といつもよりかなり手前で減速した電車はノロノロと進みます。
「ホームに大勢のお客様がいらっしゃるため」とのことですが、実際にホームに入ると、これで減速なら朝ラッシュはどうなんだ、という程度。その後実際に経験した階段の様子から推測すると瞬時に人が消えることなどあろうはずも無く、電車を減速させる基準とは何なんでしょうか。

改札へ向かう人波


●駅の「混雑」
階段が近い位置だった(と言うのにその程度の車内です)のですんなりと階段へ。乗車客はエスカレーターを使わせ、階段は降車専用状態です。
とはいえ普段と違い、子供連れや浴衣姿の人も多く歩みは遅いです。特に浴衣姿の人の場合、草履を履き慣れないのかかなり遅い人が目立ちます。

なんとかコンコースに降りると人人人です。
シャポー口と正面(北口および南口)に分かれますが、改札の数は正面側が圧倒的に多く、流されるままに正面に向かいます。PASMOとの共通化でSuicaなどICカード利用がいっそう増えたのか、紙のきっぷ専用出口が少数派。有人通路を含めて12列の通路が確保されており、南側から「紙入出出出ス入入出出紙有」と言うラインナップです。
(紙は紙の乗車券のみ。出は出口、入は入口、スはSuica専用出入共用、有は有人改札)

流れに身を任せますがなかなか進みません。階段を下りたところに「精算所はこちら」と言う看板を持った係員がいましたが、その先に見えるのは南側の紙きっぷ専用通路で、時折列を横切って有人改札、精算所に向かおうとする人がいましたから、あの案内はなんだったのでしょうか。

見ていると紙きっぷ専用通路のほうが流れてます。
改札機のほうは早い時期から通路数と行列数がマッチしており、合流による渋滞と言うわけでもなさそうで、ICカードの処理に時間がかかっているようです。
ようやく通過して愕然としたのは、南北の自由通路は空いています。この付近で待ち合わせなどはしないで下さい、と係員が呼びかけていますが、ちょっと立ち止まっても邪魔になりそうに無いレベルだったのです。

改札を抜けた先はこの程度


●遅延の「原因」は
電車自体は激しく混んでいるでもないわけで、ホームの群集対策で減速、というのがまず第一にあるわけですが、朝ラッシュ時を考えたらそこまで慎重にならざるを得ないレベルの混雑には見えません。もちろん不慣れな花火見物客であることを考慮しないといけないにしろ、やや厚巻き過ぎます。

よしんばホームや階段の滞留が原因であるにしても、その発生原因が問題です。
改札の外は空いていた、つまり、改札機の処理能力の問題です。列が輻輳したり、機会が詰まるなどのトラブルが目に付いた様子も無く、淡々と処理しているにもかかわらず、どんどん改札内に滞留する。これは単純に1通路あたりの処理能力の問題です。

例年同じ時間帯に到着しているのに、今年は電車が10分も遅れるなど、そこまでの人出だったのでしょうか。否、混み具合は例年並み。ホームの人だかりも取りたてて多いとはいえません。花火への人出に至っては会場までの道すがらの状態から見た感じではかえって少なくすら見えるくらいでした。

にもかかわらず駅構内「だけ」が混む。
結局これはICカードへのシフトがさらに進んだことにより、改札の単位時間当たりの処理能力が低下したことに他なりません。
確かに通常時は便利ですが、このような多客時の処理に関しては不安が残ります。きっぷの場合は集札時に停止、減速することはありませんし、乗車時も改札機における入鋏を省略すれば同様に通過流動を極大化できるため、少なくとも改札を抜けた先が詰まって動けない状態で無い限り、歩行速度を維持した格好で処理が可能です。

結局、ホームや階段での対応、改札の処理能力の低下が、電車の運行にまで影響していたといわざるを得ません。

2年前はこのような状況だったが(2005年8月撮影)


●混雑対応は不可能か
鉄道という輸送機関がその能力を最大限に発揮するのは、大量の乗客を短時間に輸送するという局面です。
その意味で、ICカードの導入が平常時はいかに便利であっても、鉄道の特性を最大に生かせる局面での能力を制限してしまうのであれば、本来導入すべきシステムであったのか、という議論すら成立しかねない危うさを持っています。
通常時はいかに便利で、かつコスト面でも有利に働くとしても、異常時に役に立たないという一点においてその導入を否定されるケースは多々あるからです。

そう考えると、ここまで普及したICカードをやめるという選択肢が無いのであれば、このような特殊な状況下における処理能力の向上策を考えるべきでしょう。

また、今回改めて思ったのは、総ての対応が対症療法の域を出ていないということです。
上述の通り、8月の第1土曜日に中央総武緩行線沿線でイベントが集中するというのは毎年の話であり、事前に分かっているどころか、あらかじめ状況が予測出来る話です。
にもかかわら毎度のような、いや、例年以下の対応になるのはどうしたことか。花火見物の乗客がどういう行動を取るか。浴衣姿、慣れない草履履きで足下が覚束ない、というようなきめ細かい対応も実は完全に予測可能です。

さらに、電車が普段の土曜日と同じ5分間隔のままです。おまけに16時あたりからそのパターンをあるタイミングで1分伸ばしてずらすという時間調整まで入るわけで、中野−三鷹の東西線直通との兼ね合いはあるとはいえ、運転間隔を詰める、増発するといった対応がありません。まあこれは改札の処理能力が年々落ちている状態では、いたずらにホーム滞留を増やすだけに終わってしまいますが。

よしんば増発は無理であっても、折り返し時に遅れを持ち越さないように、津田沼や中野のように折り返し電車を待機させられる箇所に予備の電車を待機させ、折り返しが大幅に送れたときには予備の電車を用いて定時に出すというような工夫も出来るのではないでしょうか。

●「お客様混雑」という都合の良い表現
今回の状況を見て思ったのは、「お客様」を遅延理由に挙げながら、その実態は混雑への対応不足によるところが大きく、「会社側の準備不足による遅延」というのが正しいところではないかということです。

もちろん平常を大きく上回る乗客の集中は厳然たる事実ではありますが、大量輸送を旨とする鉄道、それも首都圏の重通勤路線において通勤ラッシュと比較するまでも無いレベルで「ダウン」すると言うのはやはり納得が行かないものがあります。

朝ラッシュのように混雑への充分な対応がどうしても出来ないというのが目に見えてわかる状態ではないわけで、うがった見方をすれば充分な対応を取るよりも、「お客様混雑」として定時輸送を放棄しても大きな問題ではない、という疑念すら起こり得ます。

さすがにそれは言い過ぎかもしれませんが、少なくとも「お客様混雑」として一方的に乗客側を原因とすることだけは慎んで頂きたいものです。









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