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トラムやぶにらみ〜その1
阪堺電車を見る


住吉鳥居前にて


人に優しい、などの謳い文句で都市内交通の切り札のように語られる路面電車(LRT)ですが、我が国における現状はどうでしょうか。
特色ある路線を背景に先進性を語られることのある路線、また、都市再生の切り札として建設計画がある都市、こういった都市のトラムのお手本しては専ら欧州の諸都市が上げられることが多いです。
もちろん国内にもお手本のように扱われる路線があることは確かですが、粗が目立つことも確かです。

このシリーズでは、トラムの悪い面を集中的に取り上げてみたいと思います。そして、こうした欠点をどう克服するかでトラムの明日が決まってきます。


第1回目は阪堺電車。
阪堺電車というと姿かたちは路面電車ですが、かなりの区間で専用軌道だったり、堺市内でのセンターリザベーションが有名です。
もともと馬車軌道で、南海の市内線のような位置付けだった上町線と違い、阪堺線は南海と競合するかたちで設立され、のちに南海に併合した経緯もあり、恵美須町の佇まいはトラムと言うより地方鉄道のそれに近いです。
都心側で専用軌道というのもそうした経緯に依るところが大きいのでしょうが、住吉付近では広くも内道路に変則的に軌道敷を併設した区間もあり、一筋縄ではいきません。

恵美須町

さて阪堺電車は専用軌道区間が多いことや堺市内でのセンターリザベーション区間の存在から、路面電車の「願望」を具現化したような存在として、阪堺のように専用軌道にすれば、とか、阪堺のようにセンターリザベーションにすれば、という感じで語られることが多々あります。

●目立つ不備
しかし、阪堺電車が先進的かというと必ずしもそうではないわけです。
いまや関西圏に留まらず全国での共用化も視野に入っているスルッとKANSAIを、未だに採用しない「現金主義」であるというソフト面での問題に加え、ツーステップもしくは2段分のワンステップという高床車しかないバリアフリーの不備は、いまどきの軌道系交通として立ち遅れていると言えます。

ステップ付き。しかも段差が大きい...

専用軌道区間の多さを活かして都電荒川線や東急世田谷線のようにホームを打上してステップを解消出来ればベストなんですが、大阪市内に残る併用軌道区間の電停がそれを許していません。ホームすら置けずに路上ペイントの電停や、ホームはあるものの、必要最小限の幅と高さに留め、ホームは立って待つというよりあたかも1段目のステップのように使われている電停を高床車対応にすることは非常に難しいでしょう。

西に偏倚した軌道と路上ペイント電停(塚西)ホームで待たずに路側で待つ人々(姫松)

その住吉付近の併用軌道区間は大阪市と阪堺(南海)の資産区分の問題なのか、道路の西側に偏倚して軌道が敷かれています。西側(北行き)のクルマにとっては迷惑な話で、軌道敷を進まざるを得ないうえに、特に二輪はレールによるスリップの危険と、問題が多い区間です。
このあたり、ちょうど住吉ループの大阪市営の赤バスが走っていますが、道路脇から簡単に乗れる小型ノンステップバスと比べると、阪堺電車がバリアフリーの面で見劣りがすることは確かです。

阪堺電車の電停の様子(東粉浜)赤バスはこんな感じ(東粉浜)


●専用軌道の問題
そうした車両やソフト面での問題に目をつぶるとして、阪堺電車の設備面での特徴である専用軌道とセンターリザベーションはどうでしょうか。実はこれも手放しで賞賛出来ない面があるわけです。
専用軌道によるメリットは走行速度の向上ですが、ATSの採用など、軌道というより鉄道に近いシステムを採用することが条件になるわけで、そうなると続行運転が出来ないなどの「デメリット」が出てきます。
阪堺電車の場合は、堺市内のセンターリザベーション区間より南の専用軌道区間では鉄道用信号機による閉塞区間となっていますが、大阪市内の専用軌道区間では鉄道用信号機がないわけで、堺市内のように整備すれば高速化も可能ですが、こんどは続行運転が不可能になり阪堺線と上町線の連携が悪くなるといった弊害も出てきます。

阪堺電車の場合、専用軌道区間が全般的に下町の民家密集地帯と言うのもネックの一つです。
下町の気さくな「チン電」というのが阪堺のセールスポイント?でもありますが、そうした生活との密着感も、電車がのんびりと走っていることが前提でしょう。

北天下茶屋電停浜寺方面を望む

これが専用軌道であることを良いことにフルスピードで駆け抜けたとして、現状のようなフレンドリーな雰囲気が保たれるとは限らないわけで、あちらを立てればこちらが立たないのです。
阪堺電車の場合は線路際への立ち入りが出来ないように柵を新設しており、昔のように線路際が民家の裏庭状態ということはさすがになくなって来ていますが、より厳格に境界線を確定する必要が出てくるでしょう。

商店街の一部と化している踏切(北天下茶屋)

またこうした地平区間で高速走行をすると、当然踏切の支障時間が長くなるわけで、生活道路や路地、また、中には商店街のど真ん中にさりげなくあるような踏切が「開かずの踏切」とまでは行かなくとも、ネックになることもあります。

●センターリザベーションの問題
堺市内を南北に貫く大道筋、旧紀州街道をトレースしており、堺の旧市街の基線であるこの通りを境界に、同じ名前の町が東と西に分かれて1丁目から順に並んでいます。
幅員50m、片側3車線の車道に花壇で区切られた複線軌道は、全国唯一といえる規模であり、完成直後は関係者の視察が絶えなかったとも聞きます。

センターリザベーション区間(大小路)

というわけで、旧紀州街道の時代にはさすがにここまでの大通りではなく、軌道は通りの東側に専用軌道というか、高知の土佐電軌の一部区間のようなスタイルと思われる感じであったのが、戦災復興事業で現在の姿になったそうです。ただ、それが完成したのが1960年ですから、爾来半世紀近く経っても「理想像」の地位に座りつづけていることには複雑な思いを禁じ得ません。

さてこの見栄えは非常に美しい区間、欲を言えば他の車両が乗り入れることはありえない軌道敷の部分を芝生軌道にするとか、石畳調にするとか、夢は膨らむことは確かです。そして味はあるがオンボロの阪堺電車ではなく、他都市の最先端の車両を走らせて見たい区間でもあります。
しかし、実際に乗り降りしてみると見た目の反面、使い勝手という意味では粗が目立つことも確かです。

電停はこんな感じ(花田口)

50mの幅員という大通りのど真ん中に位置する軌道と電停です。街中から阪堺電車に乗ろうとした時、大通りを渡ってというのは意外と抵抗感があります。道路とは壁で区切られ、屋根もある電停ですが、離れ小島のような場所で待つのもあまり感じのいい物ではありません。
このあたりは商店もある歩道側で乗り降りできるバスの手軽さに劣る部分でしょう。

電車を降りるとこんな感じで待つ(大小路)

また、大道筋側がメインストリートになるため、電車を降りてもなかなか横断歩道が青にならないとか、電車が来ているけど青にならないから電停にいけないとか、電車の進行方向と直角方向の移動が必須になることが災いしている面もあります。
一方で電車の側も、電停で停車しているうちに赤になってしまい、また進んでも、宿院や大小路のように交差側も主要道路の場合はそこで止められるケースが多く、行けども行けども信号待ちという感じで、クルマとの完全分離をしても所詮は併用軌道で速達化は多くを望めないと言えます。

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やぶにらみで評価してみるとどうしても辛くなりますが、こうした「欠点」をどう克服するか、またこうした「特徴」を最大限に生かすにはどうしたらいいか。改善が見当違いの方向を向かないための素材として考えていきましょう。






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