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トラムやぶにらみ〜その2
広島電鉄の限界


紙屋町東



第2回目は広島電鉄です。
黒字経営、路線網、積極的な新車の投入、圧倒的な輸送力と輸送量と、まさに日本一の路面電車、トラムの雄というべき存在です。
しかし、その評価とは裏腹に、いつ乗っても混んでいる、分かりづらい、電車が渋滞している、と言うような批判の声も根強くあるのは事実です。

そうした批判を突き詰めると、「中量交通機関」であるはずのトラムに相当な無理をさせている、つまり、過小な規模の設備による収益の極大化という皮肉な評価も可能になるわけです。では広島電鉄〜「広電」の実態はどうなのか、贔屓目無しに見てみましょう。

広電は「のりやすい」のか
低床車グリーンムーバーの導入に代表されるように、トラムはバリアフリーと言う面が強調されています。
道路と同一平面の電停で乗降できることは、地下鉄や新交通システムに比べて確かに上下移動を伴わない分だけ乗りやすく、かつネットの乗車時間を短くしますから、便利な印象を与えます。

グリーンムーバー車内

しかし、それが成立するのは横断歩道により歩道からアクセスできると言うことが大前提です。
幹線道路において横断を伴う電停を設置する場合、電停のためだけに横断歩道を設置するわけには行きませんから、いきおい交差点における横断歩道の途中からアクセスする体裁になります。
一方で道路交通側から見ると、横断歩道の存在は歩車分離が図れていない危険性を孕んでおり、さらに右左折車、特に左折車の進路と干渉することから、道路の容量を下げかねず、出来るだけ除去したいものであります。

さて、広電の要ともいえる紙屋町、広島市の中心街でもありますが、ここの交差点は交通量も多く、横断歩道ではなく地下通路(地下街「シャレオ」)で横断するようになっています。
電停は紙屋町交差点を挟んで東西に設置されており、かつてはどちらも「紙屋町」を名乗り、同一名の電停に2度停まる体裁でしたが、今は「紙屋町東」「紙屋町西」と名称を分けています。

シャレオから紙屋町東電停への入口


この電停へのアクセスはシャレオから階段になっていますが、スペースの関係なのかエスカレーターもエレベーターもありません。
紙屋町交差点の反対側の交差点側までホームを延ばし、そちらから平面アクセスが可能とはいえ、3連接電車が何編成も停まれる向こう側では「紙屋町」ではないわけで、これでは電車がバリアフリーでも意味が無いとも言えます。

紙屋町東
交差点の反対側、前方には横断歩道があるが...

そもそも電停の幅が狭く、車椅子の取り回しが出来るかも疑問ですし、では電停を広げられるかと言えば、道路の車線を減少させることになるわけで、一般車よりもバスやタクシーと言った交通機関の利用が多い道路の容量を下げることは困難です。特に軌道敷内進入禁止となっているだけに、軌道敷以外の部分に右折車線を確保する必要もあるわけです。広電が走る道路は全体的に広いとはいえ、そこまでの対応は不可能です。

こうしてみると、歩道からすぐに乗れるバスのほうに分があるのですが、バスはバスで、八丁堀ですらバス停に上屋が無かったり、紙屋町や八丁堀付近は各系統が重複して分かりづらく、広島駅の停留所位置もかなり違うケースがあり(ロータリーに入るものあれば福屋デパート側もあり、果ては駅から見えないデパートの裏になるものもある)、一見にはまず使えません。

八丁堀のバス停

分かりやすさでいえば広電と言う評価が高いものの、それでも広島駅から見れば比治山下経由宇品、紙屋町経由宇品、己斐、宮島口、江波と5つに分かれており、駅前の案内にはどれに乗ってどこで降りればいいのか、と思案顔で地図とにらめっこしている観光客をよく見ます。
昨今のトラムに「分かりやすい」と言う評価があるのは、路線が整理されて単純な系統になっていることも大きく、広電での様子を見ると、東京都や大阪市の全盛期のような複雑怪奇な系統が張り巡らされていたら、同様の評価を受けていたかは疑問です。


●輸送力は足りているのか
八丁堀や紙屋町付近で見ていると、ひっきりなしに電車が行き交う感じです。
にもかかわらず、どの系統も混み合う感じで、特に単車になる江波系統が宇品(広島港)系統の後走りになっていると、紙屋町から先で前との間隔が空くことで辛いです。
宮島系統は昔から連接車でしたが、己斐(西広島)折り返しや宇品系統など、市内区間だけで運用される系統にも当たり前のように連接車が入っており、列車あたりの輸送力が相当増えている印象です。

単車に続行する老雄連接車さらに単車と連接車が後を追う...

これは1本あたりの輸送力を増やして、運行本数を減らして「電車の渋滞」を避ける目的もあるやに聞いていますが、それでも電車の渋滞は当たり前のように起きており、かつ電車は混み合っており、慢性的な輸送力不足が見て取れます。
電車の混雑は利用する側にとっては厄介で、来ても乗れない、また、降りる際には混み合う車内を運転士もしくは車掌のいるドアに移動しないといけない、と、バリアフリーには程遠い状態です。

連接車には車掌が乗務この連接車は混みあってました...

電車を増やすと今度は電車の渋滞に直結するわけで、もはや限界と言う見方も出来ます。
渋滞していなくても信号のパターンに従って団子運転にならざるを得ず、紙屋町の長い電停を生かして取り込んではいますが、広島駅手前ではそうもいかなくなっていますし、トコロテン式に停車していると時間だけ食うので、連接車が先頭だけ電停にかかった時点で客扱いをするケースもありますが、こうなると混み合っていると後ろに乗っていたら降りられません。

信号パターンをにらんだ運転しか出来ないのもネックで、広島や己斐では1回の青信号で連接車、単車の組み合わせを考えて送り出しているのが実情ですが、広島に向かう電車の場合は信号パターンによって自然発生的に集まった集団であり、駅の手前、猿猴橋町電停などでは、広島駅開通待ちの渋滞が恒常的に発生しています。

広島駅電停を見る単車、連接車、単車の渋滞(猿猴橋町


●立派なターミナルも
その広島駅、さらに宇品(広島港)、己斐(西広島)、横川駅と、ターミナルが次々改修され、他都市のターミナルがややもすれば棒線になって折り返すのに比べると、3線以上持つターミナルもあるなど、規模の違いを感じます。

広島港(宇品)横川駅

しかし、系統が多彩な分、単純に着いた順に折り返せば良い訳でもないことから、満線状態になって入ってこれないケースを広島駅ではよく目にします。乗車ホームの対面に降車用ホームがあり、その先に引き上げ線が3線(1線は比治山下経由宇品行きの乗車ホーム兼用)あるのですが、降車用ホームで取り込むことは極力避けて、引き上げ線で降車させるべく入線を待たせている運用になっていっるようです。
また3線あっても、宇品行きホームと隣の引き上げ線は有効長の問題があり、引き上げ線に連接車が入ると宇品行きホームの出入りが出来ない、ということで、実質2線で捌いている感じです。

比治山下経由宇品行きホームの開通待ちで停車中右側のムーバーが、さらに右の宇品行きホームを塞ぐ

また乗降時の運賃精算による停車時間の増大を回避するため、広島駅にはホーム上にカードリーダーを設置しており、あたかも簡便的な改札があるイメージです。また引き上げ線のホームには料金箱を押した駅員が待機し、ホーム上で清算する体制になっています。このホームでの精算は多客期の紙屋町や八丁堀などでも見られる独特の光景でして、連接車の場合は乗務員が2名いて、「駅員」もいるという、普通鉄道のそれと大差がない状態になっています。

ホームにあるカードリーダーホームで待機する「駅員」

こうした対策、さらに共通バスカードの導入、普及による現金扱いの減少で、何とか乗り切っていると言う印象を受けます。

●乗客への負荷で成立しているのでは
こうしてやぶにらみ的に見てみると、環境に優しいことは事実だとしても、人に優しいとは言えません。
広電の経営成績は確かに良好ですが、それが乗客もハッピーなwin-winの関係とはいえません。いくら環境負荷が低くても、乗客の負荷が高いのでは、胸を張れないでしょう。あるべき設備、輸送力を整備しないで多くの輸送量を捌いていて儲からないはずがないのです。

そう考えた時、広島の都市圏、都市内交通のあるべき姿として現状がベストなのか、トラムを機軸に据えることの是非から見直す必要があるのかもしれません。そして、需給のバランスが崩れている状態での運営をお手本に出来るのかどうか、他都市の取り組みもまた問われるのです。





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