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トラムやぶにらみ〜その3
神戸のLRT計画


北野・異人館街

※写真は2006年1月撮影


第3回目は既存事業者ではなく、神戸の計画・構想です。
かつては東洋一の市電とまでいわれた市電があった神戸ですが、1971年に神戸高速鉄道や市営地下鉄に譲る形で全線廃止になりました。現在では地下鉄のほか、市バスが当時の市電網をトレースしており、石屋川車庫から三宮神社への92系統など利用が多い系統はさすがにもと軌道という感じです。

そういうノスタルジーとは別に出てきたのが現下のLRT構想です。
神戸特有の海が山に迫る地形、そのため交通網は東西方向に発達しており、南北方向は勾配を伴うこともあり道路網からして発達していません。そのため三宮や元町などの拠点から、山手、浜手に点在する観光地や商工業、行政機関へのアクセスがいまひとつであり、そうしたアクセスや、街の回遊性向上を図る目的で構想が上がっています。

足下のところ、市民団体や一部研究機関が具体的な構想をしている段階ですが、行政当局もある程度の検討予算を確保してきていることから、今後具体的な話に進むことが予想される路線ともいえます。

今回は、その構想のうち、山手で異人館のある北野町と、三宮などの中心街、そして浜手の旧居留地や港湾施設を結ぶという、官民の計画に共通して語られる「基本路線」の成否を考えて見ることにします。
回遊コースとしての整備が期待され、実際に需要も相当なものがあることが確実視されますが、一方で地形的制約からくる問題も山積しています。こうした状況で「公共交通」をどう整備すべきか、難しい問題なのです。

「東洋一」の市電(本山交通公園)


●山手から浜手へ
「山手」「浜手」は神戸特有の位置関係の表現です。北から六甲山系が迫り、南は大阪湾が控えるという、東西に長く伸びた市街地において、その位置関係は背後の六甲山、正面の大阪湾(神戸港)が基準になります。その六甲山系側を「山手」といい、神戸港側を「浜手」というのですが、LRT計画は概ね山手から中間にある各線の三宮駅あたりを通り、浜手に向かう路線をイメージしています。

各線の三宮や元町からは距離的にはたいしたことがなく、それぞれ1km程度にすぎないのですが、山手方面は勾配が連続しており、かつ山手から浜手まで通しても2km程度ということから、これまでバス路線も含めて交通機関が整備されてきませんでした。
一方で観光客の回遊を考えた時、山手は山手、浜手は浜手と分散しており、浜手でも三宮、元町、神戸と各駅から往復する形態が多く、神戸の街をぐるっと回るような回遊性に乏しかったわけです。

1990年にその不便を解消すべく登場したのが巡回バス「シティーループ」で、午前10時前から18時前までの間、三宮、神戸、新神戸駅などと北野町周辺とメリケンパーク、ハーバーランド(土日は神戸駅、ハーバーランドには入りません)を周遊しています。

シティーループ(地下鉄三宮駅前)


●なぜLRTか
シティーループはトラム調の専用バスにコンパニオンが乗車して、市内観光バスのような感じになっていますが、平日で毎時3本、土日で毎時4本と、神戸市内における路線バスとして考えてもまずまずのフリークェンシーを確保しています。
なりがトラム調だけに、本物のトラムになりたい、ということではないでしょうが、LRTを導入するということはシティーループのルートを基本的にはトレースすることになります。

しかし現状のコースは、一方通行などの規制に対応するためにルートが工夫されておりますが、LRTでも一方通行ルートにするのか、また軌道系交通の導入となると、バスなら簡単に対応できる勾配も大きな障害になる可能性があります。

そして軌道系交通のメリットは、ひとえにその輸送力にあるわけですが、現在のシティーループが輸送力逼迫という話を聞かない、厳密には便によっては立客が出るケースも多いが、毎時4本レベルであることから増発対応が可能であるだけに、低公害車や電気バスの導入で増強することに対するメリットをもっと明確に打ち出さないといけません。

北野町付近の東西道路は一方通行


●山手エリアを見る
では、構想のルートを見てみましょう。北野からメリケンパーク方面へ向かって見ます。
まずは新神戸での新幹線、地下鉄連絡は外せません。新神戸駅前のロータリーにどのように入れるかですが、2層に分かれたロータリーの下階にバスが発着しているので、そちらに電停を設けることは可能でしょう。

布引交差点から新神戸駅方面

駅前の布引交差点を左折してフラワーロードを真っ直ぐ下ると三宮ですが、北野へ向かうには、すぐ下手の新神戸オリエンタルホテル前の交差点で右手に向かう道路に入ります。

布引交差点付近から三宮方向のフラワーロード北野へは正面の通りを上がってゆく

この北野への道は北野から布引への一方通行になっており、シティーループも北野から新神戸に向かった後、三宮へはフラワーロードを直進します。また、この道は山本通や平野からの抜け道になっており、LRTをここに通すとして道路交通を規制した場合、下の加納町交差点の負荷がただでさえ高いのに、さらに高くなる懸念があります。

北野への坂道(一方通行)上り詰めると異人館街(左折すると不動坂)

この道もいい加減急勾配ですが、ここからさらに上のうろこの家のほうに向かう案も見受けられますが、バスも通わぬ急勾配、無理という以前の問題でしょう。
そして上り詰めた北野の異人館街の取り回しが難物です。先ほどの上り坂も含めて、複線軌道を確保することが困難なことに加え、三宮方面への下り道をどこにするかによって、条件が変わってきます。

不動坂。狭くて急勾配観光客で賑わう異人館街

南北に貫通しているのは不動坂、北野坂、トアロード、鯉川筋ですが、まず不動坂は狭くて急すぎます。トアロードは山手幹線の北側に「北野工房の街」に併設する形で観光バスのターミナルを設け、シティーループとのP&R拠点になっていますが、ここは山本通や平野方面から市街地への通り道であり、市バス7系統が頻発することに加え、再度山へのルートでもあるため、軌道を併設して負荷を高めることは困難です。

北野工房の街での観光バスとのP&Rいったん山手幹線に戻って北野坂へ向かう

また、トアロードのてっぺんから異人館街までの通りが狭隘で、軌道を通すことが困難です。(シティーループも北野工房の街から直接トアロードを上がらずに、北野坂まで回ってから上がっている)

トアロード(山本通3丁目)異人館通りは北野坂からトアロードまでこんな感じ

トアロードは山手幹線から南で南行き一歩通行となっており、北行きは西側元町駅前を通る鯉川筋が対応しています。この鯉川筋は山手幹線から北が狭い商店街になっており、トランジットモールにするのも憚られる状態だけに、トアロードや鯉川筋の活用は厳しいでしょう。

山手幹線以南のトアロード(南行き一通)山手幹線以北の鯉川筋

そうなると残るは北野坂ですが、実はここは三宮駅北側の生田新道まで真っ直ぐ抜けているわりに、通過流動が入らない位置関係にあるため、ここに軌道を通すのは容易そうですが、勾配が心配です。生田新道からの単純往復にして、サンフランシスコばりのケーブルカーにすれば、観光資源としても有望かもしれません。

北野坂


●浜手エリアを見る
浜手エリアを見る前に問題となるのが、山手ルートと浜手ルートの接続です。
シティーループはフラワーロードを通りますが、ここは各線三宮駅前であり、南北の交通の集中するポイントですから、軌道を併設する余地はありません。

三宮駅前のフラワーロード(浜手方向)

さらにJR、阪急の高架線を抜けるポイントは限られており、その南へ抜けるのもセンター街の商店街が並んでいてこれも限られます。
結局生田筋、トアロード、鯉川筋となるわけで、南北の回遊を考えると、先に困難としたトアロード経由のほうが優れています。

高架線を潜るトアロード。両側は有名な「高架下」

北野坂を降りてきて、生田新道でトアロードまで移動してからトアロードを南下(北上は鯉川筋)というのが無難ですが、もしくは生田新道から三ノ宮駅北側を東に進み、神姫三ノ宮バスセンターのところでくぐって、そごう裏を西に進んで三宮中央通りに入ると言う手もあります。この場合、軌道敷きになる部分はバスとLRT専用というようにすべきでしょう。

南京町

浜手のコースですが、シティーループを見ると、三宮中央通りを南京町、つまり元町駅のあたりまで西進して、そこからメリケンパーク方面に向かいます。これだと旧居留地が全くカバーされておらず、やや使い勝手が悪いです。
旧居留地には博物館があるほか、その浜手には合同庁舎、法務局もあり、業務需要にも応えられるメリットがあるだけに、そこを外すのは得策ではありません。

京橋交差点から京町筋の山手方向を見る京橋にある合同庁舎。奥は水上署。裏は桟橋

ただ、南下ルートを道幅の広いフラワーロードに求めると、このコースは1966年に最初に廃止された(それ以前から朝夕だけの運用に縮小されていた)税関線に重なるという因縁があるわけで、ここは旧居留地のメインとも言える京町筋を通したいです。ここなら南端が合同庁舎であり、利便性が高いのですが、ネックはR2との京橋交差点で、この交通量の多い交差点を右折というのは厳しいです。

税関前付近からフラワーロードの山手方向

次善の策としては、トアロードからそのまま明石町を南下するコース。南行き一通なので再編が必要ですが、道路交通と上手に分離でき、かつ南京町や合同庁舎から離れていないメリットがあります。
R2との交差点をそのまま突っ切り、小公園を経てメリケンパークに入れば完璧ですが、そこに水上署の別館があり、これさえなかりせば、という感じです。

明石町(大丸横)R2への出口

メリケンパークからはポートタワーから中突堤に回すか、旅客ターミナル経由でハーバーランドに回すか、いろいろありますが、導入空間に問題はありません。まあハーバーランドを回して神戸駅に向かうようにすれば回遊性が高まります。駅前に入れなくても、地下道で繋がったR2の南側に寄せても良いでしょうか。

中突堤ターミナル中突堤からメリケンパーク方向


●神戸のLRTは出来るのか
まず山手方面、北野から新神戸というルートはかなり難しいです。また北野へのコース取りも案外と限られます。
浜手と切り離して、三宮の生田新道から北野坂を往復するケーブルカーというような、それ自体が観光資源になる交通の導入のほうが成功するかもしれません。現行のシティーループとの関係ですが、コースが一方通行ということもあり、片道利用になりがちであり、かつ北野からの下りが大回りになるので、往復型のほうが楽かもしれません。問題は北野から新神戸(布引滝、布引ハーブ園)への連携で、飽きさせない工夫を施した散策路として整備したいところですが、震災前はもう少し小洒落た感じで視界も効いたのですが、今はマンションが立ち並び視界も効かないだけに、分断してしまう懸念があります。

マンションが立ち並ぶ布引からの坂道

浜手方面ですが、山手との一体感が求められるのは分かりますが、各線とのアクセスと南北直通を両立させることはかなり難しいです。
逆に、山手は山手、浜手は浜手として、旧居留地からフラワーロードを越えて、磯上地区までコースを伸ばして浜手循環に特化した回遊コースを狙ったほうが良いかもしれません。

ただ、いずれにしても、まず需要があるのか、流動があるのか、ということを確認することが必要です。
そのためにも、シティーループを使って、LRTの構想ルートを辿らせて見て、利用者のニーズにあっているのかを見るべきでしょう。そうしたうえで、軌道系交通を導入する意義や価値、かつ回収可能性を検討すべきかと思います。

トアロードから山麓線に入る7系統
次の信号を右折すると再度山ドライブウェイ

神戸の計画はもともとの人口集積や観光需要があるだけに有望ではあります。しかし、その地形的特徴から、勾配の問題、さらには市内を通過流動が通らざるを得ないことによる、軌道系交通を優先した規制の是非の問題もあります。
特に東西交通は浜手バイパスでバイパスされているとはいえ、六甲山を貫通する南北方向、さらに東西方向のうち北須磨や西神方面とのバイパス流動が、新神戸トンネル、山麓バイパスの出口がある新神戸駅付近に集中しているため、中心街からの通過流動の排除が困難な面があります。

山麓バイパス出口はホテルの下から...

神戸のLRTは回遊流動に特化した計画だけに、軌道系交通を充実させても、市街や裏六甲方面への自動車交通を代替する能力はないことに留意すべきです。

そうした特殊な状況下で、道路交通と軌道系を共存させることが出来るのか。もしくは、バスではダメなのか。
はじめに軌道ありきではない、道路交通の確保も重視した議論が望まれます。








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