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トラムやぶにらみ〜その6
広電白島線の存在意義


八丁堀で発車を待つ白島行き

※写真は2007年7月撮影


第6回目は再び具体論。初夏に話題になった広電白島線を巡る騒動に関する話題です。

2007年6月13日にに広島商工会議所が出した交通に関する提言、その中で広島電鉄の路面電車に関して、かねてから要望が出ている平和大通り線や駅前大橋線の新設とともに、白島線の廃止が織り込まれていたことが波紋を呼びました。

提言自体は全体的に公共交通の整備発展を促す内容であり、広電に関する部分もスクラップアンドビルドというより、拡充とも言える内容ですが、既存路線の廃止、という箇所は刺激的に過ぎたのか、賛否両論、多くの議論を呼びました。

特に広電は商工会議所の会員企業であり、広電社長が常議員を務めており、今回の提言のとりまとめを行った運輸部会の部会長が常議員の広電社長という前提条件だけに、提言の是非とともにさまざまな憶測を呼んだことも事実です。
そうした中、26日には広島市、広電ともに廃止に否定的なコメントを出したため、騒動は収束に向かったようです。

●白島線の沿革
白島線は1912年開通。原爆投下前は今より西側を走っていたが、原爆からの復興時に白島通りに移して1952年に復活しています。利用は1日3500人程度です。

八丁堀で相生通り(電車通り)を走る本線系統に接続しますが乗り入れは無く、そのため線内利用は100円と50円安くなっています。(乗り換え利用は他と同じく150円)
線路自体は複線で紙屋町方面に乗り入れできるようになっていますが、八丁堀の電停が片面だけで、終点白島電停も単線です。

運行間隔はほぼ終日7分間隔。これは単線使用となる八丁堀と白島の折り返しを考慮したものと思われます。
本線筋から外れた盲腸線ですが、官公署や文化施設への利用があるとされています。また、最新のLRVが走る本線筋に対し、元京都市電や大阪市電などの古参が走るレトロ路線で特色を出している面もあります。

八丁堀で発車を待つ元京都市電


●なぜ廃止論が
広電の電車自体は堅調で、かつ平和大通り線などの新線を提言するにしても、あえてここで白島線の廃止を打ち出す理由に乏しいのは事実です。

今回の提言では白島通りの有効幅員を制限している軌道敷による渋滞が激しいことを理由にしています。特に八丁堀交差点以南で白島通りは中央通りと名を改め、市内を南北に貫く主要道路の役割を担いますが、中央通りは片側3車線のため、片側2車線とはいえ軌道敷の影響で実質片側1車線になる区間もある白島通りとの格差が激しい渋滞を招いていると言う批判も大きいです。

中央通り。新天地付近から八丁堀方向

広島市街地は電車通りより南にR2が通り、広島港があり、官公署やビジネス街があるわけで、ニュータウンや高速ICがある北側との南北流動があるわけです。
大田川が作った三角州の街である広島は、東西方向の道路に橋が多いことはいうまでもないですが、南北方向は扇の要から分岐する各河川をこれもまた越えるわけで、ルートが限定されます。

その数少ないルートが白島通りであり、あとはR54祇園新道とR54程度。前者は紙屋町の北側、バスセンター入口から広島城のところでクランク状に曲がっており、後者も横川駅前でクランク状になっていて、さらに中心街と言うよりは西外れを縦貫する格好です。
その白島通りが中心街の八丁堀でボトルネックになっている現状は問題でしょう。

白島側から見た八丁堀交差点。苦しいレイアウト


●白島線と関連する交通
広電バスの市内線(6号線と12号線)が並行する格好です。
市内線は郊外〜中心街〜郊外と言う運行形態となっており(郊外といっても旧市内であり、広島で言ういわゆる「郊外」とは違う)、前者が江波〜八丁堀〜牛田早稲田、後者が仁保〜八丁堀〜戸坂という運行形態になっており、八丁堀と白島の間が並行区間になっています。
両路線とも基本的に日中平日毎時6本、土休は毎時5本であり、両系統あわせると電車より多いものの、どちらか一方となると電車のほうが多いです。

牛田早稲田行きの6号線

なお厳密には両系統の経由は違っており、6号線は白島通りの100mほど西の片側1車線の道路を走りますが、これは戦前の白島線の経路のようで、官公署や逓信病院はこちらの通り沿いにあります。

白島通りの1本西に入る6号線バス


●中途半端な路線
「白島線」といいながら終点の白島電停は白島の南端。と言うか白島の入口にあるわけです。
白島の中心までは500mほど。とはいえそのあたりまで進むと今度はアストラムの白島駅まで300mほどと、アストラムと祇園新道のバスという交通の大動脈とかぶってしまいます。

そういう意味では誤解を招きやすい「白島線」というよりも「八丁堀線」とでもして、都心の水平エレベーターとしてさらに磨きをかけたほうがいいのですが、輸送力が逼迫してパンク状態の本線部に乗り入れる余地が全く無いことが八丁堀での乗り換えを必須にしており、両方向への乗り換えとも横断歩道を2度横断する煩わしさは水平エレベーターとしての効用を削いでいます。

白島電停


●積極展開の勧め
なんとも中途半端な白島終点ですが、その先へ延ばせないものでしょうか。
白島通りを道なりに進むとほどなく祇園新道にぶつかるわけで、アストラムと被っては共倒れです。

一方、6号線、12号線のように牛田大橋を渡り、牛田方面にむかってはどうでしょうか。
広島駅にも近い牛田地区は古くからの市街地であり、最近ではマンションも多く見られます。中心街にも程近いことから、転勤族が牛田に住居を選ぶことも多く、八丁堀方面への需要は十二分にあります。

実は6号線のバスに乗ってみたのですが、日中でも八丁堀では座席が埋まり立客がでる盛況であり、逓信病院などの利用もありますが、牛田大橋を渡り牛田に入っての利用がメインです。
商店街のある牛田旭に一回入りUターンし、小川沿いに山に分け入る通りを登り、神戸を彷彿とさせる急坂の上にある牛田早稲田の団地まで八丁堀から25分。牛田旭までなら10分もかかりません。

さすがに牛田早稲田は無理としても、牛田旭までは可能性が充分あるでしょう。

山の上に住宅街が広がる牛田早稲田


●延伸ケーススタディ
延伸への最大の障害と言われるのが白島のJRガード。ここの高さが微妙に低く、道路を盤下げすると冠水のリスクがあると言うわけで、確かに白島電停で止まっている路線の理由として最も説得力があります。

白島電停付近から見たJRのガード

ここの改築、もしくは道路の改良を現実のものに出来れば将来が開けます。
後は牛田大橋ですが、ここも電車の通行に耐えるだけの構造かという心配があります。

牛田大橋

この2箇所をクリアできれば、道なりに進めば牛田本町から牛田旭に至ります。
実は牛田本町から牛田旭までの区間、ドンツキの牛田旭は路地が何本か抜けてはいますが、事実上の袋小路です。そこまで4車線の道路が伸び、ロータリーの出来損ないのような構造になっており、6号線のバスもここでぐるっと回って折り返すのです。

牛田旭の「ロータリー」

見た瞬間、これこそ電停の終点にふさわしいと感じましたが、通り抜け流動が少ない多車線道路で、しかも商店街がある拠点という好条件が重なっているのです。トランジットモールにでも、と夢も膨らんだことも事実です。

白島線がここまで延びてきたら大化けするでしょう。
牛田早稲田に向かう6号線のバスはバスが通れる道を探して迂回していますが、山にかかる手前の牛田東のあたりは牛田旭から歩いて10分もかからないわけで、山の上の早稲田団地はともかくとして、ふもとの拠点の牛田旭から電車で八丁堀まで、となったら革命的です。
需要も、朝は早稲田始発は牛田旭に入らず、別途牛田旭始発の便を設定している位の需要があるわけで、相当なものでしょう。

ただそうなると白島通りの渋滞問題がさらに深度化する懸念もありますが、例えばグリーンムーバーを導入する代わりに運転間隔をある程度取り、単線+電停で交換という形態にすれば道路の幅員を確保できるでしょう。
また、八丁堀から白島までの区間、6号線バスの通る道路に移設し、タクシー、バス、電車専用道にすると言う手もあります。縮景園など観光利用には遠くなりますが、官公署には近くなり、また白島通りは軌道を撤去するため充分な幅員が取れます。

6号線のバスはここで転回


●このまま中途半端なままなのか
白島線の廃止問題は、広島市と広電が廃止に否定的な見解を発表したことで沈静化しましたが、見方を変えればこれは現在の中途半端もいえる路線の抜本的対応を先送りしたと言うことです。

バスより輸送力があるとされる電車が、専用の軌道敷を使い他の交通を排除して、バスよりも狭いエリアの限定的な輸送のみに使われる現状が果たして公共交通の適材適所としてふさわしいのか。

延伸して電車の特性を活かすのか、それとも電車である理由はないとしてバス化するのか。
白島電停から牛田旭までは歩いても15分程度という狭いエリアにおいて中途半端なままで路線を残す意義はないでしょう。
レトロでもノスタルジーでもなく、先を見据えた合理的な決断こそ、トップランナーとされる広電には求められるのです。

白島通りを行く






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