このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





トラムやぶにらみ〜その7
堺市LRT計画、臨海部延伸計画を見る

堺浜シーサイドステージ

※特記なき写真は2008年2月撮影


第7回目は既存路線のスクラップアンドビルドと絡めて新設プランが具体化した堺市の話題です。

堺市は 2008年1月23日付の大阪朝日 で報じられたように、阪堺電軌の堺市運賃区間の我孫子道−浜寺間を公有民営化し、運営は南海と阪堺出資による新会社に委託する方針を固めています。
これとリンクする形で、阪堺線と大小路で交差する、市役所のある南海高野線堺東駅から南海線堺駅までのLRT新線も公設民営方式での整備を決定しており、南海系の運営会社が両線を一体化して運営することになります。

そのLRT新線は2010年の開業を目指していますが、シャープの新液晶パネル工場の進出が決まった堺浜までの延伸を早期に実現すべく、堺市では2008年1月15日付で 鉄軌道推進室 を設置し、一体整備を推進しています。

堺東駅と堺駅を結ぶ大小路ルートについては一本道でもあり、建設に関しての障害はあまりないといえます。しかし、そこから堺浜への延伸については、道なりともいえますが、細かく見るとなかなか一筋縄でもいかないようです。

●まずは堺浜
2005年6月に トランスロール実験線の見学 に行った際に、新日鉄堺製鉄所の遊休化した西半分の「荒野」に伸びる実験線の印象が強かったのですが、それから2年半余り足遠くなっていました。

そうした先日、たまたま大阪南港に所用があり、そこから住之江公園を経て大和川を阪堺大橋で渡り、前回のルポと同じように松屋大和川通から堺浜に向かいました。
商業施設の看板が立ち並び、様変わりを予感させる道路を走り、製鉄所を回りこむと、それまで原野の正面にくすんだ酸素工場が見えた風景が一変しており、商業施設が道路の右側に並んでいます。さらに奥にも商業施設は続いており、これは驚きました。

その2006年4月にオープンした 堺浜シーサイドステージ は、映画館とアミューズメント、温泉施設、レストラン、ホームセンター、電気量販店からなる商業施設です。まあ郊外のロードサイドではおなじみのスタイルですが、堺浜開発の先兵として奮闘中というところです。

シーサイドステージの商業施設

そこから「海とのふれあい広場」へ向かう道路の左側に延々と続くフェンスの向こうにトランスロールの実験線が見えていたのですが、それが高い工事用の仮囲いになっており、視界が利きません。ところどころある開口部(警備員が立つ出入口)から見た感じでは、実験線は跡形もなく、造成地には杭打ち機などの大型重機が無数に立ち並んでいます。

これがシャープ工場の建設現場であり、LRT新線はシーサイドステージまでなのか、シャープまで行くのか、埋立地先端の「海とのふれあい広場」まで行くのか、どうなるのか。

実験線があったあたりは今はこう2005年はこんな感じでした


●堺浜へのアクセス
大規模商業施設ができている堺浜ですが、地方のロードサイドのようにクルマでのアクセスだけ、というわけではありません。
LRT延伸を訴えるためには公共交通需要、実績を積み上げる必要があるわけで、南海バスの路線バスが堺東駅、堺駅西口からの堺市内北回り線がそれぞれ毎時2本乗り入れています。

ユニークなのは2007年6月から堺浜シーサイドステージでの乗降の場合、運賃が無料になること。堺浜シーサイドステージ停留所での降車時には運賃を徴収せず、乗車時には整理券を受け取ることで、降車時に運賃を支払わずに降車できるというシステムです。
(堺浜シーサイドステージとそれ以外の全停留所間で適用)
また、商業施設側でも地下鉄住之江公園までの送迎バスを毎時1本出しています。

シーサイドステージの裏手にはバスが発着するだけの交通広場があり、将来のLRT延伸はここをターミナルにするのでしょうか。

シーサイドステージの交通広場


●三宝へ
ここから堺市街へのルートですが、まっすぐ向かおうとすると製鉄所を横断することになります。製鉄所の南岸は稼働中の施設ですから通れるわけもなく、道路同様北側を迂回することになります。

阪神高速湾岸線と出会う松屋大和川通まで来たら、しばらくは阪神高速下の道路を行くことになるでしょう。道路幅や、三宝ランプの施設を考えると現在の道路に単純な併設は難しいですが、製鉄所の敷地を若干融通してもらう形で道路の西側に軌道を設置すれば何とかなりそうです。

このあたりは製鉄所正門までは需要があまり望めそうにないのが難点です。

三宝ランプ付近(右が製鉄所)


●戎島町まで
ここから堺駅にどう取りつくかです。
正門前から新なにわ筋の浅香山通交差点に取りつく大堀堺線を通るか、一本南の通りで三宝公園前で新なにわ筋に取りつくか。

しかし新なにわ筋は三宝公園前で大阪臨海線につながる高架道路を分岐する構造となっており、そのまま地平でR26につながる「側道」に軌道を配置することは難しそうです。

新なにわ筋の高架道路の分岐

また、新なにわ筋がR26に合流する北公園前交差点は、すぐ南の戎島町交差点と主要交差点が連続することから滞りがちで、道路の容量を減らすことなく軌道スペースを捻出することは特にR26側は非常に難しいです。

結局高架下のスペース、厳密には新関西製鋼の駐車場となっているスペースなどを購入するなどして活用して古川沿いに出て、古川水門まで向かうルートがよさそうです。
しかし、戎島町を目前にしたこの地点からが難しいです。

古川沿いに戎島町へ


●堺駅まで
ここから堺駅にどう入れるか。
三宝から来たルートは古川の右岸。戎島町交差点は古川の左岸にあります。

あくまで併用軌道にこだわるのであれば、R26に入って、堺駅西口交差点で曲がることになりますが、ただでさえ負荷が高いR26に軌道を入れる余裕はありません。また、戎島町交差点の信号パターンに古川右岸に抜ける軌道が専用で使う時間を確保することも渋滞の激化につながります。

戎島町交差点から見た古川水門

現在の交通流動は堺浜にほとんど絡んでいないわけで、LRTによって代替できない流動です。さらに堺浜の開発が進んで自動車流動が増えることを考えると、道路へのこれ以上のしわ寄せは無理です。

戎島町でR26の西側に並行する形で(信号パターンは道路と共用できる)南下し、T字路の堺駅西口入口交差点でR26を横断して駅に入るルートも、三宝付近の製鉄所用地と違い、R26ぎりぎりまで堺化学の建物や工場が迫っているだけに不可能です。

逆に戎島町でR26を一気に横断し、古川をどこかで渡って南海線の西側に並行する形で西口に入るルートのほうが現実的です。用地を見ていると、南海バスの工場や駐車場など、その気になれば活用できそうな土地です。
もちろん、このエリアだけ立体交差で交わせれば問題はないのですが。

堺駅西口入口交差点からR26方向を見る


●「堺東西ルート」との接続は
一方でこの堺浜への路線は堺東駅−堺駅の東西ルートとの一体整備が謳われているわけです。そうなると堺駅東口から大小路を通るルートにどうつなげるか。

堺駅の駅舎と北側の商業施設の間には、なぜか微妙な空間が開いており、ここが軌道の通過空間ではないかと囁かれたりしますが、実際に見てみると確かに絶妙な位置に開いていますが、単線分しかとれそうになく、かつ駅前広場のビルの谷間の「死角」からLRTが飛び出してくる構造は安全面でも難があります。

正面に開いた微妙な空間(西口側)

駅南側のガードを回りこむ手もありますが、これも西口ロータリーとの間に整備されたペデストリアンデッキをどうするのかという問題が残ります。

そうなると、先ほどの戎島町交差点をどう処理するかという課題との絡みで、古川沿いに一気に南海線をくぐり、ヨーカドーの前の通りを東口に向かうというルートが一番無理がないようにも見えます。

現在、駅前の商業施設の駐車場へのアプローチとして混み合う通りですが、ここは通過流動でもないわけで、そちらにしわが寄る形で軌道敷きを確保することになります。

古川から東口方面への通り


●一気に現実化したように見えるが
シャープの新液晶パネル工場誘致の成功により、「世界の亀山」の次は「堺」というわけで、堺浜の発展が約束された格好になったこともあり、LRT計画の堺浜延伸も弾みがついた格好です。

しかし、その計画に死角はないのか、というか、本当にLRTでいいのか、という問題もあるわけです。

堺浜関係はもちろん、経由ルート上にある新日鉄堺製鉄所をはじめとする三宝地区の各事業所にとっても、このLRTは魅力的です。駅からタクシーが便利とはいえ、駅からそれなりの頻度で出ていて事業所の最寄りまで行くLRTを使う流動も多くなるでしょう。

そう考えた時、常昼勤務、交替勤務の出退勤時には半端じゃない量の流動が限られた時間に集中するわけです。例えば2分ヘッドで10本あれば捌ける、と考えるでしょうが、何が悲しくて朝の貴重な時間、20分も早出しないといけないのか、と感じる人も出てくるでしょう。

日中は需要がないが、交替の時間帯にはあふれんばかり、となるのはJR西日本の和田岬線(三菱電機、三菱重工の工場勤務が利用のメイン)の様子を見れば判る通り、普通鉄道の輸送力をもってしてもなかなか捌くのに一苦労と言うレベルなのです。

LRT計画ルートを行く堺シャトルバス

阪堺線との共通化を考えると単車レベルですし、かといって連接車、多車体連接車を導入したら阪堺線との運用の分離や日中の輸送力過剰が問題になるわけで、そうした微妙な状況で、シャープをはじめとする事業所流動を捌けるだけの輸送力が確保できるのか。

通勤輸送は従来通り送迎バス、というのでは何のためのLRT、という話です。
かといって、普通鉄道をまさか新規に引くわけにもいかないし、よしんば引いたとしてもシャープ工場の操業開始には間に合いそうにありません。

大小路ルートのほうは現在のバスが中小型車中心であり、LRTをわざわざ導入する必要性に疑義を持つ声もありますが、一方の堺浜ルートは今度は肝心要の時間帯の輸送力確保に疑義があるわけで、輸送モードの選択がはたして適正かどうか、今までの議論では見落とされていた問題があるのです。

大型重機が林立するシャープ工場建設現場





交通論の部屋に戻る


Straphangers' Eyeに戻る


1

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください