このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





「薄皮有料道路」を実地に見る
パッチワークのような山陰道整備と薄皮に成り損ねた道路


「山陰道」の起点。舞鶴若狭道・北近畿豊岡道路春日IC

写真は2005年8月、9月撮影


●「薄皮方式」とは
俗に「薄皮有料道路」という道路をご存知でしょうか。
国が基盤整備を行い、道路公団が一部工事や料金所設備を請け負い有料道路としてその部分の回収にあたるスタイルで整備される有料道路、と言うか事実上の高速自動車国道です。高速自動車国道として通行料金による償還を原則として建設される高速道路と異なり、償還が難しいが、道路整備は必要と言うことで、ある程度までは道路財源で建設し、償還が可能な範囲を通行料で賄うという合わせ技により建設された有料道路のことです。

旧道路公団の一般有料道路の収支としては、道路財源での建設部分を外した償還計画になっており、一見収支が良さそうでも、道路財源投入分を考えると首が回らないケースもあるわけです。
もちろんその分担比率のバランスが取れていれば良いんですが、「薄皮」の名の如く、薄皮饅頭の餡子の部分(税金)がたっぷりで、通行料でまかなう部分が薄皮というケースが目に付くわけです。

まあ言ってみれば自動車専用道路の整備は必要だが、そのためには必須となる通行料金での償還が絶望的なので建設に踏み切れないような区間で、名目だけでも通行料金による償還があるということにして自動車専用道路の整備を実現するという、ある意味ズルいやり方でありますが、公共インフラとして地方に自動車専用道という高速交通の恩恵を享受させるにはある意味これしかないわけで、妥協の産物というか、「大人の対応」とも言えます。
また、高速自動車国道として整備する命令を待っていたらいつになるか分からないとして、並行して整備する道路として事実上先行開業させるような道路もあるのも事実です。

ただ、「薄皮」の中にもピンからキリまであるわけで、大都市近郊の圏央道や東海環状道のように、巨額の建設費用の償還が難しいが誰が見ても重要性が理解出来る路線もあれば、後述する山陰地方のバイパスのように鉄道も道路も低規格では如何ともし難いが、高速道路の整備命令がなかなか出ない中での「先行」整備となる路線もありますし、中には北海道のように現道でも十分なのに、と言う声が少なからず上がっている路線もあるわけで、きちんと選べば理解が得られる建設手法だったはずです。

浜田JCT。浜田道と江津道路の分岐


●「薄皮」が破れると...
しかし、道路公団等民営化の流れの中で、この手法は事実上否定されたわけで、このとばっちりを真っ先に食らったのが山陽道河内ICと西条ICの間に建設中の東広島JCTを起点に、東広島市黒瀬町を経て呉市阿賀に至る東広島呉道路です。人口20万超、広島県第3の都市であり、海上自衛隊や重工業関係を中心に人、モノの流動が多い呉市は、県都広島への「薄皮」である広島呉道路はあるものの、高速道路網と接続しておらず、このクラスの都市の道路アクセス事情としては最低ランクとも言えます。

これを解消すべく建設中なのが東広島呉道路で、高規格幹線道路として2010年ごろの整備を目指し建設中ですが、民営化議論を通じ、採算性の問題から新会社による「薄皮」部分の引受が絶望的になったことから、中国地方整備局は「薄皮方式」での整備を断念して直轄事業での無料高規格道路として整備することになりました。

建設中の東広島呉道路(東広島市。R2との交差地点)

利用者にとっては無料なので歓迎かもしれませんが、通行料金での償還という受益者負担の部分が消え、道路財源での建設(さらには一般財源もあるかもしれない)という国民負担が増えたわけです。また、税金ですから後年度負担ではなく、予算が付かなければ建設が出来ないので、整備スピードの低下も心配されます。
そのため採算が取れない道路の建設は拒めるという民営化会社の建前があるなかで、道路整備の必要性をどうやって充足させていくかという点については、「新直轄」という全額道路財源での建設という新しい手法が出てきました。
こうなると「隠れ高速」としてたっぷりの餡子にあたる税金の支出を批判していたのに、全額税金になってしまい、潤沢な資金をバックに(道路によっては無駄な)自動車道の整備が早まるという本末転倒の状態になってしまったことは否めません。

●山陰地方の「薄皮」を見る
近畿北部から山陰地方の道路事情を見ますと、高速道路とは無縁というしかない状態であることは確かです。中国地方の背骨にあたる中国山地を縦貫する中国道から、肋骨線となる舞鶴若狭道、米子道、浜田道の3本の高速自動車国道が伸び、兵庫県が建設した播但道がそれに加わるだけ。
県庁所在地として取り残された格好の鳥取市へは中国道佐用から「中国横断道姫路鳥取線」が伸びる予定ですが、どうも新直轄になりそうです。
また、松江道が三刀屋木次まで開通していますが、そこから中国道三次までは新直轄での整備が有力です。

松江道三刀屋木次IC

肋骨線はそれでも開通もしくは事業化されていますが、外周部分はお寒い限りです。
米子道からつながって松江道に抜ける米子−宍道の区間くらいしか整備されておらず、それも高速自動車国道なのは松江玉造−宍道JCTの間だけ。あとは「薄皮」の安来道路と、無料の米子バイパス、松江バイパスと入り乱れており、それらを「山陰道」と総称しているのが現実です。

山陰自動車道松江玉造IC松江バイパス
安来道路米子バイパスこの先で米子道へ

それでもそこから淀江大山までの「薄皮」米子道路までつながっているだけマシで、あとはわずかな区間が細切れに整備され、残りは片側1車線が原則で、かつ峠越えが何箇所もあるR9に頼りきりです。

米子道路淀江大山IC(2004年8月撮影)

自動車専用道路として存在するのは、鳥取県の青谷羽合道路と、島根県の江津道路、そしてそれにつながる浜田道路(浜田バイパス)くらいです。

R9から青谷羽合道路への分岐青谷羽合道路(道の駅はわい付近)

そしてその江津道路は、2003年9月に開業した「薄皮」ですが、これが中国地方では最後の「薄皮」ということになりそうです。

江津道路江津道路江津IC

また、鳥取のすぐ東側に立ちはだかる駟馳山(しちやま)峠から東は、湯村温泉を経て養父に向かうR9ルートではなく、R178に沿って鳥取豊岡宮津道と、北近畿豊岡道という地域高規格道の整備が進んでいますが、それとて兵庫県内の香住道路、春日和田山道路の一部区間しか開通していません。春日和田山道路は和田山までの整備が進んでいますが、その他は遅々としており、香住道路のほかは、兵庫鳥取県境の急峻な七坂八峠をパスする東浜居組道路と、上記の駟馳山峠をパスする駟馳山バイパスくらいしか着工されていません。

香住道路駟馳山峠R9とR178の分岐に信号がない

なお、北近畿豊岡道は無料での供用(既に有料で開通の遠阪トンネルのみ有料)と決まっており、鳥取豊岡宮津道も同様と見られます。

北近畿豊岡道


●道路整備の迷走は続くのか
限られた予算、資金で建設すると言うことは大切ですが、必要な道路というのは存在します。
そしてその整備は、限られた予算、資金であるがゆえに効率的に投入しないといけませんが、現実はあれこれ名目を考えてパッチワークのように整備され、結果としてなかなか完成せずに効果が上手く行きないことが多いのです。

その典型が、全国的に見ても屈指の劣悪な交通環境ともいえる山陰路であり、舞鶴若狭道の春日ICを降りて、北近畿豊岡道から西へ向かうと、高速道路整備自体が遅れている姿に加え、「薄皮」で何とかフォローしていたり、直轄事業での整備とか、山越え区間だけの「高規格道」という、道路整備の政策の推移と言うか迷走を体現化した整備状況を目の当たりにすると、これまでの予算獲得等の苦労が偲ばれると同時に、一貫性、戦略性の無い政策のツケというものを感じるのです。

R9の道路事情は悪い(左・鳥取市白兎海岸。右・東伯町)












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