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暫定税率失効による混乱と問題
道路特定財源の一般財源化に反対する(その6)




●国民生活を人質にした政局の愚
政局と言うか政争の具とされて道路特定財源に絡む暫定税率を規定した租税特別措置法が2008年3月31日24時をもって失効しました。衆院の再可決が可能な案件であり、政府与党は今日4月30日に再可決し、5月1日より復活させる方針を固めており、約1ヶ月だけの失効となる公算が高いです。
しかし政局を優先するあまり、国や自治体の歳入、関連業界の売上などに混乱を与えた今回の事案は、国民の信託を受けたはずの立法府が国や国民のことを無視して党利党略を優先したと言わざるを得ません。

今回の暫定税率の失効は、ガソリン税(揮発油税)や軽油引取税に焦点が合いがちですが、そのほかにも自動車取得税が5%から本則の3%になっています。また4月30日いっぱいで失効する自動車重量税は0.5トンあたり6300円から本則の2500円になるなどの影響があるわけです。

それ以外のいわゆるグリーン税制や、中古車取得時の自動車取得税の減免措置などは、失効ギリギリの3月31日につなぎ法案が可決成立し、5月末まで延長されていますが、そのほか不動産取得時の登録免許税など、もしつなぎ法案がなければ国民の負担増に直結する失効もあったわけで、国民生活を人質に取る形での政争は、特に「良識の府」とされる参院の行動として疑問があります。

●「値下げ」を煽る愚
さて現実に暫定税率が失効したわけです。
販売時に課税され、消費者が納税者である軽油引取税と違い、ガソリン税製造元からの出荷時に課税されるいわゆる蔵出し税ですから、4月1日時点での在庫は暫定税率込みで課税されたものです。

そのため各ガソリンスタンドでは4月1日以降の「新税率」で仕入れたガソリンを販売するまでは「高い」価格で販売しないと25.1円の逆ザヤになるわけですが、一方で4月1日から税金引き下げと言う認識を持つ消費者にその論理が通用しづらいのも確かです。
ここでNHKも含めて各メディアは「逆ザヤを被って値下げ」という「異常」な状態を明らかに煽りました。解りづらいが仕方がない、という「混乱を回避する」ように誘導するのではなく、「値引き競争が始まります」と煽り、大幅な原価割れの販売をさも当然のように報じたのです。

●安ければいいのか
こうしたメディアの報道においては、「値下げ」されたガソリンを購入する人が喜ぶ様や、また4月末が近づきあわててガソリンを買いに走る人の様子を映し、「値段が下がってうれしい」「上がると困る」と言う声を報じています。

もちろん消費者としては安いに越したことはないですが、消費者が支払う価格には意味があるわけです。
あれこれ問題はありますが、今回の対象は税金です。税金も無ければ無いに越したことはないですが、潤沢なオイルマネーや政府系ファンドのあがりがあるわけでもなし、行政サービスその他を受けるには税金を払わないとその原資がないのです。
「金は天下の回りもの」とはよく言ったもので、払ったお金があるから、それを受取ってまた支払ってと社会が回るわけです。全部タダならそりゃうれしいですが、お金は降ってきたり湧いてきたりはしないのです。

このあたり、かつて「激安」ブームが流行った頃にも似ています。
価格破壊、激安がもてはやされましたが、消費者が無邪気に喜んだその陰で、販売価格が下落したことで薄利多売を強いられた上に利益も出ず、売り手の収入も「価格破壊」「激安」に陥ったのです。
収入が維持されていれば激安はいっぱい買えてありがたいですが、収入も連れ安になってしまえばそれしか買えなくなるだけであり、結局デフレ不況にあえぐ結果になったわけです。ついでに言えば、それでも収入と物価が連れ安だったうちはまだいいですが、昨今の原材料費の高騰による物価急騰は、その危ういバランスが崩壊することを意味しますから、本当の「地獄」が訪れるのです。

もちろんこのあたりはさすがに消費者も「安けりゃいい」が回りまわって家計を痛めていることに気が付いたようですが、今回のガソリン税を巡る問題は、その学習効果を忘れたように無邪気さが前面に出ています。
まあ、すぐ復活するから影響は限定的という醒めた目かもしれませんが。

●ガソリン販価に対する疑念
さて4月1日から大幅な逆ザヤを強いられた、ということで「被害者」のように扱われているガソリンスタンドですが、ちょっと待ったと言いたいです。

4月中旬に発表された販売価格の全国平均は、3月末比で22円の値下げになっていました。
暫定税率は25.1円ですから、足らずの3円はどうなったのでしょうか。
この3円、元売各社が原油高を理由に上げているのが原因ですが、「4月から値下げ」といういわばビジネスチャンスのなかで、意図的かそうでないのかはわかりませんが、アナウンスがそれまでの値上げの時に比べて小さかったように感じたわけで、「大幅値下げ」に混ぜて価格調整を行った印象が強いです。
実際、原油価格の上昇と言うよりも、「過去の値上げで転嫁しきれなかった分」と言う説明も聞こえてくるあたり、「どさくさ」と言う表現が一番しっくりくるのです。

さらに再可決後の動きとして、元売各社は30円前後の値上げを発表しています。
失効時に3円足りない値下げで、今度は5円多い値上げですから、行って来いで8円の値上げです。これも理由は原油高(原油相場や米国のガソリン価格のこの1ヶ月での上昇は10%強であり、ガソリン税等を除く本体価格(約90円)比で見たら妥当と言えば妥当)とはいえ、往復ビンタのような値上げは心理的な影響も大きいです。

ただ、4月の「値下げ」の際には「暫定税率込みの在庫が」と声高に主張していたのに、今回一部の大手スタンドでは「5月1日即日値上げ」を発表しているのはどうでしょうか。
メディアの煽りがあったとはいえ、高く仕入れたものを安く売るのは各社の「営業判断」ですが、少なくとも「課税されていないもの」について税金見合いの値上げをするのは、間接税の転嫁システムそのものに対する信頼性を大きく損ねる行為です。

それでもそのスタンドが4月1日から25円ポッキリ(原油価格上昇見合いの部分の値上げを除く)を正しく下げていたのであればまだわかりますが、しばらく様子見で徐々に下げていたようなケースであれば、いわゆる「益税」であり、消費者を欺くものでしょう。
このあたりは「税金」の話であり、本来は各スタンドが販価と在庫の情報をきちんと開示して、「益税」を取っていないことを消費者に示す義務があるともいえる部分です。

●そして一般財源化
再可決による政局化を防ぐために一般財源化を閣議決定するという路線になっています。
今回、暫定税率だけで25円と言うインパクトのある数字が物価変動とは別の次元で増減したわけですが、一般財源化と言うことは、本則と合わせて53円と言う水準の「消費税」が自動車ユーザーだけに課されることを意味するのです。

自動車に関する税金の水準がこれほど国民に知られたことはないタイミングであり、本来であればこれだけの数字が特定の国民に課されるという「不公平」に対する非を大きく鳴らさないといけないのに、それが当然と言う流れに強引に持っていこうとしています。

しかし一般財源化はそもそも道路特定財源に対する批判と大きく矛盾しているわけで、4月28日に「リニモ・こども未来館・動植物園…道路財源こんな利用も」と批判した朝日新聞などは、一般財源であればそうした支出は全く問題なくなる、というかそういう方面に流れ出すという問題を全く見ていない、示さないわけです。

結局、ガソリン税だけで2兆円以上に上る税収が一般財源化されるということは、それだけの「ヘリコプターマネー」が干天の慈雨の如く降るわけです。
解りやすく言えば、財政再建が焦眉の急となっている大阪府で、橋下知事が強力な補助金カット、事業削減案を打ち出していますが、これらの切り捨てへの批判が大きいとメディアが報じる反面、確かに府が支出するものでもあるまいという声も大きいわけです。
そこに道路財源全体では5兆円を超えるお金が一般財源として配分されれば、こうした「無駄な事業」「冗費」も息を吹き返すわけですし、そうした事業の中には一部文化事業のようにメディア側が何らかのメリットを享受しているものもあるわけです。
そう考えれば、与野党や地方自治体のみならずメディアも一般財源化に賛成する理由というのも自ずから見えてきます。

今回は暫定税率分だけでこれだけの騒動を生んだわけですが、本則も入れたらこの2倍のレベルの話になるわけです。
無駄遣いが目に余る、予算が余っているのであれば廃止すればいいだけなのに、なぜ一般財源化なのか。
巨額の「税金」をあわよくば「無駄な事業」に流用しないとも限らない一般財源化の本質をいま一度考えてみたいものです。












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