このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

カンチャナブリ


東南アジアの歴史



歴史には、このような目線もあります。もっと自分の国のことについて知りたいものです。



ブッシュ大統領のヤルタ批判演説
 みなさんは「ヤルタ会談」のことはご存知でしょうか。

 第2次世界大戦中の1945年2月4日から11日まで、黒海沿岸のクリミア半島の保養地ヤルタで開かれた会談のことで、ルーズベルトとチャーチルがスターリンに対してソ連の対日参戦の対価として樺太の南半分とクリール(千島)列島をソ連に引き渡すことに合意した会談のことです。

 この会談の結果が、日本にとっては現在まで続く北方領土返還問題の始まりとなりました。

 しかし、このヤルタ会談は、視点を変えると様々な出来事の始点ともなっているのです。

 2005年の5月9日は、ロシアにとっては独ソ戦争戦勝60周年という節目の特別な年で、モスクワの中心である赤の広場では盛大な式典が挙行されました。同式典には小泉首相ほかブッシュ米大統領、胡錦濤中国国家主席、盧武鉉韓国大統領、アナン国連事務総長ら50以上の国と国際機関の首脳が集い、ソ連時代を彷彿(ほうふつ)とさせる軍事パレードが行われました。

 しかし、ブッシュ米大統領はこの独ソ戦争戦勝60周年記念式典への出席でモスクワを訪れる前にバルト三国の一つラトビアを訪問し、東西冷戦の原点ともいわれる「ヤルタ合意」を強く批判する演説をしているのです。

 5月7日にラトビアで行われたブッシュ大統領の演説の要旨は、「ドイツの多くでは、敗北が自由につながった。中東欧の多くでは、勝利は別の帝国の冷酷な政治をもたらした。欧州での対独戦勝利はファシズムの終結を印(しる)したが、抑圧は終わらなかった。」「ヤルタ合意で強国同士が協議した結果、小国の自由が犠牲となった。しかし、安定のために自由を犠牲にした結果、欧州に分裂と不安定をもたらした。」と語り、対独戦勝利は中東欧諸国にとってはソ連・共産主義による「抑圧」の幕開けにすぎず、米国を含めた強大国が世界秩序の維持を掲げて小国の運命をもてあそんだことを「史上最大の過ち」と振り返ったのです。

 「ヤルタ」をめぐっては、米国内では保守・リベラル両派の間で見解が分かれ、いまだに国としての評価は定まっていないようです。

 ブッシュ大統領のヤルタ批判は、米国内では共和党の伝統的な“反ヤルタ観”の延長線上にあると見なされているようです。

 共和党及び保守派は、死期が近づいていた民主党のフランクリン・D・ルーズベルト元大統領(ヤルタ会談の二カ月後に死去)にはソ連のスターリンに対抗する余力はなく、結果的にソ連に「東欧を売り渡した」と主張。ルーズベルト氏の後継者トルーマン氏に対しても共和党側は、民主党政権の対ソ弱腰外交が共産主義陣営の拡大を招いてきたと批判しています。

 一方、民主党及びリベラル派は、ヤルタ合意がなされた1945年2月時点では、ポーランドなど中東欧はソ連軍の管理下にあったので「ヤルタ合意」は現状追認にしか過ぎない。東欧からソ連を排除するためには新たな軍事衝突が避けられず、当時の米国にとって「現実的な選択肢ではなかった」という見方のようです。また、ヤルタにおける米英ソ各国首脳の合意内容には、ナチスドイツから解放された国々で民主政権樹立をサポートすることが盛り込まれており、「スターリンがそれを無視したのが問題」という主張もあるようです。

 ヤルタ会談でのソ連の対日参戦の密約についても、保守・リベラル双方で評価が異なっています。保守派は、米国はソ連なしでも対日戦争に勝利できたと強調しており、ソ連に対日参戦を許したことで「中国と北朝鮮の共産化に道を開いた」と批判しています。

 一方、リベラル派は、会談が行われた1945年2月当時、敗戦濃厚とはいえナチスドイツはまだ存在しており、対日戦に関しても原爆はまだ完成しておらず、米軍には多大な犠牲が強いられる可能性が残されていたとして、ソ連と対日参戦の密約を結んだことは「国益にかなっていた」と主張していてます。

 今回のブッシュ大統領のヤルタ批判演説は、第二次ブッシュ政権の外交政策の最重要テーマ「自由拡大」「圧政終結」にその主眼があるようです。つまり、第二次大戦末期から戦後にかけて、ソ連に譲歩したことで共産主義の伸長を許し、長い冷戦のきっかけをつくってしまいました。また、中東の独裁政権に妥協し続けたことで、9・11米同時テロを誘発してしまいました。そうした「過去」を教訓にして、われわれは今、中東民主化のために立ち上がらなければならない、とブッシュ大統領は訴えたようなのです。なお、この演説はロシアでの独ソ戦争戦勝60周年招待に先だって、ロシアのソ連化に対する牽制球としての高度な政治的メッセージとも見られています。

 大変メッセージ力のある演説だと私は思いました。そして、このようなタイプのメッセージ力が日本の外交の課題なのだとも思いました。




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