このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
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たばこ屋のおじさん:おもしろトッピク(6)
少年が非行に走る原因の一つに喫煙がある。
タバコは一種の魔力を持っていて、一度始めるとやめるのが非常に難しい。成長期の少年がタバコを覚えると、その魔力にとりつかれ、学業がおろそかになり、生活がすさんでくる。また、タバコを求めるために、金が必要となり、その金を得るために、悪いことをする場合も生ずる。だから、昔から「タバコは不良の始まり」というのである。
また、タバコは心肺機能を著しく低下させるので、成長期の少年がタバコを吸うと、体力が目に見えて落ちていく。そのようなわけで、少年の喫煙は断固として禁止しなければならない。
現在、町には数多くのタバコの
自動販売機
が設置されている。金さえあれば、小学生だって、タバコを買うことができる。いちおう、「
法律により未成年者の喫煙は禁止されている
」とか「
夜11時から朝5時までは販売しません
」と、表示されてはいるが、そんなものはなんの役にも立っていない。だいたい、自動販売機そのものが、少年の喫煙を奨励しているようなものだ。「買ってはいけません」と書いておけば買わないだろう、などと考える人は、相当おめでたい人である。「買ってはいけません」と書いてあっても、欲しければ人は買うのである。現状では少年の喫煙は野放し状態と言ってもいいだろう。
昔はタバコの自動販売機はなかった。タバコはたばこ屋で買ったものだ。そして、たばこ屋には必ずと言っていいぐらい、口うるさいおじさんやおばさんがいたのである。私の町内にも「草加商店」というたばこ屋があり、そこには口うるさいおじさんがいた。私がタバコを初めて買ったのが、その草加商店である。初めて買いに行ったとき、そのおじさんはこう言った。「あれ、おまえ、もう二十歳になったのか」と。もちろん、おじさんは私がどこの誰だかよく知っているし、私もこのおじさんはよく知っている。その時、私は未成年だった。結局、おじさんは私にタバコを売らなかったのである。
その後、どこでタバコを手に入れたかは、もう昔のことなので、記憶がないのだが、そのおじさんの一言で、「ああ、オレは悪いことをしてるんだ」という後ろめたさを感じたことは事実である。結局、タバコは吸ったのだが、このようなおじさんが、言葉は悪いが「少年を監視」していたので、少年の喫煙に対して、一定の歯止めがかかっていたと推測される。「近所の大人に見られてるな」と思えば、そうは大っぴらに煙をはけないのが、普通の感覚であろう。
タバコを吸わなければ、非行に走ることはない、などと単純には考えないが、少なくとも非行の原因の一つは取り除くことができる。タバコはやはり対面販売を義務づけるべきであり、店主は頑として未成年にはタバコを売らないという姿勢を持つべきだろう。タバコは安定した利益をもたらすので、店主としては、やめられない商売のようだが、地域のお目付役としての自覚と誇りを持って欲しいものである。
その草加商店のおじさんは、もう十数年前になくなった。時々、その店の前を通るのだが、「おい、おまえ、もう二十歳になったのか」と、ガラス窓を開けて、呼びかける声が聞こえるような気がする。
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