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文法教材の家


(8)「ぶつかる」か「ぶつける」か:自動詞・他動詞の話(1) 2001.12.1.作成



まず、次の文を見てもらいたい。これは韓国人学習者(上級)の作文である。               
  ①ころんだはずみに、頭がぶつかった
  ②ころんだはずみに、あたまが壁にぶつかって、ひたいが切られた。 
            
下線の部分がポイントである。この文はそれぞれ、             
  ①’ころんだはずみに、頭をぶつけた。     
  ②’ころんだはずみに、あたまを壁にぶつけて、ひたいを切った
と書き換えなければならない。     





 しかし、①’②’はおかしな表現だと感じる人もいるだろう。つまり、「ぶつける」というのは、「壁にボールをぶつける」のように、意志他動詞であるから、「壁に頭をぶつける」というと、自分の意志で「ぶつける」という意味になってしまう。(好き好んで、壁に激突する人はいない!)
 また「ぶつかる」は自動詞で、例えば、
  ③車がへいにぶつかって、めちゃくちゃになった。
  ④波が岩にぶつかってくだける。
のように、非意志的に用いるのが普通だ。だから、自分からぶつかったわけではないから、①② が正しいという考え方は十分に理解できる。

 一方、②の「ひたいが切られた」と書いた学生は、「ひたいが切れた」としようか、「ひたいが切られた」としようか、きっと迷ったに違いない。『「切れた」とすると、これは自動詞だから、自然にひたいが切れるという意味になってしまうので、ちょっと変だ。自分の過失でころんで、ひたいに怪我をしたのだけれど、被害をこうむったことは事実だから、受け身を使うのが妥当だ』と、考えたのだろう。
 しかし、「切られた」とすると、これは何者かによって、ナイフや刀で「切られた」という意味になってしまうので、②の場面には合わない。
 ここでは①’や②’のように、「頭をぶつけた」「ひたいを切った」と他動詞を使うのが正しい。




 他動詞は普通、「ごはんを食べる」「窓を開ける」など、意志的な動作を表すものだが、①’②’の場合のように、意志動詞を非意志的に使う場合もある。
 以下、例文をあげる。
  ⑤昨日サッカーをやっていて、足の骨を折った。 
  ⑥鉛筆を削っていて、指を切ってしまった。   
  ⑦ドアを閉めたひょうしに、指をはさんだ。   

 自分の意志で、自分の「足を折ったり、指を切ったり、指をはさんだり」するような、変な人は普通いない。これは、過失であり失敗である。しかし、その原因は動作主の意志的な動作である。このような場面では、普通、日本語では他動詞を使う。これによって、自分の過失や失敗に責任があるという意味を表す。        
 更に、動作が意志的ではなくても、動作主の過失や失敗を表現するものもある。例えば、    
  ⑧夕べ鼻血を出して、ふとんをよごした。    
  ⑨寝相が悪かったのか、首をひねってしまった。
 これらは動作主が知らないうちに、「鼻血が出たり、首が痛くなったり」したものである。   
  以上の①から⑨までの例文でわかるように、動作主の過失・不注意によって、動作主の体の一部が損傷したり、傷を負ったりした時は、他動詞を使うのが普通である。




 最後に、次のような文はどうだろう。      
  ⑩昨日学校の帰りに、財布を落としてしまった。  
  ⑪もう一歩のところで、犯人を逃がしてしまった。 
  ⑫(凍った道で)足をすべらせて、転んだ。
  ⑬(もちを食べていて)もちをのどにつまらせて呼吸困難になった。
  ⑭(放置しておいたので)食べ物を腐らせてしまった。
  ⑮(親の不注意で)子供を死なせてしまった。

 ⑩⑪は、動作主が「自らわざと財布を落としたり、捨てたり」したという意味でもないし、「犯人の逃亡を手伝った」という意味でもない。財布の紛失や犯人の逃亡に対して、責任があることを表明しているのである。

 ⑫〜⑮は使役の形を用いた特殊な用法である。これらの文は非常に特殊で、限られた場面がないと成立しない。例えば、⑮では、子供が病気になって、早く治療をすれば助かったのに、親の判 断ミスで子供が死亡した。または、子供が海へ泳ぎに行きたいというのを、止めずにいたため、子供が事故で亡くなったというような場合である。死亡の原因がたとえ不可抗力であっても、自責の念があれば、この文は成立する。(つづく)

(この文章は1994年5月「にほんごだより」(在韓国日本大使館日本語講座)に掲載したものである)

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