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文法教材の家


(10)「ぶつかる」か「ぶつける」か:自動詞・他動詞の話(3) 2002.4.1. 更新


まず、「意志他動詞を非意志的に使う」動詞を確認しよう。(左が他動詞、右が自動詞)
1 組

頭をぶつける  頭がぶつかる    

指を切る     指が切れる
      
手を挟む     手が挟まる
   
骨を折る     骨が折れる    

とげを刺す    とげが刺さる
2組

足を痛める    足が痛む
  
手を擦る     手が擦れる

指を突く       ×

足を挫く       ×


3組

鼻血/熱を出す  鼻血/熱が出る

財布を落とす   財布が落ちる

泥棒を逃がす   泥棒が逃げる

品物をなくす   品物がなくなる

親を亡くす    親が亡くなる
 


 前二回は、上の表の自動詞の使い方と1組の受け身形の意味と用法を考えてみたが、

今回は、2組と3組の動詞の受け身の用法を考えてみたい。

 2組の他動詞を使って、まず普通の文を考えてみよう。


①昨日、サッカーで足を痛めた。


②ころんだ拍子に、岩で足を擦ってしまった。


③バレーボールの試合で指を突いた。(突き指)


④野球の練習中に足を挫いた。


 これらの文は、いずれも自分の不注意による 事故で、前回の意味分類のⅡ番に相当し、自分

の動作が自分に戻ってきて、失敗や後悔の気持 ちを表現するものである。したがって、動作を

する人と動作を受ける人は同一である。このよ うな文を受け身文にすることはできない。

また

⑤昨日、サッカーでAがBの足を痛めた。(×)


のように、普通の他動詞の文もできないので、受け身の文も当然できない。


⑥BはAに、足を痛められた。(×)


 以下、「擦る」「突く」「挫く」も同様である。(但し、慣用句として「出鼻を挫かれる」

「不意を突かれる」という言い方はある。また、「槍で突く」「弱点を突く」などは「槍で突かれる」

「弱点を突かれる」のように、受け身文が可能である)





 では、3組の他動詞はどうだろう。まず、普通の能動文を作ってみよう。           
                    
⑦昨日の夜、子供が鼻血を出して、ふとんをよごした。
                          
⑧急に子供が熱を出して、てんてこまいだった。  
                          
⑨子供が財布を落として、一文無しになった。
                          
⑩逮捕した泥棒を逃がした。           
                          
⑪友達が(私が)貸した本をなくした。
                          
⑫(私は)昨年親を亡くしました。        

 これは日本語として自然な文である。
 
 今度はこれを受け身文にするとどうなるだろうか。      
                          
⑬昨日の夜、子供に鼻血を出されて、ふとんをよごされてしまった。
                          
⑭急に子供に熱を出されて、てんてこまいだった。                     
                          
⑮子供に財布を落とされて、一文無しになった。
                         
⑯逮捕した泥棒を(誰かに)逃がされた。

⑰(私は)友達に貸した本をなくされた。

⑱(私は)(誰かに)親を亡くされた。(×)

⑬〜⑯は決して不可能ではないが、「子供が鼻血を出して...」のように、

能動文のほうが自然な表現である。
 
また、⑰は正しい文である。しかし、⑱のような言い方はしない。
 

 以上、3組の他動詞は意味や場面の制約で、受け身文の可能なものと不可能なものがあること

が分かった。では、最後に自動詞の受け身文を考えてみよう。

 普通、自動詞の受け身は、「迷惑の受け身」などとも呼ばれている。日本語の初級の教科書に出

てくる文は、「雨に降られた」「子供に泣かれた」「父に死なれた」「友達に来られた」「泥棒に逃げら

れた」などである。上の動詞の一覧表の自動詞の中で、受け身文が可能なのは「逃げる」だけであ

る。

⑲泥棒に逃げられた。

 「亡くなる」は「死ぬ」と同じ意味だから、「亡くなられる」も言えそうだが、こういう言い方はしない。

(これは尊敬の意味になってしまう)

 受け身と自動詞の関係は、日本語学習者にとって非常に難しいテーマの一つである。今回は

非常に特殊な動詞を使って考えてみた。(了)

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