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  にほんごのひろば・しつもんばこ


1.「立ち入り禁止」の「立ち」はどんな意味ですか。 2007年7月1日 更新

質問:
 日本で「立ち入り禁止」という看板をよく見ました。この「立ち」は「立つ」だと思いますが、歩くときはもう「立っています」。それなのに、また「立つ」というのはどうしてでしょうか。
 それから、ニュースで「犯人が家に立てこもる」という言葉も何回か聞きました。何を「たてる」んですか。
 また、「埋め立て地」というのは、何かを埋めた後に、何か「立てる」のですか。(タイ人の日本語教師から)






(1) 「立ち」入り禁止

 まず、「立つ、建つ、発つ、経つ、起つ」の基本義を辞書で確認します。(現代国語例解辞典 小学館)

横になっているものが縦に起きる:卵が立つ、旗が立っている、立って答える

発生する、形となって現れる:煙が立つ、霧が立つ、波が立つ、評判が立つ

ある役割や目的をもって現れ出る:選挙に立つ、正義のために立つべきだ、証人に立つ

はっきり認められる、たしかなものになる:あかしが立つ、筋道が立つ、目算が立つ

うまくやっていく:暮らしが立つ、弁が立つ、筆が立つ

ある位置を占めて存在する:人の上に立つ、優位に立つ

建造物などが造られる:ビルが建つ、銅像が建つ

出発する、出立する:いつたつんですか。八時に大阪を立つ

時が経過する:年月がたつ

動詞の連用形について、盛んに〜するの意を表す:「煮え立つ」「いきりたつ」など

 「立ち入る」の「立ち」の説明にぴったりの項目は見当たりません。「立ち入る」は派生語なので、「立ち〜」の派生語を調べて、なにか共通するものがないか考えます。

立ち入る:ある場所の中に入る、干渉する

立ち寄る:目的地にいく途中で、あるところに寄る

立ち止まる:歩くのをやめてその場にとまる

立ち働く:からだを動かしていろいろよく働く

立ち退く:その場所を明ける。特に、住まいや土地を明け渡して立ち去る

立ち回る:あちこち歩き回る

立ち返る:もとのところにもどる

立ち去る:その場所からいなくなる


以上の8個の動詞の意味の重要な部分は後半部であります。前半の「立ち」は後半の動作にいたるまでの「動く」という意味を担っているようです。それは上記基本義の⑧⑨の「出発する」「経過する」から「何かが動いていく、移動していく」という意味に派生しているのだと思います。

 したがって、「立ち入る」は「立って中に入るではなくて、動いていって、中に入る」というふうに解釈したほうが妥当かと思います。あるいは、後半部の動作を開始するというような解釈も可能かと思います。






(2)「犯人が家に立てこもる」

 これも(1)と同様にまず、「立てる、建てる」の基本義を辞書で確認します。(現代国語例解辞典 小学館)

横になっているものを縦に起こす:びんを立てる、ひざを立てる

発生させる、ある現象を起こさせる:煙を立てる、波を立てる、泡を立てる、うわさを立てる

ある役割や目的をもたせ表に出す:使者を立てる、候補者を立てる、証人に立てる

はっきり分かるようにする、成立させる:あかしを立てる、筋道を立てる、目算を立てる

うまくいくようにする:生計を立てる

建造物などを造る:ビルを建てる、銅像を建てる

門、戸、ふすま、障子などを閉ざす:雨戸を閉てる

抹茶を入れる、茶の湯を行う:茶をたてる

動詞の連用形について、盛んに〜する、しきりに〜するの意を表す:「言いたてる」「呼びたてる」「みがきたてる」など。

「立てこもる」は上記⑰の意味であります。「こもる」は「籠る」で「中に入って出てこない」という意味なので、「立てこもる」は「雨戸や戸を閉めて、中に入って出てこない」という意味になるでしょう。

これは質問にはなかったことですが、以下の前半部の「立て」はどのような意味を担っているのでしょうか。

立て替える:他人に代わって代金や物品を出す

立て込む:多人数が一か所に集まって混雑する、たくさんの用事が一時に重なる

立て続け:すぐあとに続く

立て直す:改めて元の状態にする

 ⑫の意味の派生で、後半(替える、直すなど)の意味を発生させる、起こさせるというような役割でしょうか。





(3)「埋め立て地」の「埋め立て」または「埋め立てる」

 上記の現代国語例解辞典(小学館)では、「〜たてる」の複合語例と慣用表現の一覧表があります(767ページ)。

 複合語例には、打ち立てる、押し立てる、組み立てる、突き立てる、積み立てるなど、13語はすでに一つの複合動詞として扱われています。

他に「盛んに〜する」という例として、あおり立てる、あばき立てる、洗い立てる、言い立てる、促し立てる、埋め立てる.......など、37の動詞があがっています。

以下、「埋め立てる」を考えてみます。例文としては

東京湾を埋め立てる(埋め立て地)

田んぼを埋め立てて、そこを住宅地に変える

八郎潟を埋め立てて、広大な農地を造った

有明海の干潟を埋め立てて、そこを農地にしようとしている

川や運河を埋め立てて、道路にした

などがあります。

このように「水」のある地域を土で大規模に埋めるということなので、「盛んに〜する」という意味でくくろうとするのでしょう。

宝物を埋める(埋め立てる×)

犬の死体を埋める(埋め立てる×)

家の前の溝を埋める(埋め立てる×)

庭の池を埋める(埋め立てる×)

  家の前の溝や庭の池などのような小さいものは「盛んに〜する」必要はないのかもしれません。

 しかし、なにか釈然としないものが残ります。

 「立てる」の表現には以下のようなものがあります。

 波を立てる

 計画を立てる

 予定を立てる

 これらは「作る」という意味で、いわば「無」から「有」を生じさせるものです。基本義の⑫⑬⑭の「もっと大元の意味」と考えてもいいかもしれません。すると、「埋め立てる」も「埋めて」そのあとに、「土地」を生じさせる、というような解釈はできないものでしょうか。

 お金を積み立てる

 木を組み立てる

 記録を打ち立てる

 これらは、お金を積み(増やす)、木を組み、記録を作り、その結果、なにか別の新しいもの「大きなお金」「家、模型、建造物」「新記録」が生じる、と考えられます。「水のあるところを埋めて、新しい土地を生じる」と同じ仲間のように思います。(了)

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