このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

1. 初の海外出張編
「海外出張」 その言葉を夢見て僕は商社に入った。きっかけは大学のときに読みふけった落合信彦司馬遼太郎である。落合信彦を読んで激動の世界に興味を持ち、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読んで男は世界を相手にしなければならない、と単純に考えた。就職活動時も商社を片っ端から回った。実力と言うべきか、それとも運良くというべきか、商社に入社することが出来、希望通り貿易部隊に配属されることとなった。

それは入社してからそろそろ丸4年になろうかというある1月のことであった。臨席の上司から声を掛けられた。
「おい虎羽、今度のメーカーのIさんのタイ出張だけど、おまえ付いていけ。」
「はい。」
僕は狂喜した。業務中でもついほくそえんでしまう。思わず両親に電話してしまったのを記憶している。ついに夢が一つかなった気がしたのである。上司が作成してくれた僕の出張スケジュールはバンコク2泊+シンガポール1泊+夜行便で木曜日より元気に出社という時間的にタイトなものであったが、海外に行けるという点だけで胸はときめいた。

成田からタイへの飛行機の中でも、酒も飲まずに書類を読むという気合の入り方。英文の書類を読みながら自分で雰囲気に酔う。スチュワーデスに「ご出張ですか?」と聞かれて、「はい。」と胸を張って答える。俺って格好いいな、とこのときほど感じたことは無い。

今では緊張感も無くなってしまい、機内でも小説を読んだり、酒を飲んで寝たりという始末だが、「初心忘るべからず。」という言葉だけは大事にしたい。まだバーツ危機が起きる前の97年1月の話である。


        

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