このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

南アフリカ−1 出発編

 2000年2月。南アフリカ共和国に出張の機会を得ることが出来た。生まれて初めてのアジア脱出である。僕の取引先はアジアがほとんどであったため、必然的に出張もアジアに限定されていた。プライベートでは大学の時のグアム・中国、会社に入ってからも香港・マカオと見事にアジア一色である。グアムをアジアと位置付けてもよいものか、判断が難しいところではある。
 アジアや欧米、オーストラリアに行った人は多いと思うが、南米・アフリカ・中東となると極端に減ってしまうのが実状だろう。ニュースを見ていても登場頻度はそれほど多くなく、情報が日本になかなか入ってこない地域といえる。僕も南アに行く前は首都すら知らないという状況であった。ちなみにヨハネスブルクを首都と考えている人は多いかと思うが、ヨハネスブルクは大都市では有るものの首都ではない。南アは三権分立制度を採っており、行政府の首都はプレトリア、立法府はケープタウン、司法府がブルームフォンテンとなっている。
 当社は南アにオフィスは無いが、何人か南ア出張経験者がいたので、とりあえずヒアリングしてみた。共通する答えが、「ホテルの外は決して歩かないこと。」ということである。どうも治安はあまり良くないらしい。殺人事件など日常茶飯でニュースにもならないらしい。ちょっと地方に行くと道端に死体が転がっているらしい。僕のなかで不安が渦巻く。
 ちょうどパスポートを更新する必要があったので、外務省が発表している危険度情報を確認した。危険度は5段階に分類されている。
危険度1 : 注意喚起
危険度2 : 観光旅行延期勧告
危険度3 : 渡航延期勧告
危険度4 : 家族等退避勧告
危険度5 : 退避勧告
南アフリカはヨハネスブルクとケープタウンが危険度1に指定されていた。僕が行ったことがあるアジアの国は危険度0であり、欧米ももちろん危険度0である。危険度5となると、コソボ自治区のような内戦が起きている国や地域である。したがって、よっぽど危険でないと、この危険度指定はされないらしい。そのなかで栄えある危険度1指定。カンボジアと同レベルである。背中を戦慄がかけぬける。
 想像していたよりも危険度ははるかに高いようだ。となれば、出張に行くのはどのような人間が適しているのか。
1.独身 (もし死んでも悲しむ人が少ない。赤ちゃんが生まれたばかり、などという人は絶対に無理である。)
2.孤独に耐えられる人 (現地に日本人は少なく、日本語を話す機会も少ない。)
3.退屈に耐えられる人 (ホテルの外に出ることが出来ないので、部屋にいる時間がどうしても長くなる。)
 我ながら見事に条件に合致していることに気づいた。「性格的にも、環境的にも、君しかいない。」と上司・先輩にお墨付きを貰った。能力面のコメントが無かったのはなぜだろうか。
 出発の日が近付き、僕はさらに情報を収集するため、御茶ノ水まで本を買いに行った。ところが、大書店に行っても南アの本は売っていなかった。「地球の歩き方」ですら売っていなかった。偶然売り切れてしまっていたのかもしれないが、ガイドブック自体の種類が少なく、かつ発行部数も圧倒的に少ないのであろう。
 やっと出発当日の成田空港で「地球の歩き方」を買う事が出来た。これは機内で読もう。長旅なので時間はいっぱいある。現在南アフリカに行くには2通りある。シンガポール航空でシンガポール経由で行くルートと、キャセイパシフィック航空で香港経由で行くルートである。僕は10万円安いという理由でシンガポール航空を選んだ。
NRT 12:00 → SIN 17:50 
SIN  01:20 → JNB 07:30 (モーリシャス経由)
6時間50分 + 7時間30分 +12時間10分 = 26時間30分 という長旅である。これほどの長旅は、今後の人生でもそう多くは訪れないだろう。南アフリカに行くことが出来る喜びと、仕事がうまく行くかという不安と、無事に生きて帰れるかという恐怖が入り混じった複雑な心境である。同行のオーストラリア人(当社社員)と僕を乗せ、SQ997便は定刻通りに離陸した。 


 

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