このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

台湾−3 贅沢な一日編

  今回(2000年8月)の出張は日曜日に台北入りとなったため、5回目にして初めてたっぷりと自由時間が出来た。一人旅好きの僕としては絶好の機会である。ホテルにチェックインしたのは17時だったが、荷物を置いてすぐに外出した。

  まず向かったのは中正紀念堂である。僕が泊まったホテルは長春路と建国北路の交差点に立っているのだが、そこから徒歩で40分ほどかかった。街並は自分の足で歩いてみないと把握できないというのが僕の持論である。やや暑かったが、散歩好きの僕にとって40分など全然苦にならない。中正紀念堂に来たのは2回目である。内部には蒋介石ゆかりの文物などが展示されているが、今回は夕方だったので入ることが出来なかった。
  中正紀念堂の大きさには圧倒される。ガイドブックによれば高さは70メートルあり、正面から2階へ上がる階段は89段である。この89段は蒋介石の生存年数であるらしい。ちょうど夕暮れだったため、2階からの眺めは素晴らしいものであった。右手には国立コンサートホールである國家音楽廰、左手には国立劇場である國家戯劇院が立っている。園内には中国風庭園なども有り、家族の憩いの場となっているようだ。
  紀念堂の階段に座って夕暮れを見ながら考えたのだが、一般的に中華民族は大きいものを好む。万里の長城を作ったり、地中に騎馬軍団を設置したりする国民性である。彼らは拡大志向が強い。領土も積極的に広げようとする。韓国も財閥が続々と新規事業に進出したという事実から判断すると拡大志向派と言える。一方、日本人は小さいものを好む。ウォークマンのようにサイズそのものを小さくしたり、iモードのように機能を詰め込んだりする。物事を上手く詰め込むことができないと、「つまらない」のである。日本は縮小志向派であろう。そもそも自分の領土を増やそうと言う意識は希薄である。海外まで領土を奪いに行ったのは、豊臣秀吉と大日本帝国の軍部のみである。間に日本海を挟んだだけなのに、この民族性の違いはどこから来るのだろうか。
  なんてことを考えているうちに腹が空いたので士林の夜市に向かった。台北駅から剣潭駅までは地下鉄淡水線で10分ほどである。料金もNT$20(=80円)と安い。駅を降りて信号を渡るとすぐに市場である。とにかく人がたくさんいる。年末のアメ横をイメージしていただければよいだろうか。入口周辺は衣料品関係の店が多いのだが、呼び込みの声がかまびすしい。ぐるりとメインの道を一周した後、小さな路地があるのに気づいた。何気なく入ってみて驚嘆した。そこには屋台村があった。こちらは人が溢れ返っていると表現すべきか。とにかく前に進めない。後から後から人が押し寄せてくるのでにっちもさっちも行かないという状況に陥ってしまった。しかも中華料理は火を使うので屋台村の中の熱気はすさまじい。料理も鉄板焼きやスープなど見るからに熱そうなものばかりである。呼びこみの声は「怒号」と言っても差し支えないと思う。その迫力には圧倒されてしまう。
  空いている席を見つけたので、とりあえず座る。店のおばちゃんに怒鳴られて、メニューの鶏肉とパイナップル入り炒飯と読めない漢字のスープを指差した。スープが出てきたので見てみると、なんと牡蠣のスープだった。それほど衛生的とは言えない場所なので、ややリスクが高いかという感じもしたが、まあ熱してあるので大丈夫だろう、と腹を括った。食べてみると生姜が利いていて実に美味しい。炒飯も、炒めたパイナップルが何とも言えず美味しかった。価格は両方合わせてNT$110(=440円)という安さだ。
  飛行機の疲れ、歩き疲れ、さらに日ごろの疲れの蓄積を感じたので、ウィンザー(温莎堡視廰理容名店)というマッサージ屋に向かった。全身マッサージ90分コースに、オプションの足裏マッサージをつけてNT$2,200(=8,800円)である。これが安いかは評価が分かれるところだが、僕はリーズナブルな価格だと思う。ただ、もう少し安いところはあるとも思う。
  台湾マッサージをここで説明したい。まず中に入って服を着替える。サウナやカプセルホテルで着るようなダボダボの服である。着替えて待っていると力の強そうなおばちゃんが入ってくる。僕が椅子(歯医者に置いてあるようなリクライニングするもの)に横たわると、まず顔に熱いタオルをかける。顔が十分に温まったところで顔のマッサージが始まる。ソフトになでると思ったら大間違いである。こめかみを拳骨でゴリゴリ押される。痛みを堪えていると、屈強な角刈りのおじさんが入って来る。このおじさんは足の裏担当である。ここでおばさんは小休止だ。洗面器に足を浸し、タオルで拭いてから足の裏マッサージが始まる。これは思わず声をあげてしまうほど、痛い。「あなた、ここ痛いは、肝臓悪い。」などと簡単な診断もしてくれるが、聴いている余裕は無い。そうするうちに休んでいたおばちゃんがやおら立ち上がり、僕の首を右に曲げ、左手をぎゅっと引っ張る。これもかなり痛い。首の痛みと足の痛みのハーモニーで、自分の体がばらばらにされているような感じになる。基本的に、台湾マッサージは痛い。これを気持ち良いと感じるようになれば、相当なマッサージ通である。足の裏が終わったかと思うと、うつぶせにされ、おばちゃんが僕をリズミカルに踏む。ちゃんと天井の手が届く場所に、おばちゃんがつかまる場所が準備されている。背中からかかとまで万遍なく踏まれる。足踏みが終わった後で今度は全身を拳で叩かれるが、これは肩叩きのようなものなので痛くは無い。全身をマッサージされた後でお茶を飲んで終了である。やっと終わったいう感じがしてなんとなくほっとするのが不思議である。マッサージの最中はあんなに痛かったのに、終わると爽快な感じがする。血行が良くなるのだろうか。
  マッサージが終わって、ホテルに着いたのが23時であった。観光・食事・マッサージを満喫した非常に贅沢な一日であった。

夕暮れの中正紀念堂。中正紀念堂の階段から撮った写真。右手が國家音楽廰、左手が國家戯劇院。



 

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