このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

韓国−1 生まれて初めてのヘリコプター編

  ヘリコプターでお客様のところに乗り付ける。夢のような話と思っていたが、それが実現する機会が巡ってきた。1999年の5月のことである。
  そのお客様はある財閥に属する大メーカーであり、大工場がコジェ島にある。プサンから車で2時間30分かかるが、ヘリコプターだとわずか15分で着いてしまう。したがって、経営陣や取引先を乗せるために1日3回定期便が飛んでいるのである。そのお客様は、僕の所属する部の中では最大のお得意先であり、今回新商品の取引を始めるにあたり、その商品を担当している僕に出張の機会が巡ってきたというわけである。今回もメーカーの営業・技術と同行である。

  日本→韓国のフライトの予約でトラブルは発生した。全然フライトが取れないのである。成田→プサンどころか、羽田→関空→プサンなど国内の空港経由も全然取れない。ソウル行きも予約できない。ヘリの予約は取れても韓国に行けなければしょうがないではないか。しかもメーカーの方と同じ便でなければならない。とりあえず何便かウェイティングを入れ、代理店より連絡が来るのを待った。
  連絡を待っている間に、フライトが混んでいる理由に関する驚くべき事実が発覚した。なんと某宗教団体による合同結婚式が開催されるというのである。その宗教団体は桜田淳子が所属していることでも有名であり、山崎浩子は脱退した。飯星景子も同じ宗教だったか?とにかくその宗教団体の合同結婚式が韓国で行われるため、日本から信者が大挙して韓国に向かうためにフライトを押さえているらしい。とりあえず僕はリーダーに報告した。
「リーダー、某宗教団体の合同結婚式が行われるためにフライトが取れないようです。」
うーんと唸った後、リーダーが言った。
「よし、お前その宗教団体に入れ。」
一回の出張のために、僕は信仰を持たねばならないのか。さらに追い討ちを掛けるような一言が待っていた。
「ついでに結婚もしてこい。」
一回の出張のために、僕は生涯の伴侶が決定されてしまうのか。サラリーマン社会とはなんと過酷な運命を押し付けるのだろうか。僕は苦悩した。このままフライトが取れなければ僕は入信しなければならない。神に祈るような気持ちで代理店の連絡を待った。ちなみに某宗教団体の神に向かって祈ったのではないことを付記しておきたい。
  出発予定の数日前に代理店から連絡があったときは心の底から神に感謝した。合同結婚式に出席できない人もしくは出席したくない人がキャンセルしたのだろうか。やはり自分はあの人と結婚したい、などというドラマが有ったのだろうかと勝手に想像した。

  周囲を信者に囲まれているに違いない飛行機で我々はプサンに到着した。ヘリポートは空港に隣接している。ヘリコプターで迎えに来てくれるとは、まさにVIP待遇ではないか。爆音を響かせてヘリコプターがやってくる。着陸してもプロペラの回転は止まらない。ドアと荷物を入れるトランクのような場所をパイロットが開けてから、我々はヘリコプターまで走った。荷物を積みこんで中に乗り込む。もちろんメーカーさんに先を譲って僕は後から乗り込み、ちゃっかり窓側の席をゲットした。ヘリコプターの中では爆音で会話も出来ない。正確な高度は不明だが、道路を走る自動車が1台ずつ見分けがつく程度とでも言えばよいだろうか。もちろん飛行機ほど高くなく、生まれて初めての眺めであった。わずか15分ではあったが、その景色は壮観の一語に尽きる。
 僕は生まれて初めてヘリコプターに乗った。入社前に想像していた商社マン像に少しだけ近付いた気がした。

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