このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

中国(杭州・紹興・上海)−1 出発前夜編


 今年の夏は、忙しかった。お盆も休めなかった。
 7月頃はそれほど忙しくなかったので、今年の夏は一週間ぶち抜きで休めるのではないか、と思っていた。そうなれば入社以来最長の休暇となる。今までアジアとアフリカしか行ったことがないので、他の地域に行ってみようか、などと考えていた。そのために7月中にパスポートの更新もした。準備を着々と進めていた。

 そんな7月末のある日のこと。人事部より通知があった。

各位

以下の日程で社員研修を開催します。つきましては、各部にて3時間程度の講義をお願い致します。

<日時>
第1回 : 8月17日(水)〜19日(金)
第2回 : 9月8日(水)〜10日(金)

 嫌な予感がした。案の定、部長に呼ばれる。
「この研修の担当は、虎羽君お願いします。」
 そのとき、夏休みは9月10日以後になることが確定した。

 9月になってからも仕事はどんどん入ってきた。僕のいる部署が主催する会議が毎週水曜日に開催されることになった。これで、一週間ぶち抜きの夢ははかなく消えた。
 決算対策として上期中に計上するために、9月中に売却しなければならない仕事を担当することになった。これで、夏休みは10月以後になることが確定した。

 9月末にめでたく売買は成立した。ここでなんとかして夏休みを取らねば、皆勤賞になってしまう。
「部長、すっかり秋めいてきましたが、夏休みをいただいてよろしいでしょうか?」
「そういえば、君はまだ取っていなかったね。水曜日にさえ来てくれたら別に構わないよ。」
 やはり一週間ぶち抜きの夢はかなわなかった。
「では、3連休を利用して10月8日(金)〜12日(火)ということでお願いします。」
 一週間ぶち抜きの気合も空転、4泊5日ということとなった。4泊ではアジアしかない。そこで、僕は気になる乗り物を今回のメインにすることにした。

 それは、上海のリニアモーターカーである。

 日本が何年も実験ばかり続けている間に、お隣の中国では商用として営業を開始してしまった。その時速は400キロを超えるという。取締役島耕作も漫画の中で乗っている。
 そして上海周辺の都市を探す。蘇州と無錫には一昨年行ったので、今回は杭州紹興に行くことにした。中国はノービザになったので、思い立ったらすぐに行けるようになった。早速飛行機を予約した。当社の上海現法にいる後輩に電話して、当社割引の利く上海のホテルを予約してもらった。杭州のホテルは自分で電話して予約を取った。

 出発前夜は、大阪支店に異動する後輩の壮行会を内輪で行なうこととなった。当HPをご愛読の方はご存知と思うが、当社の飲みは激しい。12時を超えることも少なくない。出発当日は、4時30分に起き、5時40分に寮を出て、6時26分横浜駅の成田エクスプレスに乗らなければならない。寝坊を避けるためにも、酒の量は抑えておきたいところである。
 飲み会当日は、早目に帰社できる女子社員が8人入れる店を探し、僕に連絡をくれることになった。僕が男子社員に連絡を回すこととなった。当然女子社員はその時点で飲み始めている。男子社員より長い時間飲んでいることになるわけだが、その点に関してコメントは控えたい。
 女子社員から、稼働率の低い僕の携帯に連絡が入る。
「はい、虎羽です。」
「あ、虎羽君?今、東方見聞録にいるの。」

 東方見聞録とは、当社の最寄駅の駅前にある居酒屋チェーンである。
 僕は不思議な偶然を感じた。東方見聞録といえば、マルコ=ポーロが内陸アジアや中国を旅した記録である。そのマルコ=ポーロが、「世界で最も美しく華やかな街」として絶賛したのが、杭州である。杭州に行く前の夜に、東方見聞録で飲む。これは何かのお導きに違いない、と当社社員に話したところ、全然ウケなかった。のみならず、つまらないことを話した罰として一気飲みまでさせられた。
 一次会が終わり、女子社員が帰っても、案の定僕は帰れない。
「明日の朝、4時30分起床なので帰りたいんだけど・・・」
「何を甘えたことを言っているんだ。飛行機の中で寝ればいいじゃないか。」
と、一蹴された。
 主賓も含めた4人で向かったのは、お姉さんのいる店、早い話がキャバクラである。普段はフィリピンが多いのだが、声を掛けられた呼び込みに付いていったら、日本人のキャバクラであった。
 「明日の朝、4時半起きなんだよね。」
 「じゃあ、私がモーニングコールしてあげる。」

 翌朝、律儀なキャバクラ嬢のモーニングコールで4時30分に起き、僕は杭州に向かった。


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