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14. 竜馬がゆく(その6) 薩長連合編
< 薩長連合 >
薩長連合は3人の若者により実現した。薩摩藩代表 西郷吉之助39歳、長州藩代表 桂小五郎33歳、土佐藩脱藩 坂本竜馬31歳。
西郷吉之助像
鹿児島本線 西鹿児島駅
鹿児島県鹿児島市
桂小五郎像
京都市地下鉄東西線 京都市役所前駅
京都府京都市
土佐藩脱藩浪人 坂本竜馬像
土讃線 高知駅
高知県高知市
この部分は、「竜馬がゆく」のクライマックスの一つである。少し長めに引用したい。
「どこへゆく」と桂の声が追っかけてきた。
竜馬はもう廊下へとびだしていたが、「知れたことだ」と捨てぜりふのようにいった。薩州の二本松屋敷へゆく。
玄関へ出た。
自分のはきものといえばわらじしかない。たまたま竹の皮の鼻緒の庭下駄があったので、それをつっかけ、門番にクグリ戸をあけさせて路上に出た。
さいわい、星あかりで道がわずかにみえる。
がらがらと下駄をひきずりながら、竜馬は人通りの絶えた町を駈けた。
道が凍てついていた。
真っ暗な風が轟っと街路を走りぬけ、竜馬を押し倒しそうにして吹きぬけてゆく。竜馬は夢中で駈けた。
血相がかわっている。この男が、これほどすさまじい形相になったのは、おそらくうまれてはじめてであろう。
竜馬は入った。
西郷は手をのばし、竜馬のためにざぶとんをすすめながら、
「夜中、なんの御用でごわすかな」
と、この男にしてはめずらしく無用のことをたずねた。
竜馬はだまっている。
やがて火鉢のふちをつかみ、
「委細は桂君からききました。」
と、迫るようにいった。
「ほう。」
「西郷君、もうよいかげんに体面あそびはやめなさい。いや、よい。話はざっときいた。桂の話をききながら、わしはなみだが出てどうにもならなんだ。」
竜馬は、「薩州があとに残って皇家につくすあらば、長州が幕軍の砲火にくずれ去るとも悔いはない」という桂の言葉をつたえ、
「いま桂を旅宿に待たせてある。さればすぐこれへよび、薩長連合の締盟をとげていただこう。」
竜馬はそれだけを言い、あとは射るように西郷を見つめた。
竜馬という若者は、その難事を最後の段階ではただひとりで担当した。
すでに薩長は、歩み寄っている。竜馬のいう、「小野小町の雨乞いも歌の霊験によったものではない。きょうは降る、という見込みをつけて小町は歌を詠んだ。見込みをつけることが肝要である」という理論通り、すでに歩み寄りの見込みはついている。
あとは感情の処理だけである。
桂の感情は果然硬化し、席をはらって帰国しようとした。薩摩側も、なお藩の体面と威厳のために黙している。
この段階で竜馬は西郷に、
「長州が可哀そうではないか」
と叫ぶようにいった。当夜の竜馬の発言は、ほとんどこのひとことしかない。
あとは、西郷を射すように見つめたまま、沈黙したからである。
奇妙といっていい。
これで薩長連合は成立した。
歴史は回転し、時勢はこの夜を境に討幕段階に入った。一介の土佐浪人から出たこのひとことのふしぎさを書こうとして、筆者は、三千枚ちかくの枚数をついやしてきたように思われる。事の成るならぬは、それを言う人間による、ということを、この若者によって筆者は考えようとした。
< 薩摩藩邸 >
竜馬が乗り込んだ薩摩藩邸は、現在同志社大学になっている。薩摩藩邸の碑が西門にひっそりと立っている。碑の隣にあるふざけた立看板との対比を味わっていただきたい。
薩摩藩邸跡の碑
京都市地下鉄烏丸線 今出川駅
京都府京都市
もしこの世にタイムマシンというものが有るのなら、ぜひそれを使って薩摩藩邸に行き、実際にこの場面をこの目で見てみたいと思う幕末ファンは多いはずだ。日本史の大きな転換点となった劇的な場面である。そして、このような劇的な場面が、30代の男達によって演じられていることに驚かざるを得ない。今、政府や体制を覆そうなどというたいそれたことを本気で考えている30代はいるだろうか?自分も30代だが、自分の会社を変革しようなどとすら考えていない。幕末の登場人物の若さと、彼らが成し遂げたことの大きさにはただただ舌を巻くばかりだ。
< 白石正一郎邸跡 >
話は前後するが、桂小五郎、中岡慎太郎らと薩長連合の相談をした場所が山口県下関市に残っている。
その日、長州藩から時田少輔がやってきて、
「かかる旅宿では秘事が洩れるおそれがあります。御両所もごぞんじの白石正一郎方にて滞留していただきましょう。」
というので、宿を移した。下関の白石正一郎は回船問屋である。長州きっての富豪で、侠商として知られ、藩に尊王資金をずいぶんさし出しているほか、安政以来、志士の面倒を見、かれらのために宿をしたり、道中窮乏している者には旅費をあたえたりしている。竜馬も脱藩当時、京へのぼる前にここで一泊したことがある。
白石正一郎邸跡
山口県下関市
山陽本線下関駅徒歩5分
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