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1−5. 親知らず抜歯(左下)編 その3
2001年12月5日(水)、僕は抜糸をするために歯医者に向かった。早速椅子に座り、口を開ける。
「虎羽さん、最近歯茎が引っ張られるような感じがしませんでしたか?」
「別にしませんが?」
「糸が無くなっています。まあ、体に害を与えるようなことはないですけどね」
なんと、僕は知らぬ間に自力で抜糸をしてしまっていた。それにしても、いつ取れてしまったのだろうか?糸はまだ胃の中にあるのだろうか?この女医さんの縫い方がよくなかったのではないか?そもそもなぜ一本抜くのに2時間45分もかかったのだ。文句のひとつも言ってやるか、などと考えていたが、次の一言で形勢は一気に逆転した。
「それと、もうひとつ気になることがあるんですが、薬はちゃんと飲みましたよね?」
「ハイ。」
女医さん、すみません。僕は嘘をつきました。抗生物質は確かに当日(木)は飲みました。翌日(金)の朝昼と飲みました。でも、夜は送別会があったんです。しかも、翌朝の3時まで飲んでしまったんです。帰るのがかったるくなってカプセルホテルに泊まり、そのまま土曜日も会議が有ったために出社し、またも飲みに行って独身寮に帰ったのが午前一時過ぎ。そのまま寝てしまいました。痛みはもう無くなっていたので、抗生物質も飲むのを止めてしまいました。
「その割には、治りが遅いんですよね。」
すみません、女医さん。許してください。抗生物質は飲んでないんです。でも、イソジンのうがいは続けています。
「虎羽さん、ひょっとして、怪我の治りとか遅いほうですか?そういう体質の方っているんですよね。」
女医さん、お願いだから許してください。抗生物質を飲まなかった僕がいけないんです。薬を飲まなかったことを指摘され、怒られるのが怖くてとっさに嘘をついてしまった僕がいけないんです。
「あれだけ時間がかかったでしょう。虎羽さんの目にうっすらと涙が滲むくらい大変だった割には、翌日あまり腫れなかったので、早く治るかと思ったんですけどね。」
女医さん、もう止めてください。あなたが僕の嘘を見抜いたのは、もうわかりました。僕は怒られるのが怖くて嘘をつくような幼児並みの思考回路しか持っていないんです。ドリルとハンマーで歯を粉砕されたくらいで、目を潤ませるような情けない男なんです。だから独身なんです。
来週、また検査に行くことになった。左上の親知らずを抜くのは来年になるのだろうか。
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