このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


1−7. 親知らず抜歯(左下)編 その5

 2002年1月10日(木)、僕は新年最初の検査をするために歯医者に向かった。早速椅子に座り、口を開ける。

 「うん、だいぶよくなりました。歯茎も成長して、隙間も埋まっていますね。移植する必要もありません。もう心配は要らないと思います。」
 
 僕の歯茎は立派に成長していた。ほっとすると同時に、やや残念な気もした。上あごの肉を左下の歯茎の隙間に縫い付けるという史上空前のせこい移植をぜひご報告したかったのだが、そこはやはり自分の体のほうが大事である。「そんなこと言わずにぜひ移植してください。」などと患者から頼んだりしたら、女医さんもびっくりであろう。

 「ところで虎羽さん、一本だけ残っている左上はどうします?」
 「抜かないと悪影響は有るんですか?」
 「歯茎の外側に向かっているので、内側のほっぺたを噛みます。いずれ抜かなきゃいけないと思いますよ。

 僕は悩んだ。左下を抜いたということは噛み合わせがないということである。去年の8月に抜いた右上のように、下のほうに伸びてくるのは間違い無いところだ。おそらくほっぺたを噛んでしまい、炎症を起こすだろう。
 ただ、今は炎症を起こしていない。半年か一年は影響も無いはずだ。とりあえず苦痛は先延ばしだ。

 「左上は抜かなくていいです。」
 「そうですね。確かに去年の左下は大変でしたものね。辛い記憶が薄れてから抜くほうがいいと思います。でも、繰り返しますけど、いずれ抜かなきゃいけませんからね。」

 女医さんは知らない。僕がホームページを作っていることを。僕がホームページの闘病日記を見直すたびに辛い記憶を甦えらせていることを。そして、そのホームページの中に彼女自身が登場していることを。きっと、このページがある限り、辛い記憶は薄れない。

 「はい、診察は今日で終わりです。痛くなったらまた来てくださいね。最後に歯の磨き方を練習してから、歯垢を取って終わりにしましょう。」

 右手で歯ブラシを持ち、左手に鏡を持って、ブラッシングの方法を教わった。ブラッシングは小刻みがよいらしい。「この歯を磨くんだ。」という明確な意思を持って、ピンポイントで歯を磨く。そうでないと、歯磨きを塗っているだけ、という結果になってしまう。

 「はい、虎羽さん、ちょっと見てください。今歯茎を軽くこすっただけで、歯ブラシに血がつきました。つまり、ちゃんと磨くと、血が出るんです。毎日しっかりと、血が出るまで歯を磨いてください。

 僕は毎日の流血を命じられた。うがいしたときに血が出ていないと、それは磨き方が不十分ということだ。歯磨きに集中していなかったのだから、自らを罰する必要があるかもしれない。これからは、もっと真剣に歯磨きに取り組まざるをえない。
 歯を削るつもりで歯医者に行っていきなり右上の親知らずを抜かれてから5ヶ月。ついに治療はいったん終了した。思えば長い道のりであった。
 まだ左上の一本が残っている。これがいつ痛み出すか分からない。次に歯医者に行くときは、この親知らずを抜歯するときだろうか?それとも入歯にするときだろうか?
 

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください