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1. 親知らず抜歯(右下)編
25歳を迎える年の正月から僕は体の不調に悩まされていた。どうも熱っぽく、体がだるい。「俺ももう歳か・・・」とため息まじりについつぶやいてしまう。5月頃になって歯も痛み始めてきた。我慢が出来なくなり、歯医者に行ってみた。
レントゲンを取って結果を見る。「うーん、親知らずですね。見事に横に生えているので非常に抜きづらいんです。ウチじゃ設備が無いんで大学病院に行ってください。」との指示を受けた。歯医者によれば、熱っぽいのもだるいのも親知らずが原因とのことである。ということは、これを抜けば万事解決のはずである。「俺もまだ若いじゃないか。」と急に元気が回復した。
会社に戻った僕は人生指折りの失敗を犯してしまう。それはとある先輩事務職の女性と話していたときのことだ。
「いやー調子が悪いと思ったら親知らずが原因でしたよ。」
「やっぱり大きい病院で抜くの?」
「そのつもりです。あれ、先輩も経験者ですか?」
「そうなのよ。この前片方抜いたばかりなんだけど、もう反対側が腫れてきているの。」
「え、そうなんですか?」
と言ってしまってから気づいた。その先輩はポッチャリしたタイプで、ほっぺも丸い。少しくらい腫れていても気づかないレベルだったのである。
「フン。丸顔でごめんなさいね。どうせ気づかないですよ。」
と捨て台詞を吐き、彼女は歩いていってしまった。その後、彼女が再び声を掛けてくれるようになるまで多大な時間を要したことを付記しておきたい。
抜くまでは簡単に考えていた親知らずであったが、実際大仕事であった。最初はインターンが出てきて麻酔を打つ。僕の場合は完璧に横に生えているので、ペンチで抜くような生易しい方法ではなかった。
ハンマーとノミで親知らずを粉砕するのである。
この苦痛は経験者にしか分からないものであろう。インターンが僕の親知らずにノミを当て、ハンマーで強打して親知らずを粉砕する。そしてピンセットで破片をつまみ出すのである。「目をつむったほうがいいですよ。」などとアドバイスを受けたが、怖くて目は空けていられない。空振りして鼻をたたかれたらどうしよう、などと余計な心配までしてしまう。一時間たっても終わらず、途中で休憩が入った。偉そうな先生まで見にくる始末であった。なんとかその後、30分ほどで終了した。まさに生も根も尽き果てた、という表現がぴったりの疲労を感じた。と同時に、もう一本抜くのは当分先にしよう、と固く心に誓った。したがって、左側の親知らずはまだ抜いていない。
親知らずを抜いて3日後、僕は合コンに出席した。その翌日の痛みは尋常ではなく、歯医者まで行って痛み止めを貰う始末であった。
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