このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


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. 悲しき運命
 先日、会社の同僚と飲みに行ったときのこと。話題はいつしか手相のことになっていた。最近手相を見てもらった女子社員が臨時講師となり、ここが生命線、などと解説を始めた。
「それでね、小指の下のこの線が結婚線なの。」
 メンバーは男性が僕を含め3名、女性が4名だ。居酒屋でみんなが真剣に掌を見つめる姿は、周囲から見れば新興宗教と勘違いされても不思議ではない。ちなみに女性4名はみな独身であり、掌を見つめる目はいっそう真剣だ。僕は星座や血液型、姓名判断の類はいっさい信用していないのだが、みんなが真剣なので馬鹿にした態度を取るのもためらわれ、一緒になって自分の掌を見つめた。
「えっ?どれが結婚線?」
 僕はアルコール分解不全症候群なので掌は真っ赤になっており、手相が見分けにくくなっていた。
「もう、ちょっと見せてみて。」
 と言って、彼女は僕の右手を取った。
「あれ・・・?」
 彼女は明らかに困惑していた。彼女が最近マスターした手相学によればそこにあるはずの線が、僕の右手には無いようだ。みんなが笑っている。やっぱりこの人は結婚できないのね。みんな口には出さないがその目がそう語っていた。僕も焦った。何かフォローをしなければ、と思い、僕は言った。
「じゃあ、左手を見てくれる?」
 それが何の解決になるのか、自分でもよく分からなかったがとりあえず左手を出した。彼女も真剣に僕の左手を見つめた。
「あった、あった!」
 彼女も、僕もほっとした。彼女が指差したそこには見つけるのが難しいほどの線があった。それは僕の結婚運を暗示しているかのような、細い線だった。そのとき、僕にある記憶が甦った。



 今から5年ほど前のこと。僕は夏休みを取って北海道に行くことにしていた。目的は日本最東端の東根室駅と最北端の稚内駅だ。それだけだと時間を潰せないのでレンタカーを借りて知床周辺をドライブすることにした。僕が北海道に行くことを聞きつけた後輩が話しかけてきた。
「虎羽さん、摩周湖へ行きます?」
「うん、行く予定だけど。」
「摩周湖に行ったとき、霧が掛かってたらすぐに結婚できて、晴れていたら結婚は遅くなるという伝説があるらしいですよ。」

その会話の数日後、僕は摩周湖に行った。
摩周湖は、雲一つ無い快晴だった。
その伝説の正しさは、結果が物語っている。

「雲一つ無い」というのは大げさか。
撮影 : 1996年8月


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