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. アルコール分解不全症候群(その5)
 2001年9月21日。残業中にYahoo!にアクセスしたところ、衝撃的な文字が目に飛びこんできた。

下戸の酒好き「多重ガン」の危険
酒に弱いのに無理して飲みつづけると、のどや口の中のほか、食道にも同時にガンが広がる「多重ガン」になる危険性が、酒に強い人に比べ18倍も高いことが、国立がんセンター東病院の研究でわかった。研究チームは、のどや口の中に出来る頭頸部ガンの患者78人のうち、食道にもガンが出来た29人の体質や生活週間を調査。多重ガンが出来ていたのは全員、習慣的に酒を飲む人で、そのほとんどがアルコールから出来る有害物質(アセトアルデヒド)を分解する酵素が一つしかない「酒に弱い人」だった。こうした人は、この酵素を2つ持っている「強い人」に比べて17.6倍も多重ガンになりやすかった。

 僕は思わず言葉を失った。ガンになる可能性が18倍も有るではないか。僕は自他ともに認める酒の弱い人間だ。接待の後に力尽き、 ホテルのトイレで寝た。 台湾では、ホテルのベッドで目が覚めたらスーツだった。韓国では、レストランで意識を失い、 当社現地法人の社長にホテルまで連れて帰ってもらった。  赤坂の韓国パブでは爆睡してしまい、韓国人ホステスに叩き起こされた上で「アナタ、チョット失礼ヨ」と説教を受けた。会社のバレー部合宿では、 女子の部屋のトイレで意識を失った。  
 どれもみな仕事のためだ。(女子トイレ事件はちょっと違うけど。)酒が弱いという体質にもかかわらず、貿易営業の仕事に就いてしまった者の宿命である。お互い言葉が通じないという状況で楽しく飲むには一気しかないと言うのがアジアの共通認識である。目が合ったらお互い同時に一気飲みという台湾の風習や、飲んだグラスを相手に渡して一気してもらうという韓国の風習は、酒に弱い人にとっては苦痛ではあるけれど、そういう飲み方でないと楽しくないのだ。
 我々が台湾や韓国を訪問すると、仕事は何の関係もないけれど宴会に出て来る人がいたりする。彼はボディーガードである。上司を守ると言う崇高な使命を持っている。彼は自ら進んで一気して、その後で我々に酒を勧める。例えば僕が彼の上司と一緒に一気をしたとしよう。するとすかさず彼は僕に酒を注ぐ。僕は酒を注ぎ返す。そうすると、彼とも一気をしなければならない。彼はもちろんいくら飲んでも平気だ。そのうちに僕が酔っ払ってしまい、彼の上司は無難に切り抜けると言う作戦である。別に僕が上司に酒を勧めなくても、彼のほうから酒を注いでくるのだから、僕はこの攻撃から逃れられないのだ。
 台湾や韓国のお客様にとって、我々は自分の国まで来てくれたゲストである。ゲストを潰すまで飲ませるのが彼らの礼儀なのだ。もしゲストが酔っ払わないと、自分のもてなしが不十分だと考えるらしい。
 貿易営業から異動になって約1年半。海外出張には行っているけれど、営業最前線と言うわけではない。日本でお客様をお迎えすることもなくなった。したがって、激しい一気飲みからは遠ざかっている。ふと、懐かしさを感じる今日この頃だ。でも、多重ガンになるのだけはごめんこうむりたい。


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