さだまさしの曲引用で被告を諭す 三茶駅事件の裁判
東京・世田谷区の東急田園都市線三軒茶屋駅で昨年4月、銀行員の男性が殴られ死亡した事件で、傷害致死罪に問われた当時18歳の少年2人の判決公判が19日、東京地裁で行われ、山室恵裁判長は求刑通り、それぞれ懲役3年以上5年以下の不定期刑とする実刑判決を言い渡した。裁判長は2人に対し、歌手、さだまさし(49)の曲「償い」を引用し、異例の説教。伝え聞いたさだも「法律で心を裁くには限界があるから…」と話した。
判決後、閉廷する直前だった。反省の色が見られない少年2人に対し、裁判長は「唐突だが、さだまさしの『償い』という歌を聴いたことがあるだろうか」と切り出した。うつむいたままの2人に、「この歌の、せめて歌詞だけでも読めば、なぜ君らの反省の弁が人の心を打たないか分かるだろう」と少年の心に訴えた。
「償い」は昭和57年に発売されたアルバム「夢の轍(わだち)」の収録曲。知人の実話を元に、さだが作詞作曲した。交通事故で夫を亡くした夫人の元へ、はねた若者が仕送りを続ける内容。
「何もかも忘れて 働いて 働いて 償いきれるはずもないが…」という若者の胸中が、聴く人の胸に迫る。7年後に謝罪を受け入れた夫人。
「ありがとう あなたの優しい気持ちはよくわかりました…」と続く。
この歌は今も、交通安全キャンペーンで使われる。数年前にも、ラジオのたった1回のオンエアがきっかけで、リスナーの若者たちが人の命について話し合うコーナーができたほど。命の尊さとともに、犯した罪への「償い」についても訴えている。
今回の裁判を伝え聞いたさだはサンケイスポーツの取材に「法律で心を裁くには限界がある。今回、実刑判決で決着がついたのではなく、心の部分の反省を促したのではないでしょうか」とコメント。そのうえで、「この歌の若者は命がけで謝罪したんです。人の命を奪ったことに対する誠実な謝罪こそ大切。裁判長はそのことを2人に訴えたかったのでは」と語った。
裁判で2人は「深くおわびします」と口では反省する一方、酔っ払った被害者が絡んできた結果の過剰防衛に当たるなどと主張。裁判長は「被害者に命を奪われるまでの落ち度はなかった」と弁護側主張を退けた。被害者の兄は閉廷後会見し、「裁判長に遺族の思いを酌んでいただいた。彼らも判決を肝に銘じて、しっかり歩んでほしい」と話し、本当の更生を2人に期待していた。
■事件VTR
判決によると、昨年4月29日午前零時ごろ、東京・町田市の少年(19)と神奈川県相模原市の少年(19)が、東急田園都市線の車内で川崎市宮前区の銀行員、牧顕さん=当時(43)=と「足が当たった」などと口論。三軒茶屋駅のホームで、2人がかりで殴り、5月4日にくも膜下出血で死亡させた。(サンケイスポーツ)
[2月20日10時28分更新]
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