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36. サザンのコンサート(その1) 



 2008年8月23日(土)。僕は休日出勤をしていた。
 スケジュールの都合で翌日の日曜日(!)に会議をすることとなり、その前日までに資料を揃える必要に迫られたのだ。
 
 会社に着いて、まず会社の先輩(A氏)に電話をし、携帯にメッセージを吹き込む。
 「もしもし。虎羽です。急遽休日出勤になってしまいました。今日の夕方までに横浜に戻ることは無いと思います。すみません。」
 実は、前日の金曜日に、「明日の夕方は空けておけ。」という指示が入っていたのだ。その先輩も僕と同じく横浜市内に住んでおり、奥様とお子様が不在の週末に、僕は何度か呼び出されたことがあった。

 休日出勤の3人が揃って、一室で仕事を始めたところ、A氏から携帯に電話が入った。
 虎 : 「もしもし。」
 A : 「今日は無理そう?」
 虎 : 「いや、さっき来たばかりですからね。それにBさんとCさんも一緒なんですよ。」
 A : 「それはきついメンバーだな。分かった。」

 そのあと1時間ほど仕事をしたであろうか。またしてもA氏より電話が入った。

 虎 : 「あれ、またAさんですよ。」
 B : 「しつこいね、あの人も。」

 BさんとCさんに断って電話に出る。

 A : 「もしもし。他の人のいないところに行ける?」
 何か大事な話でもあるのだろうか。やむをえず別の部署まで移動した。

 虎 : 「もしもし、ここなら大丈夫です。」
 A : 「そうか。実は今日、サザンのコンサートがあるんだけど、俺の代わりに行ってくれない?」

 A氏によれば、社員6人でコンサートに行く予定だったが、A氏が体調が悪くなり、当日朝のお客様とのゴルフも休んだとのこと。まさかゴルフを休んでコンサートに行くわけにもいかず、実際相当体調が悪いとのことで、ピンチヒッターとして日産スタジアムから電車で10分もかからないところに住んでいる僕に白羽の矢が立ったわけだ。A氏が欠席すれば、1枚が無駄になってしまい、かつ他の人に負担がかかる。僕が断った後、何人か当たってみたが、やはり都合の付く人がいなかったので、もう1回僕に電話をかけてきたとのこと。
 僕はハムレットのように苦悶した。休日出勤までして仕上げなければならない仕事があるのに、サザンのコンサートという、このうえなく魅力的な誘い。仕事を取るべきか、サザンを取るべきか。

 何を隠そう、僕はサザンファンである。アルバムは全て持っている。桑田佳祐が生まれたのは茅ヶ崎市だが、僕はその隣の平塚市出身という縁もある。とりあえずA氏との電話を切って、一心不乱に仕事をしているB氏とC氏に恐る恐る切り出した。

 虎 : 「あの、今日はどこまでやります?」
 B : 「もちろん、資料の準備が完成するまでだ。Aさんがどうしても飲みたいって?別の日にしてもらえ。」

 ここで、僕は正直に白状した。自分のパートは全て完了させる代わりに、サザンのコンサートに行かせてほしい、と。僕が帰るということは、資料のコピーなど面倒な部分をB氏とC氏でやることになる。僕はひたすら頭を下げ、了解してもらった。

 それから16時30分まで僕は必死に仕事をし、なんとか自分のパートだけを終わらせてから会社を出た。慌てて東京駅から新幹線で新横浜に向かう。こんなときに新幹線代をケチってはいられない。17時15分に新横浜駅の改札を出ると、顔なじみの社員5名(男性2、女性3)が腹ごしらえでハンバーガーを立ち食いしているのが目に入った。
 6人が揃ったところですぐに席を決める。アリーナ席が3枚、スタンド席が3枚という組合せである。D氏とE氏がともにサザンのファンクラブに入っており、2人で申し込めばどちらかが当たるのではないか、ということで2人とも8月23日に3枚で申し込んだところ、なんと2人とも当たってしまったという次第である。見事引き当てたD氏とE氏はアリーナ席が確定しているので、僕を含めた4人のうち1人がアリーナ、他の3人がスタンドだ。野球のドラフト会議のように封筒からチケットを1枚ずつ引いたところ、僕はスタンド席となった。

 新横浜駅から日産スタジアムまでは傘を差すサザンファンでごった返して、なかなか進まない。なにしろ当日の観客は7万人である。4日とも満員で28万人、さらに日本中にチケットを買えなかった人がいるのだから、サザンの動員力には舌を巻く。祈るような気持ちで申し込んだのに外れてしまったファンも大勢いるというのに、休日出勤をしているときに呼び出されたピンチヒッターとして観ることができる男もいる。僕は自分の幸運を噛み締めた。

 日産スタジアムの前で、6人で記念撮影などしていたら、時間がなくなってしまった。なにしろ18時ちょうどに開演である。スタンド席の3人(僕と女性2人)はスタジアムの標識に従って歩き出したところ、数分歩いたところで、なんと行き止まり。係員よりUターンするように指示され、慌てて走り出す。もうすぐ席というところまで来たところ、歓声が上がった。どうやらサザンのメンバーがステージに立ったようだ。
 そこからは3人でダッシュである。スタンド席入口のところで係員にチケットを見せたところ、前奏が始まった。中に入ると、客先は全員総立ちで手拍子が始まっている。7万人の手拍子はすごい迫力だ
 桑田佳祐の声が聞こえてきたが、自分達の席を探しているのであまり耳に入らない。なんとか席を探し出し、買っておいたペットボトルのお茶を飲んで、一息つく。
 初めてステージに目を向けると、そこにはサザンオールスターズがいた。一曲目は「YOU」だ。

(続く)

 

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