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キリスト教・神話からのアプローチⅠ

サンティアゴ(聖ヤコブ)騎馬像

写真は「モーロ殺し」の異名を持つサンティアゴ(聖ヤコブ) 騎馬像で、
人類愛を説くキリスト教の聖人がイスラム教徒を虫けらのように殺す像です。
なんとなく違和感を感じるのは私だけでしょうか。




 ひとくちにキリスト教と言っても、長い歴史の中では、教義がいろいろ変遷しています。これらを十把ひとからげに捉えてしまうことが、違和感の原因のようです。新約聖書の時代に入ってからでも、2000年以上経過しています。この間、ユダヤ神話(旧約聖書)や地中海神話の集大成であるギリシア神話などから様々な習慣や考えが取り込まれてきています。よく言えばすべてを含み、人生のあらゆる問題解決のヒントを与えてくれ、反面、悪く言えばごっちゃ混ぜで矛盾だらけと言えるのではないでしょうか。

 キリスト教徒でもなく、哲学者でもない我々多くの日本人観光客にとって、この教義を理解するのが困難なのは当然のことです。聖書を読んでみてもも、旧約・新約ともに、ひたすら神を信ぜよと繰り返していますが、肝心の神とは何かについてはあいまいです。このあいまいな神についての解釈が時代の要求に応じて変遷しているようです。

 そこで変遷する解釈(教義)の対象である神について多少なりとも理解しようとするなら、(幼少時にキリスト教徒としての神の実在についての刷り込みをされていない我々にとっては頭で理解するしかありませんが、)宗教のおおもとである原始神話の二大要素、地母神信仰と英雄崇拝について、最初に理解することが有用かと思われます。言いかえれば農耕民の心のよりどころと牧畜民のそれとを自分なりに理解しておくこととも言えるでしょう。

 更にさかのぼり、植物の起源まで進めばもっと理解しやすくなります。地球誕生後、最初の生物は海中のプランクトンとして現れ、その後、地上のたくましい植物まで進化します。そのの過程は、ひたすらより多くの光を求め、ライバルと激しく競争しながら、より有利な環境に適合することでした。類人猿、人類も基本的には同じで高度で複雑化しているだけです。

 ここで最も重要なのは光がすべての生成の元であり、神は光なりという聖書の言葉が出てくる元ではないでしょうか。そしてより光のあたる場所を求め、その環境により良く適合したものが生き残ってきたようです。環境とは大地のことであり、ここから多くの恵みと安らぎを得ることが出来るのは当然のことです。これが地母神信仰の土台となる現実ではないでしょうか。

 次に、英雄崇拝ですが、環境適合には激しい生存競争が行われます。自分をより優位に導いてくれるものが不可欠で、動物の場合、それは知恵、勇気、意志の力と言え、特に地母神信仰には不要であった意志の力が必要です。これを持ち合わせ、自然を克服することの出来るのが英雄と呼ばれるのでしょう。洋の東西を問わず、蛇退治の神話があちこちにありますが、自然の象徴が蛇で退治するのが英雄と言うわけです。

 この二つの主要な考え方はそれぞれ農耕民と牧畜民の特性を示し、複雑に交錯しながら発展してきているようです。中でも青銅器時代は農耕が主流の社会から牧畜民がそれらを支配下におさめるという時代で、農耕民の地母神信仰から牧畜民の英雄崇拝への過渡期のようです。旧約聖書の時代はまさにこのときで、バールなどの土着の神が次々と英雄のモーセに率いられた牧畜民のユダヤ人の軍門に下っていきます。以後、モーセを引き継いだのがタビデ王、そしてイエス・キリストと言う英雄です。そして、更に様々な経過を経て中世には、聖母マリア信仰ともに地母神信仰が復活してきます。

 話が長くなってしまいましたが、上述の聖人サンティアゴ(聖ヤコブ)の騎馬像はキリスト教三大巡礼地のひとつ、サンティアゴ・デ・コンポステラの総本山である大聖堂に収められているものです。イスラム教徒の「モーロ人殺し」との異名を持ち、キリスト教徒とイスラム教徒との戦いにはいつも現れ、キリスト教徒を勝利に導いてくれると言う信仰の象徴です。聖ジョージ(:ゲオルグ)の竜退治と起源は同じで、守護聖人としての性格が強く押し出されています。動乱の時代に現れ、民を救ってくれる英雄の変形のようです。

 一方、キリスト教が人類愛を盛んに説くのは比較的新しく、暗黒時代が終わり、中世の落ち着いた時代に入ってからのようです。日本人に馴染みの深い、イタリア・アッシジの聖フランシスコが活躍した頃です。最後の審判を主宰し、逆らう者を地獄へ送り込む、怖いキリストが飽きられ、すべてをやさしく包みこんでくれる地母神の変形、マリア様の登場です。

 これで人類愛を唱えるのはマリア様でモーロ殺しの聖ヤコブとは相反し、ごっちゃ混ぜにすべきでないことがお分かり頂けたでしょうか。やっぱり、すっきりはしないですか。次には近日中に、地母神信仰と英雄崇拝の変遷を大雑把に表にしてまとめてみます。辛抱して付き合ってください、そのうち、目からウロコが落ちる日がやってくるかも知れません。

 
つづく
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