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江戸川乱歩 (えどがわ・らんぽ) 1894〜1965。


赤い部屋  (青空文庫)
短編。怪異クラブ「赤い部屋」の新入会員T氏が話す奇怪な身の上話。退屈な日常に飽き飽きしたTは、「絶対に法律に触れない人殺し」に夢中になる。瀕死者を藪医者へ担ぎ込ませたり…、小便をかけさせ子供を感電死させたり…。「私という男は、そんな悪事をでも企らむほかには、何ひとつこの人生に生きがいを発見することができなかったのです。私は狂人なのでしょうか。あの殺人狂という恐ろしい病人なのでしょうか」。三年足らずの間に九十九人もの命を奪ったTの百人目の犠牲者は? どんでん返し炸裂の怪奇探偵小説。

一枚の切符  (青空文庫)
短編。富田博士の妻が自宅裏で列車に轢かれて死亡した。肺結核を苦にしての厭世自殺だと思われたが、刑事・黒田清太郎の推理によって、事件の真相が明らかになる。犯人は富田博士で、妻を毒殺した後、自殺に見せかけるため、死体を線路まで運んだのだ。しかし、富田博士を尊敬している青年・左右田(そうだ)五郎は、黒田刑事の推理に異を唱える…。「それはどういう意味だ」、「黒田氏は小説家であるかもしれないが、探偵ではないということさ」──。足跡の巧妙なトリックと、どんでん返し(?)のオチが面白い探偵小説。

押絵と旅する男  (青空文庫)
短編。押絵細工で描かれた絵の中の人物(洋服の老人と結い綿の美女)についての身の上を語り始める男。「いけません。いけません。それはさかさですよ」。双眼鏡を逆さにして絵を覗くことを慌てて止める男の謎と、生きているとしか思えない絵の中の男女の秘密…。観音様の境内で見かけた美しい娘の正体は何と! 浅草・凌雲閣を舞台とした世にも不思議な物語。究極の恋を描いた傑作。

お勢登場  (青空文庫)
短編。病弱の夫・格太郎を放って不倫の恋に溺れる妻・お勢(せい)。今日もまた家に置いてけぼりを食った格太郎は、子供達と隠れん坊をして遊ぶことに。押入れの長持の中に隠れるが、掛け金がかかって出られなくなってしまう。密閉された長持の中で格太郎が窒息の恐怖に悶える中、お勢は恋人との逢う瀬から帰ってくるが…。「まあ、あなた、そんな長持の中なんかに、いったいどうなすったんですの」──。悪女の本質は、色香よりも咄嗟(とっさ)に思い立つ悪事にあり! 奸婦(かんぷ)・お勢の“活躍”を描いたホラー小説。

恐ろしき錯誤  (青空文庫)
短編。「勝ったぞ、勝ったぞ、勝ったぞ……」。妻・妙子が火事で焼け死んでしまったのは、恋敵(こいがたき)であった野本氏の復讐によるものであったと知った北川氏。妙子の遺品であるペンダントを使ったトリックによって、野本氏に復讐を果たした北川氏は、勝利者として有頂天になるが…。「おれはどんなこまかい点までも、注意に注意して事を運んだつもりだ。しかし、この不安はどうしたというのだろう。何かとほうもない間違いをしてやしないかしら」──。取り返しのつかない錯誤(脳髄の盲点)を描いたどんでん返しが面白い。

 (網迫の電子テキスト乞校正@Wiki)
短編。長野県S村の豪家の娘・山北鶴子が惨殺死体で発見され、鶴子の許嫁である村長の息子・大宅幸吉が逮捕された。大宅には恋人・絹川雪子がいて、鶴子を嫌っていた。親友である大宅を助けるため、事件の調査に乗り出す青年探偵小説家・殿村昌一だが…。事件の数日前に現場付近に等身大の人形が転がっていた謎と、まるで手品のように家から姿を消した雪子の不思議…。「犯人はほかにあることが、今やっとわかったのです。想像もできない邪悪です」──。犯人の意外性だけでなく、奇想天外なトリックも相当に面白い。

鏡地獄  (青空文庫)
短編。私に一人の不幸な友だちがあるのです。名前は仮りに彼と申して置きましょうか。幼少時から、レンズや鏡を嗜好していた彼は、莫大な費用を投じて、凹面鏡、凸面鏡、波型鏡、筒型鏡などを使った鏡の装置を次々に制作し、遂には内側が鏡に覆われた球体の中で発狂してしまう…。夢想することも許されぬ、恐怖と戦慄の人外境! 世にも恐るべき悪魔の世界! 鏡の恐怖を描いた怪奇小説。

兇器  (網迫の電子テキスト乞校正@Wiki)
短編。アプレ成金の佐藤寅雄が自宅の洋室で何者かに胸を刺されて殺害された。現場の靴跡から犯人は、寅雄の妻・美弥子と以前同棲していたフランス料理のコック・関根五郎だと思われたが…。「庄司君、君は今度の事件でも、このAB線にこだわっているんだよ。ずるい犯人はいつもAB線を用意している。そして、捜査官をそれに引っかけようとしている。さあ、今度の事件のAB線はなんだろうね。よく考えてみたまえ」。図形の問題を例にした推理が楽しく、兇器のトリックも面白い。名探偵・明智小五郎の活躍を描いた推理小説。

疑惑  (青空文庫)
短編。何者かに父親を殺害された学生Sとその友人による会話だけで構成された探偵小説──。深夜一時ごろ、家の庭で父親を斧で殴殺した犯人が、家族(母親、兄貴、妹)の中にあると疑うSだが…。「どうも、学問のあるやつの妄想にはこまるね。世にもばかばかしい事柄を、さも仔細らしく、やかましい学説入りで説明するんだからな。そんな君、人殺しを胴忘れするなんて、間抜けた話がどこの世界にあるものか。ハハハハハ、しっかりしろ。君は実際、少しどうかしているぜ」。事件解決のカギとなる“忘却の心理学”が面白い。

黒手組  (青空文庫)
短編。実業家の娘・富美子が「黒手組」と自称する賊徒の一団に身代金目的で誘拐された。名探偵・明智小五郎は、この難事件をいかにして解決することができたのか? 「じゃ、さっききみは、『黒手組』と約束したなんて、なぜあんなでたらめをいったのだい」──。身代金引渡現場に犯人の足跡だけがなかった謎と、ハガキの文面に隠された暗号の解読…。誘拐事件の意外な真相を描いて面白い。

湖畔亭事件  (青空文庫)
長編。
H山中のA湖畔にある旅館「湖畔亭」に暫(しばら)くの間、滞在することになった私(主人公の青年)。自分で作った覗き眼鏡(めがね)の装置を、浴場の脱衣場に取り付け、鏡とレンズの作用で自分の部屋から覗けるようにした私は、裸体の隙見(すきみ)を楽しむが、ある夜、若い女性がある男に短刀で刺殺される場面を覗いてしまう。脱衣場へ検(しら)べに行くが、犯人の姿は既になく、女の死体もはや消えてなくなっていた。
芸者の長吉(ちょうきち)が事件後に行方不明になっていることや、大きなトランクを持った男客二人が慌てて旅館を出立(しゅったつ)していることから、被害者は長吉で、犯人はトランクの男たち(松永と木村)だと思われた。しかし、犯罪事件の探偵に興味を持つ宿泊客の青年・河野の推理によって、意外な犯人が明らかになり、湖畔亭事件は解決するのだが…。

「君はあの事件に関係があったのですか。もしや君こそ最も重要な役割を勤めたのではありませんか」
「僕がつまらない策略を弄(ろう)したために、何でもない事が、飛んだ大問題になってしまったのです。そして人間一人の生命を奪うようなことが起ったのです」

どんでん返しの展開がめちゃ面白い一気読みの傑作。

心理試験  (青空文庫)
短編。下宿屋の老婆が、床の間の植木鉢の底に大金を隠していることを、友人の斎藤勇から聞いた大学生・蕗屋(ふきや)清一郎。老婆殺害の完全犯罪を実行した彼は、笠森判事による心理テスト(連想診断)も完璧にこなしてみせるが…。「つまり急所にふれない限りは、できるだけあからさまにしゃべってしまう方が、かえって安全だという信念を持っていられたことです。裏の裏を行くやり方ですね。そこで僕は更にその裏を行ってみたのですよ」──。犯人の「無技巧主義」を逆手にとった探偵・明智小五郎の推理に大満足。

接吻  (青空文庫)
掌編。一枚の写真を眺めて、接吻したり、抱きしめたりしている新妻・お花の姿を目撃した山名宗三。正面のタンスにお花がこっそり仕舞った写真の男は、役所の上司・村山課長であった。やきもち焼きの宗三は、短気を起こして役所を辞めてしまう。しかし、お花は、あれは宗三の写真で、正面ではなく左側のタンスに仕舞ったと主張し、二人の言い分はまったく食い違う…。「僕は小さな障子の穴から覗いたのだから、左側のタンスなぞ、だいいち見える道理がないのだ」。ちょっとしたトリックと、含みのあるラストが愉しいユーモア小説。

算盤が恋を語る話  (青空文庫)
掌編。女事務員のS子に恋をした造船会社の会計係りのTだが、内気で臆病者のため、面と向かって告白することができない。算盤(そろばん)にあらわした数字による暗号通信で、S子をデートに誘うTだが、果たしてS子は暗号に気づいてくれるのか? 「ここへ算盤をお出しになるの、あなたでしょ。もう先からね。あたしどういうわけだろうと思っていましたわ」──。オチが面白いユーモア暗号小説。

D坂の殺人事件  (青空文庫)
短編。「古本屋のおかみさんは、あんなきれいな人だけれど、はだかになると、からだじゅう傷だらけだ。たたかれたり抓られたりした痕に違いないわ」。東京のD坂にある古本屋の女房が密室で絞殺された。犯人はどこから入って、どこから逃げたのか? 電灯のスイッチの指紋と、目撃証言が食い違う犯人の着物の色の謎…。死んだ女の幼馴染で、事件の発見者である友人・明智小五郎が犯人だと推理する私(青年)だが…。名探偵・明智小五郎が初めて登場! D坂(団子坂)つながりで、岡本綺堂「半七捕物帳58・菊人形の昔」も。

盗難  (青空文庫)
短編。「今夜十二時の時計を合図に貴殿の手もとに集まっている寄付金を頂戴に推参する。ご用意を願う」。××教の支教会の主任あてに、泥棒の予告の手紙が舞い込んできた。××教の雑用係である私は、ちょうど通りがかった警官に警備を頼むが、実はこの男は警官に化けた泥棒で、信者から集めた寄付金を、まんまと盗まれてしまう。犯人が捕まらないまま、二ヶ月が過ぎたある日、例の男を見かけた私は、男を尾行するが…。「あの時は実に痛快にやられたからね。さすがのおれも、君んとこの大将には、まんまと一杯食わされたよ。君、帰ったらよろしくいっといてくれたまえな」──。ドンデン返しの結末が楽しめるユーモア・ミステリー。

何者  (網迫の電子テキスト乞校正@Wiki)
中編。
鎌倉にある結城少将邸で強盗事件が発生し、少将の息子である青年・結城弘一(ひろかず)が何者かにピストルで撃たれ、足に重傷を負った。犯人はなぜ金銭には目もくれず、置時計や万年筆などの金製品ばかりを盗んでいったのか? 窓から侵入した犯人の足跡が空地の井戸の所で消えてしまっているのはなぜか? 被害者である弘一の理路整然たる推理によって、意外な真犯人が明らかになり、事件は解決したかに思えたが…。臆病者であるがゆえの本当の犯行動機とは?
「あの男なんか、まだ本当にかしこい犯人を扱った事がないのですよ。普通あり来(きた)りの犯人を捕えて得意になっているんじゃ、名探偵とは云えませんからね」。
少将邸に出入りする素人探偵・赤井の意外(?)な正体が判明するラストも楽しい。

二銭銅貨  (青空文庫)
短編。羅列された「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」の暗号トリックを見事に解明した貧乏青年・松村武は、逮捕された「紳士盗賊」が盗んだ五万円の意外な隠し場所を突き止め、まんまと大金を横取りすることに成功するのだが…。「君の想像力は実にすばらしい。よくそれだけの大仕事をやった。おれはきっと今までの数倍も君の頭を尊敬するようになるだろう。なるほど君のいうように、頭のよさでは敵(かな)わない。だが、君は、現実というものがそれほどロマンチックだと信じているのかい」──。どんでん返しが楽しい探偵小説。

日記帳  (青空文庫)
掌編。はたちで病死した弟の日記帳を読んだ私は、弟が遠縁の娘・北川雪枝と文通していたことを知って驚く。内気な弟は、恋というものも知らずに、哀れにこの世を去ったとばかり思っていたからだ。しかし、弟の手文庫に大切に保存してあった雪枝からの葉書は、どれも恋文らしさがいささかも感じられない普通の文面であった…。「おれはあんまり臆病すぎた。今になってはもう取り返しがつかぬ。ああ」。葉書の日付けと、切手の貼り方に秘められた、あまりに臆病すぎる恋! 若い男女の気の毒な失敗を描いた暗号ミステリー。

二癈人  (青空文庫)
短編。「どうも不思議だ。この男の顔は確かにどこかで見たことがある」──。温泉場で知り合いになった湯治客の井原氏と斎藤氏。井原氏は、夢遊病の発症で、夜中に他人の物を盗んだり、墓地をさまよったり、ついには殺人を犯してしまった過去があることを斎藤氏に話すが…。「顔かたちこそまるで変っているが、あいつは、あいつは…」。夢遊病犯罪の真実を描いたどんでん返しもの。

人間椅子  (青空文庫)
短編。美しい閨秀作家・佳子のところへ送られてきた奇妙な手紙。世にも醜い容貌の持主である家具職人の男の告白は、あまりに人間離れした、奇怪千万なる驚愕の内容であった…。椅子の中の恋! それは、ただ、触覚と、聴覚と、そして僅かの嗅覚のみの恋でございます。暗やみの世界の恋でございます。読後、椅子に座るのが怖くなること必至(?)の怪奇ホラー。どんでん返しのラストも面白い。

灰神楽  (青空文庫)
短編。恋敵でもあったパトロンの奥村一郎を、時のはずみで殺害してしまった貧乏絵かきの河合庄太郎。奥村の部屋で、奥村のピストルを使って犯行に及んだ庄太郎は、ちょうど犯行時刻に外の広っぱで野球をしていた奥村の弟の中学生・二郎をダマして、罪を逃れる方法を思いつく。計画はまんまと成功したかに思えたが…。「君は灰神楽(はいかぐら)のことをやかましく言っていたが、どうしてそこへ気づかなかったのだろうね」──。灰神楽からひらめいた突拍子もない計画が何とも面白い。「犯罪者の愚挙」を描いた好短編。

パノラマ島綺譚  (青空文庫)
長編。
「もし俺が使い切れぬ程の大金を手に入れることが出来たらばなあ。先ず広大な地所を買入れて、それはどこにすればいいだろう。数百数千の人を役(えき)して、日頃俺の考えている地上の楽園、美の国、夢の国を作り出して見せるのだがなあ」

常日頃から地上の楽園の創造を夢想している貧乏青年・人見廣介(ひろすけ)は、大学時代の同級生で、自分と瓜二つであったM県随一の富豪・菰田(こもだ)源三郎が急死したことを知る。死んだ菰田が生き返ったことにして、まんまと菰田に成りすますことに成功した廣介は、菰田家の財産を湯水のように使って、離れ小島に理想郷の建設を始めるが、菰田の妻・千代子に偽者であることを見抜かれてしまう…。

「俺はお前がこの上もなく可愛い。一層(いっそ)お前と一緒に死んで了い度い程に思っているのだ。だが、俺にはまだ未練がある。人見廣介を殺し、菰田源三郎を蘇生させる為に、俺はどれ程の苦心をしたか。そしてこのパノラマ国を築くまでにどの様な犠牲を払ったか。それを思うと、今一月程で完成するこの島を見捨てて死ぬ気にはなれない。だから、千代子、俺はお前を殺す外(ほか)に方法はないのだ」
「いやです、いやです。私には親があるのです。兄弟があるのです。助けて下さい、後生です。本当に木偶の坊の様にあなたの云いなり次第にまります。離して、離して」

パノラマを駆使した世にも不可思議なる人工風景! 狂気と淫蕩、乱舞と陶酔の歓楽境! 地上の楽園「パノラマ島」を完成させた主人公の青年の破滅を描いた犯罪幻想小説──。確かにパノラマ島の描写に多少の退屈を感じたが、主人公が自分で創造した理想郷の歓楽の一部となって果てるラストに衝撃と皮肉があって面白い。

一人二役  (青空文庫)
掌編。人間は退屈すると、何をはじめるか知れたものではないね──。新しい服装をして、鼻の下へつけひげまでして、別人に変装したTは、間男になって、自分の細君と夜ごとの逢瀬を重ねる。「あなたのお出でなさらぬ夜が淋しく感じられさえする。この次は、いつきてくださるのでしょうか」。細君が仮想の男(変装のT)を愛し始めたと知った彼は、嫉妬を覚える一方で、細君への初恋(ほんとうの恋)を発見する。本来のTという人物を辞職して、一方の仮想の男に完全になりきってしまうことにしたTだが…。オモシロ夫婦円満小説。

覆面の舞踏者  (青空文庫)
短編。友人の井上に誘われて秘密クラブ「二十日会」に入会した私。会長格の井関の発案で、覆面の舞踏会が開かれる。変装によって誰が誰だか判らない中、男女ペアになって乱舞する会員の男性と招待の女性たち。何か見覚えのある女性とペアになった私は、踊り、泥酔し、一夜を共にしてしまうが…。「人の悪い井関さんは、意味ありげな暗闇の舞踏会で、会員のひとりひとりをおれと同じような目にあわせ、あとで大笑いをするつもりだったのではないか」。主人公がやらかしてしまった取り返しのつかない錯誤を描いて面白い。

夢遊病者の死  (青空文庫)
短編。夢遊病が原因で、勤め先をしくじって、父親のところへ帰ってきた彦太郎。「お前は毎日そうしてゴロゴロしていて、一体恥かしくないのか…」。M伯爵邸で小使いをしている父親と、毎日のように喧嘩するようになった彦太郎は、ある朝、父親が庭で変死しているのを発見する。あちこち歩き回ったような足跡が残っていたことから、犯人は夢遊病者である自分だと確信した彦太郎は、警察の目を盗んで、逃亡するのだが…。「逃げろ、逃げろ、さあ早く逃げるんだ」──。凶器の意外性と、足跡の勘違いが面白いドンデン返しもの。

目羅博士  (網迫の電子テキスト乞校正@Wiki)
短編。東京・丸の内にあるビルディングで発生した奇怪な連続自殺事件。五階の北の端の部屋に入居してくる住民ばかりが、首をくくって自殺してしまうのは何故か? このビルと同じ形をした向かい側のビルの窓からこちらを覗く謎の老人・目羅博士の秘密とは? 「月の光って、なんて変なものでしょう。月光が妖術を使うという言葉を、どっかで読みましたが、ほんとうですね。同じ景色が、昼間とはまるで違ってみえるではありませんか」。月光の妖術! 鏡の恐怖! 模倣の宿命! 幻怪なトリック! 乱歩ワールド炸裂の傑作推理。

木馬は廻る  (青空文庫)
短編。煩わしい家庭を逃れ、切符係の少女・お冬と毎日顔を合わせるのを生甲斐としている廻転木馬のラッパ吹き・格二郎。若い男がお冬のポケットに付け文を入れるのを見た格二郎は、嫉妬心からその手紙を抜き取ってしまうが…。「おお、お冬坊、きょうは帰りに、あのショールを買ってやるぞ。おれは、ちゃんと、そのお金を用意してきているのだ。どうだ。驚いたか」。貧乏のこと、老後の不安のこと、もはや帰らぬ青春のこと…。ガラガラ、ゴットン、ガラガラ、ゴットン、廻転木馬は廻りつづける──。老年の男の悲哀を描いた秀作。

モノグラム  (青空文庫)
短編。学生時代に片思いしていた北川すみ子の弟と偶然会った私(栗原一造)。死んだすみ子の形見である懐中鏡に、私の写真と、IとSの組み合わせ文字(モノグラム)の刺繍があったことから、彼女もまた私に片思いしていたことを知る。すみ子の写真と懐中鏡を貰い受けた私は、彼女を懐かしみ、ヒステリーな妻をいとわしく思うが…。「まあ、北川さんの写真じゃありませんか、どうしてこんなものがあったの。それに、まあ珍しい懐中鏡、ずいぶん古いものですわね」。四十男のおとぎ話の顛末(二重の失望)を描いた暗号ユーモア。

屋根裏の散歩者  (青空文庫)
短編。新築の下宿屋「東栄館」に引き移った青年・郷田三郎は、天井から各部屋を覗き見する「屋根裏の散歩」という楽しみを発見する。しかし、変態的な犯罪嗜好癖(しこうへき)のある彼は、隙見(すきみ)だけでは飽き足らなくなり、なんの恨みもない同宿者の青年・遠藤を、自殺に見せかけて、殺害してしまうのだが…。「天井の節穴から、毒薬を垂らして、人殺しをする! まあなんという奇想天外な、すばらしい犯罪だろう」──。名探偵・明智小五郎の推理とトリックが楽しめる密室もの。「ちょっと君のまねをしてみたのだよ」。



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