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泉鏡花 (いずみ・きょうか) 1873〜1939。 |
『海城発電』 (青空文庫) |
短編。敵(清国)から感謝状が送られるほど職務に忠実すぎる赤十字の看護員・神崎と、そんな神崎を国賊だと糾弾する愛国の軍夫・海野。「貴様は国体のいかむを解さない非義、劣等、怯奴(きょうど)である、国賊である、破廉恥、無気力の人外(にんがい)である」、「愛国心がどうであるの、敵愾心(てきがいしん)がどうであるのと、左様なことには関係しません。自分は赤十字の看護員です」。そんな二人の偏重の犠牲となる女性・李花…。黒衣の人物の正体が分かるラストがとっても風刺的。 →泉鏡花「夜行巡査」 |
『義血侠血』 (青空文庫) |
中編。 乗り合い馬車の馭者(ぎょしゃ)と客として出会った青年・村越欣也と見世物小屋の水芸の女芸人・滝の白糸こと水島友。 「抱いた記憶(おぼえ)はないが、なるほどどこかで見たようだ」 「見たようだもないもんだ。高岡から馬車に乗ったとき、人力車と競走(かけっくら)をして、石動(いするぎ)手前からおまえさんに抱かれて、馬上(うま)の合い乗りをした女さ」 「おお! そうだ」 「ええびっくりした。ねえおまえさん、覚えておいでだろう」 「うむ、覚えとる。そうだった、そうだった」 思いがけず金沢で欣也と再会した白糸は、東京で法律を学びたいという欣也のために、学費の援助を申し出て、二人は親類の契りを結ぶ。欣也への仕送りのため、金主(きんしゅ)から給金を前借りした彼女だが、その大事な大金を強盗に奪われてしまう。欣也へ送る金の都合がつかなくなってしまった白糸は…。 「どうしたもんだろうなあ。ああ、窮(こま)った、窮った。やっぱり死ぬのか。死ぬのはいいが、それじゃどうも欣さんに義理が立たない。それが何より愁(つら)い! といって才覚のしようもなし。……」 ドラマチックで面白い出会いの場面や、純潔清浄な白糸と欣也の生き生きとした会話文、そして、強盗殺人場面の臨場感の物凄さ! 悲しく切ない悲恋物語。紛れもない傑作。 |
『外科室』 (青空文庫) |
短編。「わしにも、聞かされぬことなんか。え、奥」、「はい。だれにも聞かすことはなりません」。うわ言を聞かれるのを恐れて、頑(かたく)なに麻酔を拒む貴船(きふね)伯爵夫人。麻酔をしないで手術をするよう決然と言い放つ。死をもって守ろうとする彼女の心の秘密とは? 「痛みますか」、「いいえ、あなただから、あなただから」。医学士・高峰が執刀する手術の場面は実に官能的。「でも、あなたは、あなたは、私(わたくし)を知りますまい!」、「忘れません」──。九年前、小石川の植物園でたまたますれ違っただけの男女…。究極の相思相愛を描いた最上の恋愛小説。 |
『高野聖(こうやひじり)』 (青空文庫) |
中編。高野山の旅僧・宗朝(しゅうちょう)が語る修行時代の神秘体験──。飛騨の山中。間違って危険な旧道に入って行った薬売りの男の身を案じた僧。男の後を追って、蛇や蛭(ひる)が出没する道を命からがら進み行った僧は、美しい婦人(おんな)が住む孤家(ひとつや)に辿り着くが…。「すっぱり裸体(はだか)になってお洗いなさいまし、私が流して上げましょう」、「いえ」、「いえじゃあござんせぬ、それ、それ、お法衣(ころも)の袖が浸るではありませんか」──。薬売りの男は一体どうなった? そして僧の運命や如何に! 助平野郎の皆さんくれぐれもご注意を。鏡花ワールド官能ホラー。 |
『政談十二社』 (青空文庫) |
短編。新宿の町端(まちはずれ)・十二社(じゅうにそう)にある茶屋に立ち寄った判事・小山由之助は、茶屋の婆さん(お磯)から、役人・沢井の邸の小間使い・お米(よね)の不幸な身の上を聞かされる。沢井邸で発生した大金紛失事件。けったいな予言者・仁右衛門爺の祈祷のせいで、犯人にされてしまったお米…。「無くなった金子(かね)は今日出たが、汝(うぬ)が罪は消えぬのじゃ」、「厭よ、厭よ、厭よう」──。どうにもタチの悪い仁右衛門爺Vs端っから下心ある(?)小山判事! お米の“心の中の罪”とは? ハッピーエンドで目出度し目出度し。 |
『鷭狩(ばんがり)』 (青空文庫) |
短編。「思いも寄らない——それに、余り美しい綺麗な人なんだから」──。片山津(加賀)の温泉宿。夜中に厠(かわや)へ立った宿泊客の雪次郎(画家)は、洗面所で別嬪の中年増(宿の女中・お澄)と出くわす。彼女が、鷭狩りに出掛ける客(女郎屋の主人)のために、夜中にもかかわらず、湯に入り、髪を結っていたと知った雪次郎は、強い嫉妬(ねたみ)を覚える…。「——お澄さん、私は折入って姐(ねえ)さんにお願いが一つある」──。薄幸の女が貫いた一生に一度の覚悟と、凛とした、きっぱりとした態度に驚嘆! よもやこんな展開になろうとは…。 |
『みさごの鮨』 (青空文庫) |
中編。加賀・山代温泉の旅館「近江屋」に宿泊した年配の大学教授・榊(さかき)三吉は、気立ての優しい芸妓(げいしゃ)・小春と出会う。いんきんたむしで、癇癪(かんしゃく)持ちで、嫉妬(やきもち)やきである雑貨店の旦那(治兵衛坊主)の、心中(しんじゅう)の道連れにされそうになった小春の命を助ける教授だが…。「心中の相談をしている時に、おやじが蜻蛉(とんぼ)釣る形の可笑(おかし)さに、道端へ笑い倒れる妙齢(としごろ)の気の若さ…」──。大まかでのんびりした「近江屋」の様子や、「北国(ほっこく)一」が口癖の女中・お光との交流が楽しい。それだけに、結末の悲劇が涙を誘う。 ※ちなみに、紙屋治兵衛は浄瑠璃「心中天網島」の主人公の名。 |
『夜行巡査』 (青空文庫) |
短編。まったく融通がきかず、冷酷なまでに職務に忠実すぎる巡査・八田義延。そんな八田と姪・お香の結婚を無慈悲なまでに反対する伯父。お香のことも八田のことも気に入っているにもかかわらず、伯父はなぜ絶対に反対なのか? その身勝手すぎる理由とは? 「どうだ、解ったか。あらゆることをして苛めてやる」、「あれ、伯父さん、もう私は、もう、ど、どうぞ堪忍してくださいまし。お放しなすって、え、どうしようねえ」──。どっちもどっちな二人(伯父と八田)の偏屈キャラぶりが何とも凄い。ここまでくるともはやコメディーだね。 |
『夜叉ヶ池』 (青空文庫) |
中編。戯曲。越前・三国岳の麓(ふもと)の里を訪れた文学士・山沢学円は、行方知れずになっていた親友・萩原晃と再会を果たす。村の娘・お百合と夫婦になった晃は、村の言い伝えである夜叉ヶ池の盟誓(ちかい)を守るため、毎日三度、鐘堂(つりがねどう)で鐘を鳴らす役目を果たしていた。一度でも怠ると、竜神が水害を起こして、村が滅びてしまうのだという。旱魃(かんばつ)で苦しむ村民たちは、雨乞(あまご)いの犠牲(いけにえ)にお百合を選び、晃に村から出て行くよう迫るが…。「ならん、生命(いのち)に掛けても女房は売らん、竜神が何だ、八千人がどうしたと! 神にも仏にも恋は売らん」──。夜叉ヶ池の主・白雪姫の不幸なる身の上と、恋人に会いに行けない苛立ち…。夜叉ヶ池の伝説を題材にした作品。圧倒たるラストシーンに驚嘆! |
『湯女の魂』 (青空文庫) |
中編。友人・篠田の情婦(いろ)である湯女のお雪に会いに、北陸の温泉宿を訪ねた学生・小宮山だが、お雪は病気で臥せっていた。生霊に取り憑かれ、毎晩うなされるというお雪を、一晩看病することになった小宮山だが…。「さあどうだ、お前、男を思い切るか、それを思い切りさえすれば復(なお)る病気じゃないか、どうだ、さあこれでも言う事を聞かないか」、「御免なさいまし、御免なさいまし」──。怪しい女が棲む孤家(ひとりや)での恐怖の光景! 強ければ強いほど悲しく切ない女の念(おもい)…。軽快な語り口がすこぶる読みやすい怪談悲恋話。 |
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