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岡本かの子 (おかもと・かのこ) 1889〜1939。


或る男の恋文書式  (青空文庫)
掌編。月の雫が太く下界に直立したような──あの電柱の下に立ち止まって、いつまでも名残を惜んでほしかった…。男と別れた女性が、その辛い心情を綴った美しいラブレター。…と思いきや、どんでん返しのオチが待っていた! 何ともご苦労様でございます。

越年  (青空文庫)
短編。同じ会社の男性社員・堂島にいきなり平手打ちされた加奈江。堂島が会社を辞めて転職したと知った彼女は、堂島に仕返しするため、彼が飲み歩く銀座を探し回るが…。「なぜ、私を撲ったんですか。一寸口を利かなかったぐらいで撲る法がありますか。それも社を辞める時によって撲るなんて卑怯じゃありませんか」。堂島はなぜ加奈江を撲ったのか? 男女の感情を鮮やかに描いた好編。

雛妓  (青空文庫)
短編。死んだ父親の通夜明けの春の宵に、画家である主人の逸作に連れられ、不忍池の料亭にやって来た歌人・かの子。父親が背負い残した一族の“家霊”に苦悩する彼女は、自分と同じ名前である雛妓(おしゃく)の無邪気さに親しみを覚える。雛妓のかの子と親子の契りを結ぶが…。「奥さまのかの子さーん」、「お雛妓さんのかの子さーん」、「かの子さーん」、「かの子さーん」──。家霊をテーマに小説を書いていく決心に至る女主人公の姿を描いた感動作。

快走  (青空文庫)
掌編。ある日の晩、誰もいない多摩川の堤防の上を思いっきりランニングしてみた道子は、溌剌とした快感を覚え、その日からやみつきになってしまう。そんなこととは知らない両親は、毎晩出掛ける道子のことが心配になって…。「道子はこの頃変ですよ。毎晩お湯に行きたがって、行ったが最後一時間半もかかるんですからね」。家族の幸福の風景を描いて微笑ましい。私も快走したくなっちゃった。

過去世  (青空文庫)
短編。退職官吏Yの家に寄寓し、Yの二人の息子と出会った雪子だが…。──女嫌いで親譲りのエゴイズムである弟・梅麿と、おどおどした性格で父と弟から召使のように扱われる兄・鞆之助(とものすけ)の加虐性と被虐性の恍惚…。「兄さん、僕に出して呉れた着物、綻びが切れてるじゃないか」、「無理をいうなよ。だめだよ。男になんか、縫えなんて…」。妖しくまばゆいホモ・エロの世界! 効果的な最後の一行によって印象的な作品に昇華。

家霊  (青空文庫)
短編。病気の母親に代わって、どじょう屋の女主人になったくめ子。溜まったツケも払わず、どじょう汁を註文してくる彫金師の徳永老人に迷惑を感じている彼女だが、母親と徳永の救いの関係をはじめて知る…。「妙だね、この家は、おかみさんになるものは代々亭主に放蕩されるんだがね。あたしのお母さんも、それからお祖母さんもさ。恥かきっちゃないよ。だが、そこをじっと辛抱してお帳場に噛りついていると、どうにか暖簾(のれん)もかけ続けて行けるし、それとまた妙なもので、誰か、いのちを籠めて慰めて呉れるものが出来るんだね」──。心に残る名編。

気の毒な奥様  (青空文庫)
掌編。映画館に一人の女性が駆け込んで来た。子供が急病なので夫を至急呼び出して欲しいという。しかし愛人と一緒に映画を見に来ている夫の恥になるから、名前は言えないという。案内係の少女は機転を利かせるが…。オチが楽しいユーモア・ショートショート。

現代若き女性気質集  (青空文庫)
掌編。「結婚? そうね。出来るだけ我儘をさして呉れる男か、それとも絶対的に服従させられる強い男とならばね」 「ラグビーを見ているときだけ男の魅力を感ずる」 「流行なんてつまんないと思うんだけれど、やってみれば悪い気持もしないものね」 「いざとなって決心すりゃ、裸のモデルにでも平気でなれますわ。そして食べて行きますわ」。二十一世紀の今日でも充分共感できる(でしょ?)名文句集。

渾沌未分  (青空文庫)
短編。東京・下町の水泳場で旧式水泳(青海流)を教えている“旧東京人”の父・敬蔵と一人娘・小初だが、都会文化の猛威にさらされ、すっかり零落してしまった。都会の真中で生きていくため、若い薫(薄給の会社員の息子)との初恋を軽蔑し、五十男の貝原(材木屋の小富豪)に望みをかける小初の切ない功利心…。「泳ぎつく処(ところ)まで……どこまでも……どこまでも……誰も決してついて来るな」──。渾沌未分の世界(水中の世界の自由)に深入していく女主人公の姿を劇的に描いた女性解放小説。緻密な描写力に目を瞠る。文学を堪能!

 (青空文庫)
短編。常連客である年配の紳士・湊(みなと)に好意を寄せる鮨屋(すしや)「福ずし」の看板娘・ともよ。鮨を食べるということが自分の慰みになるという湊が語る思い出話──。没落していく家に生まれた故か、偏食で、食事が苦痛となった子供のために、手製の鮨を握って食べさせる母親の愛情。幻想の中のもう一人の母と、目の前で鮨を握っている母が一致していく喜び…。「すし! すし」、「では、お客さまのお好みによりまして、次を差上げまあす」──。鮨にまつわるちょっといい話。ほのぼのしみじみ。

蔦の門  (青空文庫)
掌編。孤独は孤独と牽(ひ)き合うと同時に、孤独と孤独は、最早(もは)や孤独と孤独とでなくなった──。結婚に二度も失敗し、薄倖な身の上の老女・まきと、早くに両親を亡くし、伯母夫婦に気兼ねしながら生きる少女・ひろ子。「では、おばさん行って来るわ」。突っかかるような言い方のまきと、早熟(ませ)た口調のひろ子との睦み合いが、少し年の隔たった母子のようで、素敵に心暖まる。好編。

とと屋禅譚  (青空文庫)
掌編。この頃、商売がうまく行かなくなり、気持ちが滅入っている魚問屋の主人・国太郎。今どきの商人になればよいとわかっていながら、大ふうなお坊ちゃん気質を捨てることができないのだ。色里・吉原へ出掛けた国太郎は、吉原へ“修行”にやって来たけったいな若い僧と出会う…。「遊ぶって、あなたが遊びなさるのですか、その坊さんの服装で」。この坊さんが高僧となったのも頷けます(笑)。

扉の彼方へ  (青空文庫)
掌編。学者だった亡父の元助手で、自分よりずっと年の離れた中年男・及川と結婚した私。前妻が他の男と情死してしまった過去を持つ及川と、青年・珪次との同棲(初恋)が破綻してしまった私…。結婚前のお互いの辛い悲しい思い出──その胸の扉を開いて、二人は事実上の夫と妻になれるか? 「二人ともこれで実はそうとう深傷(ふかで)を負ってるのだなあ」──。“蒟蒻(こんにゃく)”が取り持つ縁といった感じで、いいお話ですね。

花は勁し  (青空文庫)
短編。活花の師匠・桂子と肺病の画家・小布施──恋人同志になりえなかった二人の経緯と、小布施とせん子(桂子の姪)の関係を知った桂子の心境…。「君と僕は昔から本当は愛し合っていたのだ」、「私も急にそれに気がついたの」──。貞操を花に捧げると誓った女主人公の、花のように勁(つよ)い逞しき生命力を描いた女性小説。

 (青空文庫)
掌編。鼈甲屋の一人娘で、ボート競技の選手である室子。水上の世界に日常では味わえない法悦を感じている彼女は、友人の皆が結婚する中、自分だけが独身であることも気にしないのだが…。「今まで、自由で、独自で自然であった自分が手もなく擒(とりこ)にされるのだ。添えものにされ、食われ、没入されてしまうのだ」。生まれて初めて愛の力に射すくめられた女主人公の姿を鮮やかに描く。

鯉魚  (青空文庫)
掌編。応仁の乱で行き場を失った武将の娘・早百合姫を助けた臨川寺の沙弥・昭青年。彼女に食事を運ぶ彼だが、僧たちに見つかってしまう…。「昭公が一緒に居たのは、確とおなごかな。鯉魚をおなごと見誤ったのではないかな」。悟りの決定的瞬間が味わえる!

老妓抄  (青空文庫)
短編。発明で金儲けするという夢を持つ快活な青年・柚木(ゆき)の後援(パトロン)を買って出た老妓・小その。彼女のお陰で幸福な生活を送る柚木だが、放胆な飼い方をする老妓の目的に疑問を抱くようになる。「そんな純粋なことは今どき出来もしなけりゃ、在るものでもない」。彼女に出来なかったこと(純粋で一途な生き方)を自分にさせようとしていると知った柚木は、老妓から逃げるが…。「おっかさんまた柚木さんが逃げ出してよ」。老妓という存在から脱し得られない青年の滑稽な姿を、老妓の養女・みち子との関係を交えて描く。

老主の一時期  (青空文庫)
短編。一代で巨万の富を築いた山城屋の主人・宗右衛門だが、二人の娘が病気で足に障害を負い、妻・お辻が心臓病で死んでしまう。菩提寺である泰松寺に通って、こうなった業因を探る宗右衛門だが、荒廃と疲労が極度に達してしまう…。娘達への回避の念…、家業に対する倦厭の情…、女菩薩の画像の誘惑…。「では、御老師、私はどういたしたらその業とやらが果せましょうか」──。ラストの老師の指図は、とても為になり、有り難い。



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