このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
幸田露伴 (こうだ・ろはん) 1867〜1947。 |
『鵞鳥』 (青空文庫) |
短編。「あなたは今日はどうかなさったの」。美術学校の教師をしている夫・若崎の様子がいつもと違い、心配する女房。天皇の前で鵞鳥(がちょう)の鋳像を製作することになった若崎だが、失敗を怖れて鬱屈していたのだ。同僚で木彫家の中村からアドバイスを受けるが…。「なるほど。何の道にも苦しい瀬戸(せと)はある。有難い。お蔭で世界を広くしました」。芸術家の苦悩と覚悟を描いて出色。 |
『観画談』 (青空文庫) |
短編。苦労して大学に入り、同級生から“大器晩成先生”などというあだ名を付けられた主人公の男だが、病気のため、暫く学事を放擲(ほうてき)して、心身の保養に力(つと)めることに。漫遊の末、奥州の僻地窮境にある貧乏寺に辿り着いた晩成先生だが…。「御やすみになっているところを御起しして済みませんが、夜前(やぜん)からの雨があの通り甚(ひど)くなりまして、渓(たに)が俄(にわか)に膨れてまいりました。幸(さいわい)なことにはこの庭の左方(ひだり)の高みの、あの小さな滝の落ちる小山の上は絶対に安全地で、そこに当寺の隠居所の草庵があります。そこへ今の内に移っていて頂きたいのです」──。一枚の風俗画に人生の活路を見出す男の姿を描いた秀作。ホラー小説のようなノリでグイグイ読ませる。 |
『貧乏』 (青空文庫) |
短編。すっからかんの亭主・金(きん)さんのために、帯を売って酒代を工面する女房・おとま。食べるものも売るものもなくなり、一枚の富籤(とみ)の札(ふだ)に将来をかけるしかない夫婦…。「そんなら汝(てめえ)、おれが一昨日(おととい)盗賊(ぬすみ)をして来たんならどうするつもりだ」、「金さん汝(おまい)情無い、わたしにそんなことを聞かなくちゃアならない事をしておくれかエ。エ、エ、エ」──。きっぷのいい江戸弁の会話を通して描かれる夫婦の愛情がいい。 |
『蘆声(ろせい)』 (青空文庫) |
短編。毎日のように中川べりへ出かけ、釣りを楽しむようになった「自分」は、ある日、みすぼらしい身なりをした十二、三歳の少年と出会う。母親に吩咐(いいつけ)られて釣りに来たという少年の家庭の事情…。「ほんとのお母(っか)さんでないのだネ。明日(あす)の米を磨いだり、晩の掃除をしたりするのだネ」──。最初のうちに抱いた印象とは違い、少年の聡明で美しい性質を知って、心を動かされる主人公の様子が素晴らしい。 |
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