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小酒井不木 (こさかい・ふぼく) 1890〜1929。


ある自殺者の手記  (青空文庫)
掌編。加藤君、僕はいよいよ自殺することにした──。自分と同じ「加藤」姓で、同じ年に生まれ、同じく医者でもある君が、恋人である看護婦の恒子さんと抱擁し、接吻しているところを目撃してしまった僕。失恋したことを悟った僕は、自殺することを決心するのだが…。どんでん返しのラストが楽しめるショート・ショート。ちなみに、“最近死んだ某文士”って誰のことか、皆さんならすぐ分かりますよね。

按摩  (青空文庫)
掌編。老按摩(あんま)に身体を揉ませるニコチン中毒の男だが、按摩が盲目となった恐ろしい経緯を聞き、恐怖のあまり、煙草を吸う気が失せてしまう…。「実はねえ旦那、私は若い時に人殺しをしたんです」。煙草の煙が大嫌いな人に小気味良いショートショート。

遺伝  (青空文庫)
掌編。「如何(どう)いう動機で私が刑法学者になったかと仰(おっ)しゃるんですか」。吉原の花魁・初花(はつはな)と深い仲になったKは、子供の頃に相次いで両親が殺されたという彼女の悲しい身の上を聞く。彼女の両親を殺した犯人を、僅かな手掛かりで突き止めるKだが…。「これを御覧なさい。これが、彼女の手に握られて居た、恐しい刑法の条文です」。旧刑法の条文を上手く使った推理小説。

外務大臣の死  (青空文庫)
短編。外相官邸で開かれた舞踏会のさ中、D外相がピストルで暗殺された。外相夫人から犯人捜索を依頼された探偵・松島龍造は、舞踏会の招待客を集めて、暗殺時の状況を再現するが…。「この事件には、たった一つ大きな手ぬかりがあります。それに、犯人もたった一つ手ぬかりをしております!」。殺人芸術家(犯人)による「故意に無頓着な殺人」に挑む芸術批評家(探偵)の心理戦が面白い。

汽車の切符  (網迫の「質より量」) (網迫の「質より量」(新館))
短編。狂言自殺をして別人に成りすました小泉五郎は、自分を捨てた女・村田照子を計画的に殺害するが、逮捕されるのではないかという恐怖に苛まれる。自分と瓜二つの男・小室淳一が犯人として逮捕されたという記事を読んだ彼は、小室とその妻に興味を抱くが…。「このとおり切符はもう買ってあるのですよ。ちょっとこれを持っていてちょうだい」──。新聞記事を気にする犯人の心理状態や、意表の展開による収束がすこぶる面白い。

疑問の黒枠  (奈落の井戸)
長編。
新聞に自分の死亡広告を出された名古屋の富豪・村井喜七郎。冗談好きの村井は、これを機会に「模擬葬式」を挙行するが、棺桶の中で変死してしまう。何者かによってすり替えられた丸薬を飲んで毒死したのだ。

姿が見えなくなった村井の娘・富子の行方を捜す恋人・中沢保は、村井の信任を得ていた青年・押毛に疑いを掛けるが、押毛もまた姿をくらませてしまう…。

「この事件は実に奇妙な事件ですなあ。先ず丸薬のケースがなくなる。令嬢がなくなる。次に肝腎の押毛という人物がなくなる。それから最後に村井さんの死体がなくなるという次第です。いや、うっかりして居ると、こんどは、私のこの大きな身体までがなくなるかも知れません。ははははは」

「黒枠(死亡広告)」は誰が何のために出したものなのか? 法医学教室から村井の死体を盗み出した人物が殺人犯人なのか? 事件の背後に潜んでいる「悲劇的事情」と、真犯人は一体誰だ?

「今迄探偵小説で読んだ犯罪は、一人のすぐれた探偵によって、手がかりと推理とで見ごとに解決されることになって居ますが、今度の事件は、幾人かかかって、色々な手がかりを見つけても、結局は、それ等のものが役に立たず、いわば事件は最も原始的な方法で解決されました。これが当然なのでしょうか」
「先ずそうだろうねえ。然し、今度の探偵の方法を振りかえって見ると、いわば事件をしてそれ自らを解決せしめよというモットーに従ったと言うべきだ。そこに、従来の探偵小説に描かれたような探偵方法とちがった点があると思う。とまあ、言って満足するんだね」

「新聞の死亡広告」「模擬葬式」「殺人方程式」「生きた姿のままの木乃伊(ミイラ)」など、趣向を凝らしたアイテムを駆使し、複雑に入り組んでいくストーリー展開の面白さと、登場人物たちの関係が次第に関連づいていく鮮やかさ。名古屋を舞台とした本格推理小説の力作。「懸賞付き犯人当て探偵小説」つながりで坂口安吾「不連続殺人事件」もオススメ。

愚人の毒  (青空文庫)
短編。西洋では亜砒酸のことを“愚人の毒(フールスポイズン)”と呼ぶ。未亡人の奥田トメが四回目の発作を起こして絶命した。死因は亜砒酸中毒。恋人との結婚をトメに反対されていた長男・健吉と、トメから勘当を言い渡されていた次男・保一に嫌疑が掛かるが…。「だって、未亡人は亜砒酸中毒で死んだではありませんか」。津村検事の活躍を描いた推理小説。どんでん返しのラストがお見事!

稀有の犯罪  (青空文庫)
短編。N男爵家からダイヤを盗み出した三人組の宝石盗賊(箕島、仙波、京山)。警察の追跡を恐れた箕島は、とっさにダイヤを飲み込むが、独り占めしたと誤解した仙波は、箕島を射殺してしまう。ダイヤを取り返すため、箕島の死体が安置された法医学教室の解剖室へ潜入する仙波と京山だが…。「これが胃で、この中にダイヤモンドがあるはずだ」。臓器盗難の顛末を描いたユーモア・ミステリー。

死体蝋燭  (青空文庫)
掌編。暴風雨の夜、本堂の阿弥陀如来の前で、小坊主の法信に世にも恐ろしい懺悔話をする和尚。人肉の焼ける匂いがたまらなく好きになった和尚は、小坊主の良順を殺して、蝋燭に…。「和尚さま、どうぞ勘弁してくださいませ」。オチが楽しいユーモア・ホラー。

死の接吻  (青空文庫)
短編。恋を語るには暗い方がいい。そして死を語るにも──。友人・佐々木京助の妻・敏子に恋をしてしまった青年・雉本静也。コレラが大流行しているのを幸いに、京助をコレラに見せかけて亜砒酸(あひさん)中毒死させた静也だが…。「そ、それでは敏子さんは…」、「佐々木に済まないけれど…」、「敏子さん、本当ですか?」──。医師の信頼は誤診にあり!? 冒頭に描かれた日本の状況や人々の心境が今日と似通っていて驚く。

手術  (青空文庫)
掌編。「探偵趣味会」に集まったメンバー達。「今晩は、人間の共食いを話題としようではありませんか」──。元看護婦・C子さんが語る世にも恐ろしい出来事とは? 講習生たちが見守る中、子宮摘出手術を行った産婦人科医・T先生だが…。「もう、手術はすんだ。後始末をしてくれたまえ」──。誤診手術の顛末を描く怪奇小説。

新案探偵法  (青空文庫)
短編。「新案探偵法」なるものを発明した生理学者・鯉坂嗣三(こいさかつぐぞう)君。それは、「犬の嗅覚を応用した条件反射によって犯人を鑑定する」というものなのだが、いよいよ実際に起きた事件でその探偵法を試みる鯉坂君だが…。「おい君、君が煙草屋のよし子を殺したのだろう。白状したまえ」──。オチが笑えるユーモア小説。

人工心臓  (青空文庫)
短編。生理学者・A博士が語る人工心臓発明の顛末──。生活現象の悉(ことごと)くを、純機械的に説こうとする学説「機械説」の信者である私は、病気や死など人類の恐怖を取り除くことを目的に、人工心臓の研究に取りかかる。動物での実験を経て、いよいよ人間での実験を行うのだが…。人工心臓を完成させたA博士が、その研究を放擲してしまった理由は? 「人工心臓の快さ! 恐怖を知らぬ人工心臓! 人工心臓こそは病気に対する恐怖心を完全に除くものだ! 人工心臓こそは人をして楽園に遊ばしめるものだ! 何という平安な世界であろう!」──。人工心臓の思わぬ誤算と真理的結末が面白くて深い。

謎の咬傷  (青空文庫)
短編。銀座で宝石商を営む大原伝蔵が、自宅の居間で何者かに殺害された。咽喉笛(のどぶえ)の咬傷(かみきず)から、大原に咬み付いて窒息死させたのは、女であることが判明するが…。「これで犯罪の動機がわかったが、同時に第四者の存在が知れた」、「え? 第四者?」。索物色情狂(フェチシスト)が引き起こした意外に複雑な殺人事件を霧原警部が解決する「特等訊問」もの。“第四者”の正体が余りに意表を突いていて驚嘆!

呪われの家  (青空文庫)
短編。「極めて穏かに訊問して、最後に一言だけ言えば犯人は必ず自白するものだ」──。真夜中の路上で身元不明の若い女が刺殺された事件。現場付近にいた不審者・平岡とその同居人・鬼頭を訊問するが、なかなか白状しようとしない…。被害者が死に際に書いた「ツノダ」の謎とは? 「特等訊問」によって犯人を完落ちさせる警視庁警部・霧原庄三郎の活躍を描いた探偵小説。科学捜査が今ほど進んでいない時代をちょっと追体験。

被尾行者  (青空文庫)
掌編。「どこまで狡猾な男だろう。まるで散歩しているように見せかけて、その実熱心に探偵してあるくのだ」。探偵に尾行されていることに気がついた宝石店の店員・梅本清三。借金を返すため、無断で店の指輪を質入れしたことが、どうやら店の主人にバレてしまったらしい。恋人・妙子にすすめられて、店の主人に一切を白状する清三だが…。オチがちょっと読めちゃう展開だけど、それでも面白い。

秘密の相似  (青空文庫)
掌編。網膜炎に罹(かか)って右目が失明したということを秘密にしたまま、Tと結婚した文子(ふみこ)だが、その秘密に堪え切れなくなり、結婚の翌日に実家に戻ってしまう。秘密を打ち明けて、許しを請(こ)う手紙をTに送る文子だが…。「そうして又、私は日本の現代の結婚の習慣をもにくみます。結婚と虚偽とがとかく離れがたい関係にあることは、実に呪うべき現象だと思います」──。結婚と虚偽の相関! 大ドンデン返し、炸裂!!

暴風雨の夜  (青空文庫)
掌編。医師M氏の忠告を無視して、財産家の娘・友江と結婚した黴毒患者の信之。案の定、友江は病気に感染してしまい、信之によって土蔵に監禁されてしまう…。「旦那様、どうかなさいましたか?」、「友江の死体が、消えてなくなったんだ」、「ひえッ!」──。M氏が語る怪談の真相。単なる怪談ではなく、ヒネリがあって面白い。

メデューサの首  (青空文庫)
短編。トランプ遊びで負けた者の身体に悪戯書きをして楽しむ医学生に、「若い女の身体に落書きをすると、意外な悲劇が起こる」と忠告する五十年配の紳士。元医者だという彼は、ギリシャ神話に出てくる怪物「メデューサの首」を孕(はら)んだと思い込む女性患者の話を始める…。「それに先生、実を言うと、わたしはまだもう一つ心に願っていることがあるのです。それは温泉宿でわたしのお腹に悪戯書きをした人間を捜し出し、思う存分復讐してやりたいということです。しかし、それがだれであるかはもとよりわかりません。が、もしわたしが死にましたら、きっと復讐ができると思うのです」。妄想に取り付かれたナルシシズムの女の不幸と執念を描いたホラー小説。

恋愛曲線  (青空文庫)
短編。恋しき女性・雪江と明日結婚する実業家Aへの記念品として「恋愛曲線」なるものを贈ることにした科学者。雪江をAに奪われ、失恋の絶頂にある彼は、恋愛のシンボルである心臓についての研究に没頭し、動物の心臓では飽き足らず、切り出した人間の心臓まで使って、遂に「恋愛曲線」を完成させるが…。失恋の絶頂×失恋の絶頂=恋愛の極致!? 「僕は今無限の喜びを感じて居る。これが恋愛の極致でなくて何であろう」──。驚愕のラスト! 医学の知識を駆使した怪奇小説。すっ飛んだ発想力に敬服。



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