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久米正雄 (くめ・まさお) 1891〜1952。


受験生の手記  (青空文庫)
長編。
「勉強しなければならない、今年こそはどうしても入らなければならない。」
昨年、一高(=旧制第一高等学校)の受験に失敗し、惨めな思いをした私(受験生・久野健吉)。今年は去年よりも早めに田舎から上京し、千駄木の姉夫婦の家で入試に備える私だが、肝心の勉強は一向にはかどらない。ひそかに想いを寄せている義兄の従妹(いとこ)・澄子さんのことがどうにも気になって仕方がないのだ。
そうこうしている内に、中学を卒業した弟・健次も一高を受験するために上京。澄子さんとすっかり仲良くなった健次に対して、嫉妬・憎悪・羨望を感じる私だが…。

「だけれど健吉ちゃんも気をお附けなさい。あの子はそれあ無邪気なんですから。誰とでもすぐお友達になるのよ。健次さんとだって、もう兄弟のように仲がよくってよ。」

──運命の入学試験の結果は? 合格or不合格? そして澄子との恋の行方は?

「兎角(とかく)恋と試験は両立しないさ。」

澄子の手紙を私が盗み読む場面がこの小説のハイライトで、面白さ最高潮! 明るいタッチの通俗小説として読んでいただけに、この結末は何とも…、実はシリアスものだったとは…。とにもかくにも、蠱惑的で小悪魔でコケティッシュな少女・澄子がナイス・キャラ。

 (青空文庫)
短編。道化を演じる三枚目役者として、劇団で無くてはならない存在となった新派俳優・深井八輔だが、正当な役が与えられない不満も感じていた。今度の舞台で“虎”に扮することになった彼は、恥辱を感じながらも、役作りのために上野動物園へ行き、自信と手応えを得る。いよいよ舞台が開演するが…。「そうだ。一つ思い切って虎になってやるぞ。俺には色男の気持なぞよりも、もっと切実に虎の気持が解るのだ」──。八歳の息子の父親としての自分と、動物役者としての自分…。引け目とプロ意識の相克を描いて印象に残る。
→岩野泡鳴「猫八」



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