このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
邦枝完二 (くにえだ・かんじ) 1892〜1956。 |
『歌麿懺悔 江戸名人伝』 (青空文庫) |
短編。「もう二度と、白洲の砂利は踏みたくねえ」──。太閤記の絵を描いたのが災いして、三日間の入牢、五十日の手錠の刑に遭って以来、すっかり弱気になってしまった浮世絵師・喜多川歌麿。十年前に描いた「北国五色墨」の美女・若鶴にそっくりの女(遊女・お近)がいると、彫師の亀吉から聞いた歌麿は、女に会いに行くが…。魔の如く、脳裡から消えない南町奉行の同心・渡辺金兵衛の存在…。歌麿の最期を描いた興味深い作品。 |
『おせん』 (青空文庫) |
長編。 「あい、あたしゃあの、浜村屋の太夫さんが、死ぬほど好きなんでござんす」 「えッ。菊之丞に。——」 錦絵や毬唄になるほど江戸で一番の評判娘・おせん(水茶屋の娘)。年頃でありながら、「あたしゃ男は嫌いでござんす」と言って男に興味を示さない彼女だが、実は死ぬほど好きな人がいた。 それは、幼なじみで歌舞伎役者の瀬川菊之丞(二代目)だった。当代随一の人気役者で、妻も妾もいる菊之丞に、もはや会えない境遇のおせんだが、人形師に菊之丞の生人形を作ってもらうほど、菊之丞への想いを募らせる。そんな中、菊之丞が舞台で倒れたという知らせが…。 「たとえ一夜の枕は交さずとも、あたしゃおまえの女房だぞえ」──。 おせんに首ッたけの紙問屋の若旦那・徳太郎や、おせんの爪を煎じて悦に入る変り者の絵師・春重、おせんの兄でやくざ者の千吉など、おせんを取り巻く人々のエピソードを交えながら、歯切れのいい江戸弁と、リズム感のある文体で描かれる評判娘と人気役者の悲恋話。一気読みの面白さ。名品。 |
『女間者』 (網迫の電子テキスト乞校正@Wiki) |
短編。赤穂浪士たちの動きを警戒する吉良上野介を説得して、吉良邸で茶会を催させる上野介の愛妾・若菜。実は彼女は、赤穂浪士・毛利小平太の妹・お絹であった。女間者として吉良邸に潜入している彼女は、上野介に操(みさお)を蹂躙された無念と屈辱を、小平太が晴らしてくれると信じるが…。「兄に遭えますように、…小平太がまいりますように…」。吉良邸を舞台とした「忠臣蔵もの」の悲話。 →森田草平「四十八人目」 |
『曲亭馬琴』 (青空文庫) |
短編。弟子入りを志願しに来た若い男・曲亭(滝沢)馬琴の心構えに感心した戯作者・山東京伝は、彼の出入りを許す。そんな京伝の計らいに腹を立てた京伝の弟・京山は、家を飛び出してしまうが…。「ふふふ。おめえのような、そんな高慢ちきな男ア大嫌えなんだ」、「そりゃアどうも、わざわざ御苦労様でございました」、「なんだって」──。若き日の馬琴のしたたかすぎるエピソードを描いて面白い。 →国枝史郎「戯作者」 →芥川龍之介「戯作三昧」 |
『乳を刺す 黒門町伝七捕物帳』 (青空文庫) |
短編。半年振りに実家(薬種問屋・伊吹屋)へ帰って来た御殿女中・お由利だが、その日の晩に刺殺されてしまう。青山の岡っ引・留五郎は、お由利の寝間に忍び込んだという手代・常吉をしょっ引くが…。「ははは。まだくさるのア早えよ。こんな日にゃ、早く寝ちまって、またあした出直すんだ」。犯人のやむにやまれぬ悲しい事情と、黒門町・伝七親分の情けある猶予…。安定した筋立てで読ませる。 |
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