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国木田独歩 (くにきだ・どっぽ) 1871〜1908。


運命論者  (青空文庫)
短編。奇(あや)しい運命に弄ばれ、不幸(ふしあわせ)な境遇に陥った“運命論者”の青年・高橋信造が話す苦痛なる叫び──。自分が両親の実子ではなく養子であったという事実を知った僕は、養父母の家から離れ、雑貨商の娘・里子と結婚するのだが…。妻を愛し、妻に愛されることが、却って自分を苦しめるというのは一体どういうことか? 「怨霊が私に乗移って居るから気味が悪いというのでしょう。それは気味が悪いでしょうよ。私は怨霊の児(こ)ですもの」──。探偵作家の作品を読んでいるようで軽快で面白い。

置土産  (青空文庫)
掌編。三角餅で繁盛している叔父夫婦の茶店で働く若い娘・お絹とお常にとって、毎晩のように夕涼みにやって来る油売りの若者・吉次(きちじ)とは気の置けない間柄だ。軍夫(ぐんぷ)となってかの地へ渡り一稼ぎする決心をした吉次だが、その事をなかなか二人に打ち明けられない…。「そんなら早い話がお絹さんお常さんどちらでもよい、吉さんのところへ押しかけるとしたらどんな者だろう」、「そんならわたしが押しかけて行こうか、吉(きっ)さんいけないかね」──。吉次が二人のどちらに想いを寄せていたかが判るラストが切ない。

河霧  (青空文庫)
掌編。立身出世を目指して故郷を旅立つも、口の悪い老人・並木善兵衛(杉の杜のひげ)の予言どおり、何事もなし得ないで、零落(おちぶ)れて、二十年ぶりに故郷に帰って来た上田豊吉。親切な故郷の人々の計らいで、新しく設立する私塾の先生になることが決まった豊吉だが…。老人の予言しのこした豊吉の運命とは? 「ここだ、おれの生まれたのはここだ、おれの死ぬのもここだ、ああうれしいうれしい、安心した」──。希望なき零落の海から、希望なき安心の島に漂着した男の心境を描いた悲話。

牛肉と馬鈴薯  (青空文庫)
短編。「理想は則(すなわ)ち実際の附属物(つきもの)なんだ!」。理想(馬鈴薯)と現実(ビフテキ)を巡って議論する紳士たち。自分は馬鈴薯党でもビフテキ党でもなく、唯だ一つの「不思議なる願」を持っているという岡本誠夫(せいふ)は、恋人と死別した話をする…。「不思議なる願」とは? 「僕は人間を二種に区別したい、曰(いわ)く驚く人、曰く平気な人……」。“平気”じゃいられない哲学小説。

恋を恋する人  (青空文庫)
短編。国府津へ嫁いだお正(しょう)と再会した大友は、彼女が年の離れた夫とうまくいっていないことを知る。「貴下(あなた)彼晩(あのばん)のことを憶えていらっして?」、「憶えていますとも」。四年前と同じように、寄り添って夜道を散歩する二人。大友はお正が自分を恋していたのを知るが、自分は恋を恋する人に過ぎないことを自覚する…。擦れ違う二人の心情を描いて「縁」について考える。

号外  (青空文庫)
掌編。戦争が終わって、楽しみだった号外が出なくなってしまい、がっかりしている加藤男爵は、彫刻家の中倉翁に自分の肖像を彫ってくれるように頼む…。「号外という題だ。号外、号外! 号外に限る、僕の生命は号外にある。僕自身が号外である。しかりしこうして僕の生命が号外である。号外が出なくなって、僕死せりだ。僕は、これから何をするんだ」──。日露戦争後の「喜憂」の喪失を描く。

酒中日記  (青空文庫)
短編。「いったいこの男はどうしたのだろう、五年見ない間(ま)に全然(すっかり)気象まで変って了(しま)った」──。瀬戸内の小さな島・馬島(うましま)で私塾を開き、気楽な生活を送る大河今蔵(いまぞう)が日記に認(したた)める五年前の不幸で悲惨な出来事──。軍人たちへの淫らな接待にいそしむ強情で我儘な母妹のために、やむなく金を工面している小学校の教員・今蔵。机の抽斗(ひきだし)に保管しておいた学校改築のための大事な寄附金(百円の大金)を、母親が無断で持ち出して行ったと知った今蔵だが、気の弱い性格ゆえに、取り返すこともできず、次第に追い込まれていく…。「お前これを見たな!」──。日記の文体の軽妙さが、かえって主人公の苦痛の深さを表出していて秀逸だ。

第三者  (四国の山なみ)
短編。性格の不一致が原因で妻・お鶴に逃げられた夫・江間──この離婚問題を、“第三者の冷静”でもって、解決しようと試みる武島(お鶴の義兄)と大井(江間の友人)。お鶴を思い切るよう江間を説得する二人だが、江間はどこまでも妻を愛しているから離婚しないと言い張り…。「なるほど、第三者というものは冷酷なものだ」──。第三者の効能と限界を往復書簡の形式で描く。「ラブる」とか「ラブ時代」とか「ラブ魂」といった言葉が出てきて面白い。

竹の木戸  (青空文庫)
短編。貧乏ゆえに物置同然の小屋に住んでいる植木屋夫婦(磯吉とお源)。炭を買うお金に窮したお源は、隣家(会社員・大庭真蔵の一家)の炭を盗んでしまうが、それを真蔵に見られてしまう…。「貧乏が好きな者はないよ」、「そんなら何故(なぜ)お前さん月の中(うち)十日は必然(きっと)休むの? お前さんはお酒は呑ないし外に道楽はなし満足に仕事に出てさえおくれなら如斯(こんな)貧乏は仕ないんだよ」──。貧乏の悲劇を描いた作品だが、磯吉のような甲斐性のない男は女房を持ったらダメだよね。温厚な性格の真蔵や、出戻りである義妹・お清(きよ)、気の強い女中・お徳など、大庭家の何気ない日常を描いただけの小説があっても面白そう。

富岡先生  (青空文庫)
短編。華族になれず、田舎に引っ込んで老朽した経歴から、頑固で偏屈な老人になってしまった富岡先生。容貌佳(きりょうよ)しで慎ましい性格の愛娘・梅子…、富岡の教え子で学士になった三人の秀才青年(大津、高山、長谷川)…、家計の都合で学士になれなかった小学校の青年校長・細川繁…。「お梅さんは善いにしてもあの頑固爺(おやじ)の婿になるのは全く御免だからなア! ハッハッ…お梅さんこそ可憐(かわい)そうなものだ、あの高慢狂気のお蔭で世に出ることが出来ない!」。経歴が造った富岡先生と本来自然の富岡氏(うじ)──二個(ふたり)の自分のせめぎ合いを、娘の縁談を通して描いた秀作。恋愛小説としても素晴らしい。

二少女  (青空文庫)
掌編。東京電話交換局で交換手をしているお富は、近頃ずっと欠勤している同僚のお秀の家を心配で訪ねる。局では、お秀が妾(めかけ)になったのではないかという噂が立っていた。両親を相次いで亡くし、生活が困窮する中、妹弟のいるお秀は、局を欠勤して針仕事に専念していた…。「女の仕事はどうせ其様(そん)なものですわ」──。二人の少女(むすめ)の友情を描いたプロレタリア文学。

初恋  (青空文庫)
掌編。立派な漢学者でありながら、陰気で頑固なため、村人から敬して遠ざけられている老人の大沢先生。高慢な老先生を一度はへこませたいと考えていた生意気な僕(十四の少年)は、「孟子」を題材に老先生に議論をふっかけるが…。オチが素敵に素晴らしい。

節操(みさを)』  (青空文庫)
掌編。近頃、妻・元子の帰宅が遅く、すっかり不機嫌になっている銀之助。「外で何を勝手な真似をして居るか解りもしない女房のお帰宅(かえり)を謹んでお待(まち)申す亭主じゃアないぞ」。五年前に別れた静(しづ)からの手紙を読んだ彼は、彼女に会いに行くが…。「断然元子を追い出して静を奪って来る。卑しくっても節操がなくっても静の方が可(い)い」。男の情けなさっぷりが実にいい感じ。



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