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三遊亭円朝 (さんゆうてい・えんちょう) 1839〜1900。 |
『怪談牡丹灯籠』 (青空文庫) |
長編。落語。 旗本・飯島平左衞門の邸で武家奉公を始めた若者・孝助。十八年前に殺された父の敵(かたき)を討ちたい孝助は、平左衞門から剣術を教わるが、まさか平左衞門が父の敵(かたき)だとは知る由もない。 平左衞門の妾・お國とその情夫・源次郎が、平左衞門を殺して飯島家を乗っ取ろうとしていると知った忠義者の孝助は、二人を殺して、自分も死ぬ決心をするが…。 「敵(かたき)同士でありながら汝の奉公に参りし時から、どう云う事か其の方(ほう)が我が子のように可愛くてなア」 一方、平左衞門の娘・お露と恋仲になった浪人・萩原新三郎。しかし、牡丹の花の灯籠を提げて夜な夜なやって来るお露は何と幽霊だった! それを知った新三郎の家来・伴藏とその女房・おみねは、悪計を思いつき…。 「私(わたくし)は貴方より外に夫はないと存じておりますから、仮令(たとい)此の事がお父(とっ)さまに知れて手打に成りましても、貴方の事は思い切れません、お見捨てなさるとききませんよ」 二組の悪党(お國・源次郎と伴藏・おみね)の悪だくみと、善人・相川孝助の波乱万丈な運命を描いた勧善懲悪もの。超絶! (題名が「怪談〜」だから、てっきり全編が怪談なのかと思ったら、怪談は一部分なんだね。) |
『霧陰伊香保湯煙』 (青空文庫) |
長編。落語。 借金までして身請けした前橋の芸妓(げいしゃ)・お瀧に、情夫(村上松五郎)のいることを知った足利の機織屋・奥木茂之助(ものすけ)は、二人を殺して自分も死ぬ決心をするが…。 「ウーム間違えだ、お瀧を殺そうと思ってお前を殺したのだ、堪忍してくれよ」 一方、幇間(おたいこ)の岡村由兵衞を連れて伊香保までやって来た金満家の橋本幸三郎。しかし、知らず知らずのうちに、“松五郎お瀧の一件”に巻き込まれてしまう…。 松五郎とお瀧の悪党ぶりや、伊香保で出会った美人・お藤と幸三郎の恋の行方…、村上の御新造(お山)の正体など、読みどころ満載の仇討ち人情噺。 茂之助とお瀧の仲裁に入る隣人・川村三八郎がナイス・キャラ。漢語まじりのヘンテコな物言いが抜群に面白い。ほんのちょい役なのが勿体ないくらいで、主役でも十分いけます(笑)。 「先ず即ち僕も斯う遣って爰(ここ)へ這入った事だから、兎に角(とにかく)僕に預け給わんければ相成らんと心得有らずんば有るべからず」──。 |
『政談月の鏡』 (青空文庫) |
長編。落語。 見知らぬ武士から貰った酒を、毒酒と知らず飲んで死亡した夫・喜助の敵を討つため、吉原の遊女に身を落とすお梅…。一方、泥棒の汚名を着せられてしまった浪人・清左衛門の娘・お筆は、入水自殺を図るが…。 「何うも生きて居られません深い訳が有ります事故(ゆえ)、何卒(どうぞ)助けると思召して殺させて下さいまし」 「助けると思って殺させる者はない」 養父の看病のため袖乞いしたり…、偽金使用の罪でお縄になったり…、薄幸の娘・お筆の波乱万丈ぶりが印象的。どんな境遇にあっても孝行を怠らない姿勢が素晴らしい。毒を盛った武士の正体は本当に清左衛門なのか? 町奉行・曲淵甲斐守の名裁き。抜群のストーリー構成で読ませる一級品の人情噺。 |
『西洋人情話 英国孝子ジョージスミス之伝』 (青空文庫) |
長編。落語。 「此の三千円は命の綱で大事な金でがんすから、どうか三千円確かに預かった、入用の時には渡すという預り証文を一本御面倒でも戴きたいもので」 時は明治初期──。前橋藩の重役だった春見丈助に、三千円という大金を預けた商人・清水助右衞門だが、利慾に目がくらんだ春見に打ち殺されてしまう。 その後、春見は、奪い取った三千円を元手に商売が成功し、たちまち富豪(ものもち)となるが、助右衞門が殺されたことを知らない清水家は、すっかり零落し、裏長屋住まいに…。助右衞門に大恩のある屋根屋の棟梁・清次郎は、偶然にも春見の悪事を知り…。 病気の母を支える助右衞門の息子・重二郎と、慈悲のある春見の娘・おいさとの敵(かたき)同志の恋の行方…、「預り証文」を盾に春見を恐喝する元前橋藩の下役・井生森(いぶもり)又作…。 「私(わたくし)は貴方を心底思って居りまして、此の間お別れ申した日から片時も貴方の事は忘れません」 「切(せ)めて元の身代の半分にでも身上が直ったらおいささん、お前と夫婦に成りましょう」 「悪人亡びて善人栄える」の勧善懲悪を趣意とした正攻法な人情噺。 |
『根岸お行の松 因果塚の由来』 (青空文庫) |
長編。落語。 一度は引き離された恋人・伊之助と逢い引きし、懐妊したお若だが、何と相手は伊之助に化けた狸(たぬき)だった。狸の胤(たね)である双子(伊之吉、お米)を出産したお若は、双子を養子に出し、懺悔(ざんげ)のため、尼になるが、再会した伊之助と駆け落ちしてしまう…。 一方、大工の家に貰われ、大人に成長した伊之吉は、品川の娼妓・花里(はなざと)と深い仲になるが、花里を身請けしたいという軍人・海上渡(うながみ・わたる)が現れて…。 「それがね、先生大変なんで、今狸公のお若さんが、あの伊之助野郎と一緒に私(わっち)の家(うち)へ来ているんですから、変挺じゃげえせんか」 「ハハハハいよいよ訝(おか)しいよ、お若はここにいるじゃないか、殊に二十年来の病気で外出したことのないものがお前の家(うち)へ行(ゆ)くわけがないよ」 “離魂病”を題材にした波乱万丈・因果応報な悲恋噺。意表のストーリー展開に引き込まれる。 |
『文七元結』 (青空文庫) | ||||
短編。落語。 腕は一流だが、博奕(ばくち)好きの左官・長兵衞。そんな父親が作った借金を返すため、吉原に身を売る決心をした長兵衞の娘・お久。女郎屋「角海老」の好意で、百両を借り受けた長兵衞だが、掏摸(すり)に百両を取られて橋から身を投げようとする鼈甲(べっこう)問屋の若者・文七と出会い…。「お構いなくったって往けねえやな、仕方がねえ、じゃア己が此の金を遣ろう」。皆いい人ばかりで人間って素晴らしい。感涙のラスト。 | ||||
●『文七元結』は、笑いあり涙ありの完璧な筋立ての人情噺。身投げしようとする文七を助けるため、百両を遣ろうかどうしようか迷う長兵衞の姿が笑わせる。 | ||||
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お笑いで言うところの「天丼」ってやつですか。すぐに百両を遣ってしまったら面白くないわけで、同じやり取りを繰り返すことで長兵衞の心の葛藤が表現されていて秀逸。 |
『松と藤芸妓の替紋』 (青空文庫) |
中編。落語。 「これは明治四年から六年まで、三カ年の間お話が続きます。実地にあったお話でございます」──。数奇屋町「有松屋」の芸妓・お美代が、離ればなれになっていた実の妹だと分かった洋物屋「奥州屋」の主人・新助。お美代を身請けして、恋人の庄三郎と一緒にさせてあげようと考えた新助だが、思い違いをする庄三郎は新助を刺し殺してしまう…。 「手前は美代吉の色恋に溺れて身請を致すのではござらん、美代吉の真実の兄で松山久次郎(新助)と申すものでござるぞ」 「はあア左様な事で有ったか。左様とは心得ませんで…」 新助の遺志に従ってお美代と夫婦になった庄三郎…、事情をまったく知らないでいるお美代…、夫・新助の死ですっかり零落したおふみ…、事件の真相を知るおふみの兄・徳蔵…。若気の至りがもたらした悲劇を描いた人情噺。 |
『名人長二』 (青空文庫) |
長編。落語。 実の親に無慈悲にも藪の中に投(ほう)り込まれ、棄てられた──。湯治のために逗留した湯河原で、思いがけず自分の背中の疵(きず)の謎と、出生の秘密を知った指物師の名人・長二。得意先の龜甲屋・幸兵衛の妻・お柳の様子から、彼女が実母であると確信した長二は…。 「何で私(わっち)が言いがかりなんぞを致しましょう、本当の親だと明かしておくんなさりゃアそれで宜(い)いんです、只親だと一言云っておくんなせえ」。 長二の非凡なる腕前と気性の潔白さに感服した町奉行・筒井和泉守は、何とかして親殺しの罪から長二を救ってやろうと思案するが…。 「半右衛門妻柳は、長二郎の実母ゆえ、親殺しと申す者もあろうが、親殺しに相成らぬは、斯ういう次第じゃ」。 慈悲深い筒井和泉守の名裁き、理解ある林大學頭の名解釈、人情味あふれる登場人物たちに拍手。気軽者である長二の弟弟子・兼松が笑える。落語に疎い私だがタイムマシーンがあったら円朝の落語を聞いてみたい。 |
『闇夜の梅』 (青空文庫) |
短編。落語。 夫婦約束をした甲州屋(紙屋)の娘・お梅と手代・粂之助だが、世間体を気にするお梅の母によって粂之助は暇を出されてしまう。粂之助に会いたいお梅は家出をするが、何者かに殺されてしまう…。「お嬢様が昨夜(ゆうべ)家出をした事を知ってるかい」、「いいえ…」、「いいえって震えたぜ、え、おい、お嬢様(さん)が殺されちまったんだよ」、「えっ、お嬢様が…」。金子(かね)目当てに粂之助が殺した? 千駄木の植木屋・九兵衞と名乗る男の正体は? 三人の兄弟の不幸な境遇と再会を描いた、探偵小説としても楽しめる人情噺。 |
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