このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
佐左木俊郎 (ささき・としろう) 1900〜1933。 |
『駈落』 (青空文庫) |
掌編。貧しい農家の娘である菊枝は、明日の六社様のお祭りへ行くため、パラソルを買ってほしいと家族に頼むが、贅沢だと反対されてしまう。つくづく百姓生活が嫌になった菊枝は、恋人の豊作と東京へ駆け落ちする約束をするが…。現金すぎる乙女心が面白い。 |
『喫煙癖』 (青空文庫) |
掌編。たまたま馬車に乗り合わせた年輩の女性に、自分がベビースモーカーになってしまった思い出話をする年輩の男性。札幌の停車場に出来た売店の可愛い娘の顔を見たいがために、毎日煙草を買いに行った少年時代…。掌編小説のお手本のような作品。 |
『汽笛』 (青空文庫) |
掌編。「お父さんが私達の結婚を許して下さるといいと思うわ。そしたら、私、死んでもいいわ。私もうそれだけよ」。機関手をしている父親の許しを得られないまま、改札係の柴田貞吉と結婚した秋子。病気で死期が迫っている彼女は、父親に「官舎の前を通過する時には、和睦の汽笛を鳴らしてほしい」という手紙を出すが…。信号係の西村の粋な計らいと、その結果の寂寥を鮮やかに描いた秀作。 |
『恐怖城』 (青空文庫) |
長編。 森谷牧場の主人・森谷喜平に強い恨みを持つ下男(牧夫)・高岡正勝。喜平の娘・紀久子とその婚約者・松田敬二郎の仲を引き裂きたい正勝は、誤って正勝の妹・蔦代を殺してしまった紀久子の過失を揉み消すため、完全犯罪を実行する。 「紀久ちゃん! おれ、紀久ちゃんを本当に想っているんだから、紀久ちゃんを困らせるようなことは決して言わねえから、安心していろ。おれは敬二郎よりももっと紀久ちゃんを想っているのだから。子供の時分に、一緒に遊んでいたときのことを思うと、おれ紀久ちゃんを酷い目に遭わせるようなことは決して言えねえ。安心していろ」 紀久子の弱みを完全に握った正勝は、開墾地の人たちに取り入り、我が物顔で振る舞うようになるが…。 「敬二郎さん! わたしを許してね。わたし、正勝になんか決して心を許してないのよ。わたし、あの人が怖いだけなのだわ。逆らったら、あの人はどんなことをするか分からないから」 莫大な財産という欲が絡み合い、単なる恋人の取り合い以上の悲劇を生んでしまうストーリー展開は、まるで昼ドラを見ているようで、すっ飛んでいて楽しい。北海道を舞台とした通俗小説。 |
『熊の出る開墾地』 (青空文庫) |
短編。北海道の莫大な土地を開墾する移住開墾者たちだが、生活は困窮を極める。そんな彼らから小作料を取り立てようと企む無慈悲な地主・藤沢は、彼らの代表格である岡本吾亮を、熊と間違えたと称して、猟銃で射殺してしまう。父の仇を討ちたい吾亮の息子・雄吾は、馬車で移動する藤沢を付け狙うが…。「だからさ、馬車に乗っている者を撃っちゃ、熊だとは言われめえってことさ。いいか。そこをよく考えて見ねばならねえんだ」──。“目には目を、歯には歯を”的なやり方が面白い。通俗小説のノリで描かれる農民文学。 |
『栗の花の咲くころ』 (青空文庫) |
短編。零落した庄屋の一家。「畜生どもめ! 叩き切ってやる。先祖の面を汚しやがって」。落ちぶれても家柄にこだわり続ける父親の嘉三郎は、恋人の忠太郎と駆け落ちした娘・美津子からの手紙に激怒する。先祖代々の刀を持って家を飛び出す嘉三郎だが…。「美津ちゃんは、近頃、どこかへ行ってますか?」、「東京へ勉強にやりましたよ」と見栄を張ってしまう嘉三郎が滑稽だが人間らしい。 |
『錯覚の拷問室』 (青空文庫) |
短編。教室の窓にかけてあった男教師・吉川の服のポケットから女教師・鈴木が蟇口を盗るところを目撃してしまった女生徒・房枝。尊敬する鈴木を庇うあまり、犯人扱いされてしまった房枝は、自殺してしまう。その鈴木もまた、身の潔白と吉川の卑劣さを主張して、自殺してしまう…。「あの蟇口をとったのはわたしでもなく、もちろん房枝さんでもなく、それがだれだったかいまに分かるときがまいります」、「いったい、だれなんです! それは?」。小学校で起きた窃盗事件の意外な真相を描いた推理小説。二転三転する展開が面白い。 |
『三稜鏡』 (青空文庫) |
短編。首無し死体事件の意外なる真相は?──「外科医学の最大の理想は咽喉部の接合である。Aの首をBの胴体に接合することである」。この理想のために幾人もの人間を殺している外科医・笠松博士のことを怖れながら、博士の令嬢に恋情を抱く研究助手の青年・西谷だが…。「僕は本当に知っているのです。犯人は間違いなく笠松博士ですよ。そして被害者と云うのは博士の令嬢です」。不器用という劣等感と悲恋体験の追い討ち…。岡埜博士の極端かつ奇怪な療法を描いた怪奇ミステリー。どんでん返しぶりが実に鮮やか。 |
『接吻を盗む女の話』 (青空文庫) |
掌編。「接吻(キッス)をして頂戴よ。ねえ! 接吻をして頂戴よう」。出版会社に勤める鈴木三枝子は、求職中の夫が、三枝子の同僚・静枝と秘密の生活を築いているのではと疑念を抱くが…。「絶交?」、「もちろんよ──接吻泥棒!」。オチが楽しいプロレタリア文学。 |
『緑の芽』 (青空文庫) |
掌編。「百姓の子は、みっしり百姓のごとを習って、いいどこさ嫁に行けば、それでいいんだ」。教員試験の勉強をする貧農の娘・菊枝だが、祖父たちに反対されてしまう。百姓の妻として惨めな人生を送った亡妻のことを思う父・松三は…。父娘愛を描いた農民文学。 |
『指と指環』 (青空文庫) |
掌編。「一人として、素晴らしい指を持った女がいないなんて…」。綺麗で立派な指環に相応しい女の指を偏執的に探し回る男。その指環は死んだ恋人・彰子への贈物だったのだ。彰子の指を忘れられない男は、ついに彼女の手よりも美しい指を持った女性を見つけるが…。「あの指の上でなら、この指環は、きっと素晴らしい芸術的な雰囲気を描き出すに相違ない」。オチが面白いショートショート。 |
『猟奇の街』 (青空文庫) |
短編。工場の機械に巻き込まれ、夫を失った主人公の女性。口止め料を払って事件を隠蔽する工場の責任者。工場の社長・前田の人身御供にされてしまった彼女は、それ以降、至る所で夫の姿を見かけるようになる…。「今度は、この方を自分の夫だと思っているのだわ」、「男さえ見ると、だれでも自分の夫だと思うんだからな、始末が悪いや」。血も涙もない“資財の傀儡”を描いた社会派残酷物語。 |
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