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谷崎潤一郎 (たにざき・じゅんいちろう) 1886〜1965。


春琴抄  (青空文庫)
中編。幼少時に失明し、琴曲の師匠となった大阪の旧家の娘・春琴。美人だが、驕慢で、気位が高く、我がままな性格の春琴に忠実に仕えて、彼女に打たれることに喜びさえ感じながら、身の回りの世話をする奉公人・佐助。二人は夫婦同然の関係になりながらも、「佐助」、「お師匠様」と呼び合い、主従・師弟の関係を崩さない。不幸にも、春琴の身に第二の災難が降りかかった時、佐助は…。「嗚呼(ああ)此れが本当にお師匠様の住んでいらっしゃる世界なのだ。此れで漸(ようや)くお師匠様と同じ世界に住むことが出来た」──。著者が得意とするマゾヒズム的な要素を盛り込みながら、凄絶なる愛の世界を描く。余計な描写を排したシンプルな筆致が特長。

少年  (青空文庫)
短編。小学校の同級生・塙信一の家に遊びに行った私(栄ちゃん)。学校では卑屈で意気地なしの信一だが、家では姉の光子や餓鬼大将の仙吉をいじめていた。毎日色々な趣向を凝らしては乱暴な遊びに耽ける少年たち。光子に誘われ、夜の塙家の西洋館に忍び込んだ私だが…。「栄ちゃん、もう此れから信ちゃんの云う事なんぞ聴かないで、あたしの家来にならないか。いやだと云えば彼処にある人形のように、お前の体へ蛇を何匹でも巻き付かせるよ」。これぞ健全なる少年少女の姿だ! 最高に面白いSM官能ホラー。恍惚。

痴人の愛  (青空文庫)
長編。
浅草のカフェの女給だった、無邪気であどけない日本人離れした顔立ちの少女・ナオミに惚れた電気会社の技師である青年の私(河合譲治)。ナオミを教育し、立派な婦人に仕立てたいと考えた私は、彼女を引き取って、大森にある一軒家を借りて、一緒に住み始める。籍を入れて夫婦になった二人は、アトリエだった家で、ままごとのような自由気ままな生活を送る。
ナオミに英語や音楽を習わせる私だが、思惑に反して、彼女は傲慢で我が儘で己惚れの強い悪女に育ってしまう。ナオミが、男友達である慶応の学生・浜田や熊谷などと関係していると知った私は、ナオミを家から追い出すが、すぐに彼女が恋しくて堪らなくなってしまう…。

「これから何でも云うことを聴くか」
「うん、聴く」
「あたしが要るだけ、いくらでもお金を出すか」
「出す」
「あたしに好きな事をさせるか、一々干渉なんかしないか」
「しない」
「あたしのことを『ナオミ』なんて呼びつけにしないで、『ナオミさん』と呼ぶか」
「呼ぶ」
「きっとか」
「きっと」
「よし、じゃあ馬でなく、人間扱いにして上げる、可哀そうだから。──」

美少女の魔性的な魅力の前に完全服従するに至るM男の告白を描いて、未だ新鮮さを放つ最高傑作。

猫と庄造と二人のおんな  (新潮文庫)
長編。
「痛い! 何をするねん!」
「あんた、いつかてリリーに引っ掻かれて、生傷(なまきず)絶やしたことないのんに、わてが抓(つね)ったら痛いのんか。」
「痛! ええい、止めんかいな!」
「これぐらい何だんね、猫に掻かすぐらいやったら、わてかて体じゅう引っ掻いたるわ!」
「痛、痛、痛、………」

魚を口移しで与えたり…、おならを嗅ぎ合ったり…、愛猫のリリーをむやみに可愛がる夫・庄造に我慢がならなくなった妻・福子は、リリーを庄造の前妻である品子のところへ遣ってしまう。庄造に未練のある品子は、リリーを利用して庄造の家に戻ろうと目論むが…。

「君、まだあの猫のこと忘れられしまへんのんか。」
「何で忘れまっかいな。あれから此方(こっち)、品子の奴(やつ)がいじめてエへんやろか、あんじょう懐(なつ)いてるやろか思うたら、もうその事が心配でなあ、毎晩夢に見るぐらいだすねんけど、福子の前やったら、そんなことちょっとも云われしまへんよってに、尚のことここが辛(つろ)うて辛うて、………」

人間に対して感じたことのない情愛を、猫に対して感じてしまう可笑しさと哀しさ…。一匹の猫を巡って展開される男と女の愛憎をユーモラスに描いた快作。

(まんじ)』  (青空文庫)
長編。
我儘で奔放な性格の有閑マダム・柿内園子は、絵を習いに技芸学校に通うが、船場の問屋の娘・徳光光子と同性愛の噂になってしまう。

「まあ、あんた、綺麗な体しててんなあ」
「さあ、もう分ったやろ、うち着物きるわなあ」
「イヤやイヤや、もっと見せてほしいイッ」
「あほらしいもない、いつまではだかになってたかてしょうがないやないか」
「しょうがあるとも! あんた、まだ、ほんとのはだかになってえへんやないか。この白い物取ってしもたら、──」

この噂がきっかけとなり、すっかり仲良くなった二人は、噂が事実となり、交際するようになる。しかし、光子には、結婚の約束までした恋人・綿貫栄次郎がいた…。

高慢なる女王様の本性を持つ光子を巡る奇妙な三角関係は、遂には、園子の夫・孝太郎をも巻き込んだ四角関係の様相を呈し…。

綿貫の身体的秘密と着物盗難事件の真相…、光子の妊娠・堕胎騒動と狂言心中の顛末…。計略と邪推、嫉妬と崇拝の行き着く先は? 独特なリズムによる関西弁の独白形式が、何とも言えず味わいがあって面白い。変態小説の傑作。



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