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豊島与志雄 (とよしま・よしお) 1890〜1955。


擬体  (青空文庫)
短編。退社間際に、社長の石村に呼び出された証券会社の社員・青木。女子社員の巻子とのふしだらな関係を指摘された青木は、巻子は日共のスパイだから、逆スパイ行為をやってほしいと言われ、困惑してしまう…。「ところで、君はあの女を愛してるのかね。あの女はどうも、君の側の陣営の者で、僕の側の陣営の者ではなさそうだね」──。この社長、なかなかネチっこいキャラのようで…。酒飲みの火遊びのとんだ顛末を描いた悲喜劇。

好意  (青空文庫)
短編。四年前に貸した八百円という大金を、画家・河野が返しに来たことに腹を立てる病床の吉岡。容態が悪くなったから急いで返済に来たのだろうと誤解したのだ。吉岡の友人である私は、彼の心を和らげようと試みるが…。「死ぬ間際まで輝かしい生の希望を持ち続けられるとすれば、それはみな君のお影なんだ。僕は本当にお礼を云うよ」──。死期が迫り、神経が過敏になっている肺病の男が、看護婦の言葉で救われる感動作。

電車停留場  (青空文庫)
短編。電車停留場で起きた小事件に、成り行きで係わり合いになった人々の体裁と内心──。自分の職務に気乗りも屈託もない車掌・木原藤次…、酒癖の悪さから出世を逃した会社員・野口昌作…、正義観念が空回り気味の中学校柔道師範・高倉玄蔵…、家族にチブスの疑いがあり職務上焦慮している巡査・沼田英吉…、私情に絡んだ論告求刑をしてしまった上席検事・安藤竜太郎…、気のある彼女(佐伯三千子)の心をなかなか掴めない不良少年・矢野浩一…。「ねえ、僕のスイートになってくれない。仲よしでもいいや。本当に僕は一生懸命に想ってるんだよ。君のためなら何でもするよ。監獄にはいったって構やしない。しろと云えばすぐにするよ。ねえ、いいだろう」──。次から次へと登場人物が入れ替わっていく筋立てが違和感なく面白い。

白日夢  (青空文庫)
短編。不思議なほど同じ造りをした二軒長屋の一方に引っ越してきた会社員の私。自分の家と隣の家とを間違えて、中へ上がり込んでしまった私は、この一件をきっかけに、心の不安定さが表出してしまう…。「家に誰かはいって来てやしないかしら、妻が誰かの妻君と間違えられてやしないかしら、いやそう思ってるこの自分自身が、自分の家や自分の妻を見違えやしないかしら、自分自身を取違えやしないかしら…」。家を間違えるという滑稽な話から一転、狂気の世界に入り込んでいく主人公の姿を描いた純文学らしい(?)展開。

白血球  (青空文庫)
短編。築三年の一軒家に引っ越して来た晋作の一家だが、四畳半の女中部屋が陰気で薄気味が悪く、押入れの方から何だか嫌な気が漂ってくるようで変に不気味だった。この家は、どの人も入居するとじきに引っ越していってしまう、いわく付きの家だったのだ。「いやなに、本当の化物屋敷となればね、家賃がずっと下るからいいって訳さ」、「まあ何を仰言るのよ、人が本気で話してるのに…全くあの室は少し変ですよ」。そんな晋作の家に刑事の中井が訪ねてきて…。女中部屋の押入れの秘密を描いたホラー小説。

変な男  (青空文庫)
中編。半ば強引に部屋を借りに来た大学生の今井梯二に、二階の四畳半を貸すことにした下宿の女主人・辰代。変人で夢想家で野蛮人である今井は、学校にも行かず、部屋で思索にふけってばかりいて、訪ねて来る友人たちは、ろくでもない連中ばかりで、病気になっても、自分は医学を信じないからと、医者も呼ばない有り様。仕舞いには、辰代の娘・澄子に懸想したことから、堪り兼ねた辰代と修羅場を演じてしまう…。「私はあなたに対すると、ただの友達としてではなく、異性としての感情に支配されてきます。そして、いつもあなたのことばかり考えているんです」、「だって私…」──。何ともタチの悪いやっちゃなぁ〜。甲斐性なしのエゴ野郎だね、どうも…。

程よい人  (青空文庫)
短編。何事においても中道を歩き、“程好い”人間として、“程好い”生き方をしてきた主人公の私。会社の同僚たちから借りたお金を、金貸し業をしている知人・黒川に投資して、“程好い”利子を受け取っている私は、女事務員の京子とも“程好い”関係を続けてきたのだが…。「あなたは仮面をかぶっていらした。その仮面を脱いで下さい」──。もうちょっと続きがあってもいいかなあと思わないでもないけど、終わり方も“程好い”感じで…(笑)。

窓にさす影  (青空文庫)
短編。自分を可愛がってくれた祖母の死期が近づく中、室の窓硝子に現われる何物とも知れぬ影に悩まされる女学生の美佐子…。「のっぺらぽうのことなんか忘れてしまったら、そしたら、わたしが亡くなったあと、あの窓の硝子に、わたしのにこにこしてる顔を映してみせるよ」──。祖母の死を経験した女学生の心の成長を描いた秀作。

未来の天才  (青空文庫)
短編。人間はこんなに幸福であってもいいのだろうか!──。伯父から十円紙幣五十枚が送られてきて、喜びに躍り立つ貧乏な若い画家・木川。近所に住む山口静子に恋を告白し、受け入れられた私(木川)は、幸福の勢いで、静子とその父親・正徳に指輪と反物をプレゼントするのだが…。静子の肖像画を描くことを正徳は果たして許してくれるのだろうか? 「静子はあなたを未来の天才だと云っていましたが、その自信を持っていられるのですか」──。どんでん返し(?)なラストが笑える。世の中は楽しいのだ!



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