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牧野信一 (まきの・しんいち) 1896〜1936。


明るく・暗く  (青空文庫)
短編。落第や失恋などを経験し、すっかり気持ちが塞いでいる臆病な青年・純吉。みんなのマドンナである百合子の話題で明るくなる彼だが、彼女の前でローラー・スケートがうまく滑れず、途方もなく気が滅入る始末。「やっぱり俺は独りに限る。もう今日からは、何と云っても出かけないぞ。…あの苦しみは地獄の有様だ!」──。掌編小説「ランプの明滅」が“作中作”として挿入されている。そうか、あれは純吉が書いたものだったのね(笑)。

鸚鵡のいる部屋  (青空文庫)
掌編。横浜のアメリカ人の家に寄宿している大学生の彼。その家の一人娘・フロラが飼っている鸚鵡(おうむ)・グリップは、「お早う」や「今日は」など簡単な言葉すら覚えず、いつも黙ったままであったのだが…。「グリップが今朝あたしの枕もとで、突然一つの言葉を発したのよ!」、「それは、たしかに一事件に違いないな!」。“決して言葉を覚えない鸚鵡”を飼うことの素晴らしい効用を描いた好編。

愚かな朝の話  (青空文庫)
掌編。「お午から芝居に行くの。一緒に伴れてってやろうか」──。或る日曜の朝、従姉の照子に誘われた彼だが、素直に行くと言えず…。照子の前で大人ぶって、遊里に恋人がいるかのように言う青年の態度が子供じみていて楽しい。「照子が芝居に行っている間の時間をどうして過ごそうか」。完全に照子に執着している様が笑える。

女に臆病な男  (青空文庫)
短編。女性(レディ)に出会うと徹底的に狼狽するという病い──ガール・シャイ──。快活で明るい性格の男になりたいと思っている独身アパートに住む中学教師・村瀬。「先生をお訪ねしても関わない?」、「え!」。美人テニス選手・冬子に好意を持たれた村瀬だが…。「村瀬さんがはじめて恋人を抱擁する有様は定めし戦慄すべき絶景だろうな」。謹厳という名の童貞男に訪れた奇跡! 大どんでん返しのラストが楽しい恋愛コメディー。最高!

階段  (青空文庫)
掌編。熱心にファンレターを送ってくる若い女性・美奈子に惚れた青年画家・久保。電車でピアノ教室に通う彼女を密かに尾行する彼は、思い切って彼女に声を掛けるが…。「それにしても、好く、あの画の人物が自分に似ているなどということを彼女は気づいたものだ」──。芸術家に対する感激か、作品に対する感激か、それが問題だ。

鵞鳥の家  (青空文庫)
掌編。楽しみだったスキー旅行を親に反対され、田舎の叔父のところへ行かされてしまった満里子。「起床せんか、満里子、五時だぞ!」。退役軍人である叔父が飼っている五十羽の鵞鳥(がちょう)の世話や、水汲みなど、軍隊式の生活にいつの間にか充実感を覚えていく…。「おい満里子、何うしたんじゃ、これしきの失敗で泣き出すなんて、鵞鳥隊の大隊長らしくもないぞ!」。満里子の成長を、兄の友人・武田への想いも絡めて、ユーモラスに描く。

奇友往来  (青空文庫)
短編。「何処の下宿へ越しても苦情が出るんだよ」──。鼾(いびき)が原因で、しょっちゅう引っ越しを繰り返している苦学生・小鐘登と仲良くなった大学生の私。「恰度好かったな。直ぐに引っ越すぞ。是非手伝って呉れ」。そんな放浪癖のある小鐘のことを好きになった従妹の輝子だが…。大きな鼾で他人に迷惑かけてる人に朗報!?

公園へ行く道  (青空文庫)
短編。試験勉強のため伯母の家で生活している主人公の青年(純ちゃん)。「遊び」に行く目的で外出した彼だが、足は自然と気のある照子のところへ。食事に行き、芝居を見に行く二人だが、酔っ払った純ちゃんが「大失策」を演じてしまい、照子はすっかり機嫌を悪くしてしまう…。「もう帰って勉強でもした方が好くはなくって。また落っこったりしちゃ厭よ」──。別に取り留めのない作品だが、主人公と照子のやり取りがいつもながら楽しい。

 (青空文庫)
短編。「歌はあれより他に知らないんだ。踊りもそれより他に知らないんだ。それがみっともないとされては、一体俺は如何すればいいんだ」、「煩い煩い、酔っぱらい。だから立派なことをお習いなさい」。夜中に泥酔して大声で歌うことを、妻・周子に禁じられてしまった“文学青年”の滝野清一。母親に送ってもらった新調の羽織袴を着て、中学の同窓会に出席するが…。都の西北、トンボ踊り、兵隊ラッパ…。夫婦の会話がユーモラスで楽しい。

滝のある村  (青空文庫)
掌編。「僕はね、親父たちが何といったって、キエ、お前と、結婚するよ…」。奉公先の息子・三千雄のことを好いてはいるが、男に何の期待も持たず、どうなろうと、それはそれと、はじめから一つのあきらめを持っている主人公の女性・キエ。暇をとって里に戻ったキエのもとを、家出してきた三千雄が訪ねて来るが…。「…滝、観て行きたいわ」──。“物語にでもあるような悲劇めいたことを、何のおそるる心もなく、何となしに待っているような思いを抱いて”生きていくことのススメ。立派な人生訓。

痴日  (青空文庫)
短編。保養のため海岸の別荘に移った作家・隠岐。気の強い妻と魅惑的な妻の従妹・弥生と暮らす彼は、妻から弥生に対する同性愛的感情を告白され、弥生からは日光浴に誘われ…。「あの子の、体の綺麗さ加減と云ったら、それあもう、何とも彼とも、云いようもない、ふるいつかずには居られないほどの…」。萌え系(?)小説。

塚越の話  (青空文庫)
掌編。一日も早く恋人を見つけた者は、それだけ人生の幸福を余分に吸いとった生活の勝利者である──。どうしても恋人が欲しいと思っている中学生の塚越だが、妄想が仇となり、退学になってしまう…。「一切のことが、あの仕事に没頭することだけで満足できるのさ」。自分の妄想をある意味“実現”できちゃう映画監督のススメ。

 (青空文庫)
掌編。「妾兄さんがどんな挙動をしたって、幾日寝ていようが平気よ。一体兄さんは横着で怠け者なのよ」。お転婆な従妹・道子の冷笑の前に、いつも秒殺されてしまう主人公の男。「頭が割れそうだ」。狂人になるかも知れないと嘘をつき、道子に不安を与えてやろうと考えた彼だが…。女性に翻弄されまくる一連の牧野作品が楽しい。

 (青空文庫)
掌編。とっくに結婚してしまったみつ子のことをまだ想っている様子ありありの大学生・純吉。夏の休暇で帰省中の彼は、海辺で快活な友人たちと他愛なく戯れ、朗らかな気持ちになるが…。「只今帯に手が懸り、着物に…」「待ってましたア」──。男子、砂浜に顔埋めし時、女子、要注意(笑)。卑屈な見栄坊キャラ・純ちゃんシリーズ。

陽に酔った風景  (青空文庫)
掌編。今日から鎮守様のお祭だから遊びに来ませんか?──恋人の鶴子がY村に帰っていると知り、喜び勇んで会いに行く主人公の青年。「神殿に出る舞姫になるんだったね」、「見違えては厭よ、よく見物してね」、「どれ、見違えるといけないから今のうちによくこの顔を見て置こう」──。すぐ脱線しちゃう軽便鉄道の様子が微笑ましい。

風媒結婚  (青空文庫)
掌編。望遠鏡製作所に勤める主人公の青年。半年もの間、洋館に住むA子の部屋を覗き見し続けている彼は、彼女とお近づきになるが、「僕には、あのA子の部屋のみが、輝ける空中楼閣であって、「地上」で見出すA子の姿などには、何んな魅力も感じていない自分」を知る…。孤独を愛する青年の「奇怪な生甲斐」を描く楽しい作品。

まぼろし  (青空文庫)
短編。美しいマメイド(人魚)である満里百合子のことで頭が一杯の若者五人組。「ぢゃ、やはり百合さんの好きな男は吾々のうちに存在するんだね?」、「おそらくそれに違いないわ。近いうちに発表するわ」。百合子の手紙が届いた音田は、有頂天で彼女の家へ行くが…。百合子の処女性を守ろうと彼らが結成した「満里百合子恋愛防止クラブ」が笑える。海とバカな仲間たちとマメイドの存在と童貞という名の情熱は青春の必須アイテムだ。

夜の奇蹟  (青空文庫)
短編。蔵の二階に仕舞われた生き人形と密かに戯れる兄の友人・滝尾の姿を目撃してしまった雪江。「おお会いたかった──夜になるのが待ち切れずに、そっと忍んで来てしまった。やがて誰かがやって来ぬうちに、暫しの逢瀬を貪りたい」。人形を愛してしまった青年と、そんな青年をいつしか好きになってしまった女性の悲喜劇。

ランプの明滅  (青空文庫)
掌編。「妾、秀才程美しい感じのするものはないと思うわ。妾は秀才という文字だけにでも、妾の生命の全部を捧げて、涙をこぼして恋するわ」。照子が讃美する秀才になるため、試験勉強する青年だが、見事に落第し、失恋する…。「やっぱり俺は嘘をついているのかな」。一生泣いてろ!とツッコミを入れたくなる、そんな愉快な作品。 →牧野信一「明るく・暗く」

蘭丸の絵  (青空文庫)
掌編。子供たちが手や足などに貼り付けて遊ぶ写絵。同級生の浜田が持っている森蘭丸の美しい写絵が欲しくて堪らなくなった小学生の僕。「若し君が僕達の仲間に入れば、売ってるところは教えないけれど、蘭丸はやってもいいよ」。癪に障って堪らなかった友人が急に偉い人のようにさえ思えてくる少年の心理描写が鮮やか。



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