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吉川英治 (よしかわ・えいじ) 1892〜1962。


 (青空文庫)
短編。百姓一揆の企てを断念した信州・松代藩の青年・彦太は、自分も生き、人も生かすには、侍(さむらい)になるしかないと意気込み、家産を整理して江戸へ出て来てしまう。弁当仕出し屋をしている伯父・政右衛門の店を手伝う中で、彦太は、不況の中に享楽が混在している江戸の堕落を目の当たりにする。遂に御家人の株の取得の機会を得た彦太だが…。「まちがいはない、この人間達の脚を、一度、焼ッ原から、出直させるこった」──。自分の進むべき道に苦悩する主人公の姿を通して、幕末の世相を浮き彫りにした秀作。

大谷刑部  (青空文庫)
短編。必ずしも人間、英雄でなければならない事はない。成算に立ち、大局に動くことばかりが、武士でもない──。徳川家康による会津の上杉景勝を征伐する軍勢に加わる越前敦賀城主・大谷刑部だが、途中、友人の石田三成と会談し、三成が家康と戦う決意であることを知る。業病である刑部に対して、差別なく接する三成の友情に報いるため、負け戦(いくさ)だと知りながら、刑部は、関ヶ原の戦で東軍・家康と戦う…。「三成! くれてやるぞ! おれの生命(いのち)は」。男同士の究極の友情が素敵に格好いい。男のロマンだね。

御鷹  (青空文庫)
短編。将軍家の鷹(たか)をあずかる中里御鳥組の組頭・阿部白翁の娘・お悦は、組下の黄瀬川家の息子・弁馬につきまとわれて困っていた。剣術のできる弁馬が、愛する婚約者の小柴角三郎に果し状をつきつけたと知ったお悦は、急いで現場に駆けつけるが、既に決着はついていた。卑怯にも助太刀をたのんだ角三郎が、弁馬を騙まし討ちにしたのだ。そんな最中、不注意から将軍家の鷹が逃げ出してしまい…。「──おれが、どれ程、こんな女一人に惚れ込んでいるかと思っていやがる。──最も、弁馬の容貌では、女から惚れられた覚えなどは、生れてから一度もないだろうからな」──。凄まじすぎる破滅の急展開にビックリ仰天。男の本性のあさましさたるや。

 (青空文庫)
短編。同僚を斬って逐電(ちくでん)した藩士・福原主水(もんど)を、討手として取り逃がしてしまって以来、長年笑い者にされてきた津軽藩の足軽頭・棟方(むなかた)与右衛門。藩の財政が困窮を極める中、無謀ともいえる治水・開墾(かいこん)の大事業を買って出た与右衛門は、百姓たちの不平や非難にさらされ、迫害を受けながらも、冷酷・無情なまでに事業を遂行していくが…。「鬼になれ。——鬼になってやらねば出来ない!」。リーダーとはどうあるべきなのか(リーダーとしての覚悟)といったものを考えさせられる作品だ。

篝火(かがりび)の女  (青空文庫)
短編。婚約相手である上杉謙信の家臣・安中三郎進に会うため、小田原を出る決心をした北条氏政の家臣・東郷五郎左衛門の娘・八雲。しかし、八雲にフラれた恨みを持つ北条家の家臣・相木熊楠に勘づかれ、捕手に追われる身となり、遂には相木に捕まってしまう。相木は安中が立て籠もる松井田城に攻め入るが…。八雲に忠義を尽くす侍女・萩乃の活躍…、謎の外郎(ういろう)売りの意外な正体…。「そうだ、女は女の道に、侍は侍に成りきることだ」。戦乱の中の恋を描いた大ドンデン返しもの。スリリングな展開が面白い。

魚紋  (青空文庫)
短編。大名のお部屋様だったという経歴を持つ碁会所の女主人・お可久と、彼女目当てに通う常連客(質屋の番頭・才助、浮世絵師・春作、医者・玄庵、御家人・伝九郎、遊び人・芳五郎)。お縄になった和尚の鉄雲が、七百両を河に沈めて隠していると知った彼らは、策略をめぐらし、殺し合いを演じるが…。「ああ、わしのような気怯れ者は、何をしたって、生きて行く力が足りない。体は弱いし、絵は上手くならないし…。悩むために生きているようなものだ」。自信も勇気も悪智もないと嘆く気の弱い春作の姿に何かしら親近感を覚える。

銀河まつり  (青空文庫)
短編。信州と三河で煙火(花火)試合が行われることになり、意気込む信州・戸狩(とがり)村の煙火師たち。郷士・教来石(きょうらいし)兵助の娘・お芳を巡って恋の競争を繰り広げる煙火師・七之助と、松代(まつしろ)藩の次席家老の息子・蜂屋慎吾は、成り行きで花火による果たし合いをすることになり…。「あははは。あははは。笑っちゃすまねえが、笑わずにゃいられねえ。捕手のやつあ、驚いたろうな。——だが今夜あ、すばらしい銀河まつりだぜ」。花火対決の意外な展開が凄まじくて面白い。やっぱり花火は生き物で、妖怪さ。

雲霧閻魔帳  (青空文庫)
短編。捕縛され、牢屋に入れられた義賊・雲霧仁左衛門。獄門となる日が迫り来る中、幸運にも偽物の雲霧だと間違われ、一転して無罪放免となる。自由の身となった雲霧だが、吟味与力・高梨小藤次に執拗に追跡されてしまう…。「何で泣く。わけをいえ、何で泣いておるのじゃ」、「私にも——分りませぬ——お父様、聞かして下さい。どうして、私には、二人の父があるのでしょうか」。もとは絵師・応挙の内弟子・仁太郎であった雲霧仁左衛門の数奇な人生と、高梨小藤次との深い宿縁を描いて面白い。恩讐を超越したラストに感涙!

下頭橋由来  (青空文庫)
掌編。弟妹の敵(かたき)である若党の佐太郎(お菰の岩公)を、十年あまりも探し回った末に、遂に見つけた武士・岡本半助。石神井川の河原に住みついてから、街道の旅人に毎日、必死に頭を下げている岩公の姿を見てきた村人たちは、旧家の漬物蔵へ隠れ込んだ岩公の味方をする。川に落とした大事な釵(かんざし)を岩公に拾ってもらったことのある旧家の娘・お次は、何とかして岩公を助けてやろうとするが…。「岩公が殺された。岩公が——」。東京都板橋区に実在する「下頭橋(げとうばし)」に行ってみたくなること必至。

醤油仏  (青空文庫)
短編。江戸で日雇いの仕事をしている左次郎だが、実は彼は鳥取藩の武士であった。六年前に藩の重役から大金を預かったまま行方をくらませた養母のお咲と仲間の一平を探している左次郎は、醤油の大飲みで大金を稼いでいる醤油賭の伝公に、親切にしてもらうようになるが…。「父が弱かったせいか、私も御覧の通りな虚弱でして」、「おいおい左次さん、七十石の小禄でも、侍の息子じゃねえか。しっかりおしよしっかり」──。伝公が大量の醤油を飲んでも死なずに済んでいた芸当(理由)と、左次郎の引込思案ぶりが面白い。

治郎吉格子  (青空文庫)
短編。江戸を食い詰めて、上方に落ちてきた大泥棒の鼠小僧治郎吉。病父を抱えて、床屋廻りの元結売りをしている貧乏な娘・お喜乃と出会った治郎吉は、自分が働いた仕事のせいで、お喜乃が不幸な境遇になってしまった経緯を知り、責任を感じる。悪党である床屋の仁吉が、お喜乃を無理矢理、与力の重松左次兵衛の妾(めかけ)にさせようとしていると知った治郎吉は…。「おれも、もう少しゃ、生きているぜ。そうよ、俺の稼ぎは、金じゃねえ、自分の寿命を稼ぐようなもんだ」──。武家屋敷ばかり狙い、貧民に金をばら撒く義賊・鼠小僧治郎吉の活躍を描いた痛快作。出でよ、次代の鼠小僧! →芥川龍之介「鼠小僧次郎吉」 →国枝史郎「善悪両面鼠小僧」

死んだ千鳥  (青空文庫)
短編。京都で行われる矢の競技で活躍すれば、仕官する途(みち)も開かれると知った浪人・平田賛五郎だが、上洛するための金が工面できず、断念せざるを得なかった。賛五郎のために何とかしたい妻・墨江は、夫の浪人仲間である伏原半蔵に頼み込むが…。墨江のかつての婚約者で、墨江を賛五郎に取られた大牟田公平(きんぺい)は、果たしていい者なのか悪者なのか? 「おれと墨江とは、恋に遊ぶ事だけ知って、世間に生きてゆく道は何も知らなかった」──。世間知らずが招いた代償にしては、あまりに大きすぎる…。悲劇。

増長天王  (青空文庫)
短編。「おれの山から作りだす色鍋島は、煩悩もあり血も通っている、人間相手の陶器を焼くんだ!」。傲慢な性格から「増長天王」と綽名されている鍋島焼の名陶工・久米一。肥前鍋島家の依頼で一生一品の色鍋島を製作するが、娘・棗(なつめ)の恋人で陶器絵描きの兆二郎に色鍋島の秘法を洩らした罪で、磔(はりつけ)の刑になってしまう…。「おれのわざはこんな山の中に封じられて終るような小さなものではない。偉大なものは世の中へ溢れ出ずにはいない」。久米一を怨み、密告する窯焚きの百助の悪キャラぶりがなかなか。

夏虫行燈(なつむしあんどん)』  (青空文庫)
短編。甲府城の番士・高安平四郎は、図書係り・海野甚三郎が大事な歌仙本が紛失した責任を取って切腹することになったと知る。兵学教頭・萩井十太夫の娘・お小夜の婚約者である甚三郎は、平四郎にとって恋敵(こいがたき)であった。自分に反(そむ)いて甚三郎と婚約したお小夜を恨む平四郎は、甚三郎の介錯人(かいしゃくにん)を引き受けるが…。「お小夜どの。其女(そなた)のような、あどけなくて、美しい処女(おとめ)は、ちょうど、夏の夜の虫を焼く絵行燈のようなもの──燈(ひ)に罪はないが、焼かれる虫にも無理はないのだ」。男を勘違いさせる女の無意識の戯(たわむ)れ! 歌仙本を盗んだ真犯人を突き止めていく平四郎の姿が哀れだが格好いい。

鍋島甲斐守  (青空文庫)
短編。「御尤もでございます」が口癖の無慈悲な高利貸し・彦兵衛と、日本橋の漆問屋「半田屋」による借金取り立ての訴訟で、江戸町奉行・鍋島甲斐守(かいのかみ)は和解案を提示するが、「私が承知いたしても、証文が承知いたしませぬから」と彦兵衛が拒否し、半田屋の家屋は彦兵衛のものとなってしまう。浪人・民谷銀左衛門の借金の督促をする彦兵衛だが、養女・お高と銀左衛門の息子・新兵衛が駆け落ちしてしまったと知り…。「…なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」。信仰の是非についてユーモラスに描いたお白州もの。

野槌の百  (青空文庫)
短編。「八寒道中」の続編。敵(かたき)である若侍・村上賛之丞の情婦(おんな)・お稲を、力ずくで自分のものにした浪人・安成(やすなり)三五兵衛だが、お稲と生まれた嬰児(あかご)に手を焼き、見捨ててしまう。八王子の馬市で競りに出されてしまったお稲を見初めた鍛冶屋の百(百之介)は、百両の借金をしてまでお稲を落札し、一緒に暮らし始めるが…。「でもね、たった一つ、もう一つ、私……頼みが」、「どんなこと」、「もう百両ほど、江戸の家へ送ってやれば、それで私は、死ぬまで、ここにいられるのだけれど、何とか、できる?」──。百之介が師匠・山浦清麿に破門された過去の真相が判明する展開がすこぶる劇的で面白い。凄絶・感涙のラストシーン!

旗岡巡査  (青空文庫)
短編。桜田門外で大老・井伊直弼を暗殺した水戸浪士の一人・海後磋磯之介(かいご・さきのすけ)。幕府の捕吏に追われる中、船頭・権十の娘・お松に助けられたり、磋磯之介の兄・粂之介に匿われたりして、生き延びる。明治の世となり、旗岡剛蔵と変名して、警視庁の巡査になった磋磯之介は、出張で横浜へ行くが…。「持っていたか。今日までも」、「きっとこういう所で会う約束事に極まっていたのかも知れませんね」──。江戸から明治へと移り変わる時代を背景に、水戸浪士の生き残りである主人公の心情を描く。劇的なラスト!

八寒道中  (青空文庫)
短編。若侍・村上賛之丞に妹を殺された紀州の武士・安成(やすなり)三五兵衛は、もう何年も敵討ちの旅を続けていた。討とうと思えばいつでも討てるのに、わざと賛之丞を生かしたままにしている三五兵衛。それは、三五兵衛がいかに執念深くて、恐ろしい人間であるかを賛之丞に思い知らせるためであった。甲府の博奕打ち・仁介の家に滞在している賛之丞が、返り討ちを企んでいると知った三五兵衛は…。「まだ、まだ。こんなことではおれの復讐心は満足しない。討たないぞ、討たないぞ。おのれ賛之丞、討ってくれと泣いて頼んで来てもまだ討たぬぞ」──。冷徹な性格ゆえに情炎な女を好むなど三五兵衛の特異なキャラ設定が面白い。 → 吉川英治「野槌の百」

鼻かみ浪人  (青空文庫)
短編。浪人くさい粗暴な性格がもとで、国許から江戸詰めに転役になった赤穂藩士・不破数右衛門。同藩の武士・小山田庄左衛門の妹・お千賀を好きになった彼だが、お金に目がくらんだ庄左衛門は、お千賀を旗本の織田家へ嫁がせてしまう。庄左衛門と悶着となった数右衛門は、藩主・浅野内匠守(たくみのかみ)の裁量で、四国・松山行きを命じられるが…。「数右衛門、何をしているのじゃ、何を」、「うむ…。無いのだ」、「何が?」、「殿の御書面が」、「えっ」──。赤穂浪士四十七士の一人である不破数右衛門の“ぶとい浪人骨”エピソードを面白おかしく描いた喜劇。お千賀の気持ちが最後まで分からないままで終わってしまったのはちょっと残念なところ。

春の雁  (青空文庫)
短編。上方や江戸の花客(とくい)を廻って、反物や装身具や支那画などの骨董を売っている長崎の旅商人・清吉。何やら訳ありだという江戸・深川の妓(おんな)・秀八に惚れた彼は、費(つか)い途(みち)も聞かずに、百五十両という大金を彼女に出してやるのだが…。「あの女の心意気に——ええ、百五十両くれてやりました」、「心意気に?」。辰巳芸者の粋(いき)、人情の機微を描いて鮮やか。

べんがら炬燵(こたつ)』  (青空文庫)
短編。討ち入りを果たした赤穂(あこう)浪士たち。細川家お預かりとなった大石内蔵助(くらのすけ)ら十七人の接伴役となった細川家の家士・堀内伝右衛門は、年の若い美貌の義士・磯貝十左衛門の剛気さに感服する。娘・お麗の婿候補である戸田修蔵の遊蕩に手を焼いている伝右衛門は、十左衛門と修蔵を引き比べて、遂には修蔵を家から追い出してしまうのだが…。「あの衆に、花を見せる日が来たか…」。伝右衛門と義士たちとの心温まる交流と、家庭内のゴタゴタとを絡ませる展開が実に巧い。忠臣蔵ものの好編。感動!

無宿人国記  (青空文庫)
短編。米沢藩・上杉家の国家老・千坂兵部に見込まれ、吉良上野介を警護することになった、女たらしの凶状持ちである浪人・清水一角。千坂の密策で、米沢藩士・木村丈八郎を仲間に引き入れようとするも、失敗に終わる。一角が姉・お里を殺した仇だと知った丈八郎は、一角を斬るため江戸へ出奔するが…。一角に溺れるお里の妹・お八重の運命! 丈八郎を手助けする謎の老人・銀六の正体! 私怨を超越した不思議なる連帯感! 修羅場と化した討ち入りの場面! 「来たっ。は、は、は、は。丈八郎、俺は、なんだか、嬉しくってたまらない。とうとう来た——俺の、俺の待ちかねた日だ。ぬかるなッ」。生きるに持て余した男の最期を描いて出色の忠臣蔵もの。
→林不忘「口笛を吹く武士」

柳生月影抄  (青空文庫)
短編。幕府の大目付で、剣道師範役でもある柳生宗矩(むねのり)に恨みがあるという浪人・磯部大機(だいき)を、木刀で一刀のもとに打ち殺した柳生家の長男・十兵衛。大機の墓に参る若い美女・お由利を、柳生家の小間使として働かせるが…。将軍・家光の寵愛を受け、小姓組に上がっている次男・友矩(とものり)…、湯女(ゆな)のお駒に溺れている三男・又十郎…、お由利に恋する純情な四男・右門…。「由利、どこで…どこで死ぬのか」、「おやしきの追手が、気がかりでございます。もし捕まったら、あなた様もわたくしも…」、「恥だ。生きているよりも——」。柳生家の四人の兄弟の姿を描いた歴史時代小説。十兵衛が隻眼になった幼少期のエピソードが凄い!

夕顔の門  (青空文庫)
短編。中津藩の鷹匠・曾我部兵庫と結婚したお市だが、六年前に駆け落ちに失敗して別れた恋人・深見格之進のことが忘れられず、不幸な日々を送っていた。ある日、手傷を負った若い浪人を匿ってやった兵庫だが、何とその男は格之進であった…。「…兵庫どの。娘はやはり武士の娘に違いはなかったのじゃ。わしが悪かったかも知れぬ。いや悪かった、悪かった。…ゆるして下され」。何もかも承知でお市と結婚した兵庫の立派さに対して、格之進はそれほどの人物であったかという疑問は残るが、恋とはそういうものなのであろう。



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