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夢野久作 (ゆめの・きゅうさく) 1889〜1936。


あやかしの鼓  (青空文庫)
中編。「あの鼓(つづみ)の音をきいて妙な気持もちにならないものはない。狂人(きちがい)になるか変人になるかどっちかだ」──。子爵・鶴原家に祟り、人を呪う不吉な「あやかしの鼓」の伝説を知った青年・音丸久弥(きゅうや)。鼓の家元・高林家の後嗣(あとつぎ)に決まった久弥は、鶴原家の未亡人・ツル子が隠し持つ「あやかしの鼓」を見たくてたまらなくなるが…。若先生・高林靖二郎の失踪の謎と、ツル子と同居している甥・妻木敏郎の意外な正体…。百年前の先祖が作った罪の報いの恐ろしさ…。
「ホホホホホホホホホ。とうとうあなたは引っかかったのね。オホホホホ…ほんとに可愛い坊ちゃん。あたしすっかり惚れちゃったのよ。オホホホホ」──。「変態性欲」や「輪廻転生」といった題材は、大作「ドグラ・マグラ」でも描かれた共通テーマ。良くまとまった秀作。

S岬西洋婦人絞殺事件  (青空文庫)
短編。西洋人・ロスコーの妻・マリイがS岬の突端にある自宅で絞殺され、妻の死にショックを受けたロスコーも自殺してしまう。「その仮想の根拠と仰言るのは…」、「東作が晦日(みそか)の夜に見た満月です」。事件当夜は曇りだったにもかかわらず、月を見たと陳述するロスコー家の雇人・東作…。刺青(いれずみ)を研究し、自身も刺青をしていたロスコー夫妻の意外な秘密が読みどころ。法医学教授・犬田博士の活躍を描いた探偵小説。

押絵の奇蹟  (青空文庫)
中編。
ピアノ教師・井の口トシ子と歌舞伎役者・中村半次郎との間にまつわっている不思議な運命の秘密とは?──

「私は一生のうちに一度はキット、あなた様からの結婚のお申込みを受けますことを、ずっと前から覚悟致しておりましたので御座います。そうして、それと一緒に、その貴方様からのお申込みばかりは、たとい自分の心がどんなで御座いましょうともお受けしてはならぬ……と申しますような世にも悲しい、恐ろしい運命を持っておりますことをも、身に泌みてよく存じておりましたので御座います」。

押絵人形を作る名人であったトシ子の母は、博多の櫛田神社に二枚の押絵を奉納し、大変な評判となる。しかし、押絵の顔が名優・中村半太夫(半次郎の父)に似ていること、半太夫とトシ子の目鼻立ちが瓜二つであることを知ったトシ子の父は怒りを爆発させて…。

「……キ……貴様は……ナ……中村半太夫と不義をした覚えがあろう。……キ……貴様は、よくもよくもこの永い間俺に恥をかかせおったナ」
「不義を致しましたおぼえは毛頭御座いませぬが……この上のお宮仕えはいたしかねます」

悲劇の間際にトシ子の母が言い残した謎の言葉と、二枚の押絵に籠(こ)もっている神秘の力! トシ子は果たして「不義者の子」なのか? それとも…。

男と女とが、お互いに思い合っただけの「世にも上なく清浄」なる恋と、その切ない形見を描いた究極の恋愛小説。女主人公による独白体小説の傑作。 →泉鏡花「外科室」 →江戸川乱歩「押絵と旅する男」

オンチ  (青空文庫)
短編。白昼の製鉄所構内で起きた殺人事件。俸給係の西村が殺され、十二万円の大金が盗まれたのだ。同僚の三好が実は共産主義者で、活動資金のため、犯人が盗んだ金を狙っていると睨んだ職工・戸塚は、製鉄所きっての怪力の持ち主・又野末吉(オンチ)の協力を得て、犯人と対決するが…。「…ガガアーッガガアーッ…助けて助けてッ…」。溶鉱炉での格闘シーンや、意表を突くストーリー展開に興奮。一級のスリル&サスペンス。

キチガイ地獄  (青空文庫)
短編。北海道の炭坑王・谷山家の令嬢・龍代と結婚し、後継者となった記憶喪失の青年・秀麿。谷山家を地獄のドン底に落とそうと企む新聞記者Aは、秀麿の過去(暗殺、脱獄、潜伏)を探索するのだが…。「……タ……大変だ……谷山家の重大秘密だ……二重結婚だ……脱獄囚の妻だ……天女の姿をした猛獣だ……」。半野生化した裸体女の恐怖(襲撃)! 精神病患者・谷山秀麿が告白する奇怪極まる身の上話の結末は? まさに大どんでん返しのキチガイ地獄! 「俺は一体、誰の経歴を思い出したんだろう」──。百点満点のスバラシイ完全作。

斬られたさに  (青空文庫)
短編。悪人どもに絡まれていた妖艶な若侍を助けてやった黒田藩の石月(いわつき)平馬。仇討の旅の途中だという若侍と別れた平馬だが、行く先々の宿屋で思いがけず厚いもてなしを受ける。「それで…それで…妾(わたくし)は…貴方様のお手に掛かりに…まいりました」。若侍の仇討の相手は平馬の剣術の師匠・浅川一柳斎だった…。妖艶な若侍の意外な正体と、仇討の真相(カラクリ)は? 「そもじのお蔭で平馬はようように真実(まこと)の武士道がわかった…人間世界がわかったわい」──。器量試しが悲しい結末を生む変形「仇討もの」時代小説。

近眼芸妓と迷宮事件  (青空文庫)
短編。材木屋の主人・金兵衛が殺された事件は、迷宮入りに。一年後、金兵衛の妾だった芸妓・愛子がもたらした手紙によって犯人が判明するが…。「そうかそうか。そのお客だけがタッタ一人好いたらしい人だった事を、あの時は思い出さなかったんだね」。近眼女性のじっと見つめる眼付きを勘違いした男の自惚れと、純粋で内気ゆえに生れて初めての恋に気づかずにいた女の悲しみ…。シンミリ。

空を飛ぶパラソル  (青空文庫)
短編。二本立て。若い女の轢死事件を目撃した記者の私は、特ダネをものにするが…。「可哀相に君のお蔭で親に見棄てられた上に、恋人にまで見離された無名の骨が一つ出来たわけだ」。<濡れた鯉のぼり>死んだ妻と胎児の墓に鯉のぼりを立てて、行方をくらませた男の事件を記事にする私だが…。新聞記者の悲哀を描く。

けむりを吐かぬ煙突  (青空文庫)
短編。著名な南堂伯爵未亡人の裏面を探り当てた新聞記者の私は、恐喝の目的で、大久保にある彼女の自宅を訪れるが…。「ホホホホホ。わかりましたわ。あの家政婦からお聞きになったのでしょう。説明なさらなくともいいのよ。白状して上げるから待ってらっしゃい」──。未亡人の深刻化した趣味と、伯爵の死後に取り付けられた“煙を吐かぬ煙突”の恐ろしすぎる秘密を描いた猟奇ミステリー。

支那米の袋  (青空文庫)
短編。米軍司令官の息子・ヤングと恋仲になった露人の踊り子・ワーニャ。彼の発案で、麻袋の中に隠れて軍艦に乗り込んだワーニャだが、なぜか別の女たちも軍艦に担ぎ込まれていた…。「あんまり綺麗で可愛いから、殺してみたくなったのです」──。一番ステキな「日本式の遊び」に取り憑かれた女…。戦慄のホラー・サスペンス。

芝居狂冒険  (青空文庫)
掌編。材木屋で働いている芝居狂の青年・万平。桃割れの可愛い娘が、色魔らしい男にダマされて、駆落ちの約束をしているのを聞いた彼は、娘の父親や警察に事情を話すが、まったく相手にされず…。「そうだ、俺は今夜、生命(いのち)がけの冒険をやって、その大間違いを喰い止めなければならない主役(たてやく)なのだ」。正義のヒーロー(ヒロイン?)の誕生に大拍手!! お気に入りの一編。

巡査辞職  (青空文庫)
短編。深良屋敷の老夫婦が惨殺された。老夫婦の娘と結婚した婿養子・深良一知が犯人だと直感した草川巡査だが、なかなか凶器が発見されず焦燥する…。「ウム。これは名案だ。今まで気が付かなかったが…ナカナカ君は熱心ですなあドウモ。どこから思いついたのですか。そんな事を…」。凶器の発見方法が面白い本格推理。

少女地獄 何んでも無い  (青空文庫)
中編。彼女は一個のスバラシイ創作家に過ぎない──。姫草ユリ子を看護婦として雇った開業医・臼杵。彼女の仕事振りは見事で、患者から絶大な人気を得るが、彼女はとんでもない虚言癖の持ち主だった! K大病院・白鷹助教授のもとで看護婦をしていたという彼女だが…。虚構という名の傑作を創出したゆえの破局を描く。
少女地獄 殺人リレー  (青空文庫)
短編。「女車掌になんかなっちゃ駄目よ」──。運転手・新高が危険な人物であると知りながら、内縁関係になったバスの女車掌・トミ子。親友・ツヤ子が殺されたように、自分も新高に殺されると確信するトミ子だが…。「シマッタ。ヤラレタ…ツヤ子の怨みだ…畜生…ツヤ子だ」。
少女地獄 火星の女  (青空文庫)
短編。女子高の物置の廃屋で少女の焼死体が発見された。「火星の女」こと甘川歌枝が焼身自殺したのだ。聖人君子と評判の校長・森栖の色と慾にまみれた正体…。「現代の文明は男性のための文明」とのたまう男のエゴ…。「私の肉体は永久に貴方のものですから…ペッペッ…」──。不幸で淋しい少女の悲しい復讐を描く。

冗談に殺す  (青空文庫)
短編。活劇女優だった女と毎晩、媾曳(あいびき)するようになった新聞記者の私。彼女が、動物を虐殺する変態性癖の持ち主であると知った私は、完全犯罪で彼女を殺害してしまう。下宿に帰った私は、何気なく鏡の中の自分の姿を見るが…。「この鏡の事は全く予想していなかった」。自分自身のことは自分自身が一番よく知っているという真理を描いていて面白い。「……オレダヨオ——オ——」。

木魂(すだま)』  (青空文庫)
短編。妻と子供を相次いで亡くしてから、「今日こそは間違いなく汽車に轢き殺される」という気味の悪い予感に襲われるようになった小学校教師。“正体の無い声”に呼びかけられるという少年時代からの不思議な体験…。「お父さんが悪かった。モウ…もう決して、お父さんは線路を通りません。…カ…堪忍して…堪忍して下さアアア——イ…」──。悲劇的な運命に引き寄せられていく男の姿を描いたシリアスもの。声の正体は?

ドグラ・マグラ  (青空文庫)
長編。
……私は誰だろう……誰だろう……私の過去とこの事件の間にはドンナ因果関係が結ばれているのだろう……。

……ブウウウ──ンン──ンンン………。時計の音で眼を覚ました主人公の青年は、自分が九州帝国大学の精神病科の入院患者であることを知る。

「……ここは……九州大学……」
「……さよう……ここは九州大学、精神病科の第七号室でございます。いかがでございましょうか……もはや御自分のお名前を思い出されましたでしょうか……御自分の過去に関する御記憶を、残らず御回復になりましたでしょうか……」

過去の記憶を完全に失っている青年は、「精神科学応用の犯罪」を研究している法医学者・若林鏡太郎のもと、記憶回復に努めることに。

「狂人の解放治療」という実験を行っていた精神科学者・正木敬之が遺した論文や遺言書など、膨大な調査書類を読み終えた青年の前に現われた人物は、何と一ヶ月前に自殺したはずの正木だった!

「ワッ……正木先生……」
「ワハハハハハ……驚いたか……ハハハハハハハ。イヤ豪(えら)い豪い。吾輩の名前をチャンと記憶していたのは豪い。おまけに幽霊と間違えて逃げ出さないところはイヨイヨ感心だ。ハッハッハッハッハッ。アッハッハッハッ」

呉一郎が起こした実母・千世子殺しと許嫁(従妹)モヨ子殺しの怪事件の真相と、一千年前から呉家に伝わる絵巻物の秘密…。「心理遺伝」の暗示によって呉一郎を発狂させ、事件を引き起こした怪魔人(犯人)は一体? そして主人公の青年は果たして呉一郎なのか?

「……兄さん兄さん。一郎兄さん。あなたはまだあたしを思い出さないのですか。あたしです、あたしです……モヨ子ですよ……モヨ子ですよ。返事をして下さい……返事して……」

「輪廻転生」、「変態性欲」、「夢中遊行」など様々な要素を盛り込みながら展開される奇想天外なストーリー。二転三転の仕掛けと、真犯人が明らかになる驚愕のラスト! 頭が「ドグラ・マグラ」(幻魔術)にかかること必至の探偵小説の最高到達点にして一大思想小説。

途中の論文部分は正直読み進めるのがちょっとシンドイのだが、ここで挫折してしまっては勿体ない。正木が登場する場面から一気に面白くなるのでガマンガマン。

二重心臓  (青空文庫)
長編。
劇場主・轟(とどろき)九蔵が大森山王の自宅で刺殺された事件は、犯人の逮捕・自白で解決されたかに思われたが…。

「あたし……あの呉羽(くれは)って女(ひと)……キット深刻な変態心理の持主だと思うわ」
「ヘエッ。驚いたね。それじゃ……つまり同性愛だね」。

肉親同様の保護者だった轟九蔵を喪った呉服橋劇場のスター女優・天川呉羽が計画する世界に類例のない引退興行! 満員の観客が注目する中、事件の真相を暴露する探偵恐怖劇の幕が上がる…。

「事件全体の一番ドン底に隠されている最後の秘密よ。トテモ神秘的な……そうして芸術的にも深刻な秘密よ」。

えッ!?と驚くこと必至の主人公の秘密と殺害動機が主眼の本格探偵小説。戦慄的なクライマックス!

人間腸詰  (青空文庫)
短編。世界が丸いお蔭で、あっしが腸詰(ソーセージ)になり損なった話──。博覧会に出展するため、アメリカにやって来た大工・治吉。中国人の美女・チイ嬢に誘惑され大喜びの治吉だが、彼女はギャングの親分・デックの妾だった…。一人称による楽しい文体だが、内容はとってもホラー。「わんかぷ、てんせんす。かみんかみん」。

一足お先に  (青空文庫)
中編。
肉腫のため、右足を切断した青年・新東(しんとう)だが、気味のわるい「足の夢」、「自分の足の幻影」に悩まされる。病院の副院長・柳井の話によると、手術の直後に「神経衰弱」になったり、「夢中遊行」を起したりすることがあるのだというが…。
「歌原未亡人は、貴方(あなた)が殺したのでしょう。そうでしょう。それに違いないでしょう」──。深夜の特等病室で、千万長者である歌原男爵の未亡人が斬殺された事件の真相は? 二転三転の意表の展開に、思わず「エッ!」と驚くこと必至の怪奇幻想ミステリー。
「足の夢は新東さんの十八番(おはこ)なんで……ヘエ。どうぞあしからずってね……ワハハハハハハハ」。

瓶詰地獄  (青空文庫)
掌編。漂着した無人島で、たった二人きりで暮らす兄・市川太郎と妹・アヤ子。年頃になり、美しく成長していくアヤ子の肉体。いつしか心惹かれ合うようになった二人だが、神様の責罰(いましめ)を恐れ、悩み苦しむ…。地上の楽園イコール地獄という構図が面白い。

復讐  (青空文庫)
短編。藤原家の養女・品夫(しなお)と婚約中である藤原病院の院長・健策だが、品夫から「殺された実父の讐敵(かたき)を討つまでは結婚できない」と言われ、困惑する。懇意になった患者・黒木繁に、品夫のことを相談する健策だが…。二十年前、品夫の実父・源次郎が崖から墜死した迷宮事件の真相は? 「それならば試しに、この事件の三ツの要素を、一ツ一ツに分解して考えて御覧なさい。そんな有り触れた殺人事件なぞより数層倍恐ろしい……戦慄すべき出来事となって、貴方がたの眼に映じて来はしまいかと思われるのですが」──。モノマニア(偏執狂)を扱った本格探偵小説。「…むむッ…チ…畜生ッ。もう…来…た…か…」。推理力が要求される作品。

名娼満月  (青空文庫)
短編。京都の花魁・満月を巡って競争する三人の馴染客。あえなく身代を使い果たし、満月に「男は恥を知んなんし」とけなされてしまった若侍・銀之丞と町人・千六は、結託して復讐を誓うが…。「やおれ…身請けした暁には、思い知らさいでおこうものか。ズタズタに切り苛んで、青痰を吐きかけて、道傍に蹴り棄てても見せようものを…」。果たして二人は、競争に勝った金丸長者を見返すほどの大金をこしらえて、満月への怨恨を晴らすことができるか? 銀之丞と千六のそれぞれの金儲け話が突飛で面白い。“呉越同舟”的な意外な結末にしんみり。

冥土行進曲  (青空文庫)
短編。大動脈瘤で余命二週間だと宣告されたQ大の柔道教師・友太郎は、父を謀殺した伯父・須婆田(すわだ)と毒婦・玉兎(ぎょくと)に復讐するため上京する。伯父の居場所を突き止めた友太郎だが、伯父は暴力団に殺されてしまい、玉兎女史にも逃げられてしまう…。「オホホホホホ。初めてお眼にかかります。妾(わたし)は伯父様に御厄介になっております玉兎で御座います」──。友太郎がまんまとダマされた須婆田と玉兎の“計略”を描いたユーモア・サスペンス。シリアスな復讐譚かと思いきや、楽しい奇術的な仕掛けの連続!

眼を開く  (青空文庫)
掌編。創作に専念するため、山奥で隠遁生活を送る作家。私のために毎日往復八里を歩いて郵便物を届けてくれた配達手の忠平が、吹雪の中、行方不明になってしまう…。利己的な、唯物弁証的な考え方だった私に起こった「ひとつの大きな奇蹟」を描いて感動的。



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